第34話 トレッガー・コンボイ大集合
俺はなぜだか、このタタログたち
「こちらはありがたいばかりだが、あなた方は本当にそれでいいのか?」
滅びを待つばかりの種族。人間よりもはるかに長い命を生きる間、さしたる欲を抱くこともなく、来訪者に助言だけを与えて自らは動かない――滅ぶ運命だから仕方ないのか、それともそんな風だから滅ぶのか?
「奇妙なことをいう……我々にこの上何を為せというのかね?」
「私にもよくわからん。だが、あなた方を見ていると、私自身の生き方を、疑念を持って顧みずにいられなくなるのだ。それがひどくもどかしい」
ロランド家の家産は代を重ねるごとに傾き、領地も減る一方。それでも俺の一門は栄達を求めて仕官を続け、どうにか子を生し誇りを受け継いで、精一杯に生きてきた。
グル・ウルの達観と無気力さを目の当たりにすると、なにやら一門の在り方を否定されているように感じられるのだ。
「そうは言われてもな……」
「あなた方は自分たちについて語ることはしても、我々人間にはあまり興味がないようだ……しかし!」
何かひどく衝動的に、俺は誓いのようなことを口にしていた。
「私、ロンド・ロランドは近い将来、必ずまたここを訪れよう。その時にはきっと、外界で私が、我々人間が為した事について語らせてもらう……あなた方が目をみはり耳をそばだてずにいられないような、驚きと昂ぶりに満ちた物語を」
タタログは人とは異なるその顔面の筋肉を動かし、彼らなりの微笑を形作ったようだった。
「そのような約束をされたのは初めてのことだ。だが、期待して待つとしよう」
* * * * * * *
クロクスベは遺跡を離れ、いったん進路をジャクソ村へ向けなおしていた。
「方位と距離の記録は取り続けているよな?」
「もちろんだ。我々は艦を動かすために派遣された専門家だぞ」
コルグが船長たちとそんなやり取りをしている。
本来この遠征の目的は、古代の
そこで、コルグは一定数の重戦甲を運び出すことまでを視野に収めることにしたのだった。
「俺に遺跡の話をしてくれた古老は、別に一線を退いたご隠居とかじゃないんだ。ジャクソに事務所を構えて、いくつものキャラバンや個人営業の運び屋を取り仕切ってた顔役なのさ」
「ほほう。すると今でもそのご老人は、その手の連中に顔が利くわけか……」
「そういうこと。少し時間がかかるけど、かなりの数の
「なるほど、それは私としても痛快だな」
俺は今のところ、クロクスベを取り戻して部下と一緒にラガスコへ帰るのが目的だ。
クルーマー・ジャズマンに恨みというほどのものはないが、他所の軍の船をなし崩しに接収していいように使おうとするような男には、せいぜい散財させてやればいいと思う。
やがて、船の前方斜め下に、岩山のふもとに貼りつくように広がった、鉄板の外壁に守られた集落が見えてきた。風景の基調となる色には違いがあるが、どこかラガスコの基地を思わせるたたずまいだ。
村はずれの広場へ船をつけ、商工会の看板を掲げたバラックに顔を出して案内を請うた。この間はずっとコルグ本人が前面に立った。
「――ダ・マッハの坊主じゃないか! いつ帰ってきた!?」
受付にいた中年の男が驚きの表情を見せる。
「たった今来たところさ。パール爺さんはまだ元気かな?」
「そうか! ああ、爺さんなら相変わらずだよ。さすがに村の外に出ることはなくなったけどな。貨物集配所にいると思うから、行ってみるといい」
「ありがとう」
村の南側にあるゲート付近に、クヴェリの市場にも匹敵する大きさの集配場があった。さすがに重戦甲は見かけないが、何輌もの
俺たちが近づいていく最中にも、輸送車の後ろにトレッガー用の追加キャリアーをけん引した、即席のトレーラーが入ってくるところだった。
「……何を運ぼうというのだ、あれは」
「何でも、かな。この土地じゃ、とにかく車輛がない事にはほとんど身動きが取れないからね。屑鉄から軽歩甲、水のタンク、家畜に人間、積めればなんだって運ぶのが彼らさ」
「
「運ぶだけなら、あれでもなんとかなると思う。あの車の人、すごくいいタイミングで来たと思うよ」
なるほど。何か運ぶものを引き受けに空荷でやってきたところで、コルグの持ち込んだ話を聞くことになるわけか。
パール氏は、集積所の片隅の小屋で電話をかけているところだった。
――だから! テスコのやつに言っといてくれ、来週までにあのアリエスを直しといてくれって。ああ、料金は割増しで払うよ! ロベックからの岩塩と銀の積み出し期日が迫ってるんだ!
がちゃん、と音を立てて電話が切られた――クヴェリでも思ったが、この手の電話機をみるとものすごいノスタルジーを感じる。昭和か。
通話が終わったのを見計らってコルグが声をかける。
「パールさん。お久しぶり」
「あ……おお!? コルグ? お前、コルグ坊か!!」
一瞬呆けたようになった老人が、すぐに精気を取り戻して満面に笑みを浮かべた。
「立派になったなあ、見違えたぞ! そういえばさっき、見慣れない空中船が着いたようだったが……ありゃあ、まさか坊のか?!」
「いや、あれは……」
――あー、エヘン!
コルグが言いよどんだところへ、咳ばらいをして口をはさむ。
第三者に対してくらいは本来の帰属を主張しておきたい。
「あれはクヴェリの商工会からドローバ・ハモンドの軍が預かったもので。現在はソステヌートの商人、ジャズマン氏からの出資を頂いて辺境の調査に来ております」
「コルグ坊、この人は?」
「ああ、こちらはそのハモンド軍の騎士の人で……」
「筆頭騎士、ロンド・ロランドです! お見知りおきを」
その後しばらくバタバタと自己紹介や説明が続いたが、どうにかコルグが用件を伝えることができた。
「じゃあ、あの遺跡が見つかったのか……!」
「ええ。ほぼ間違いなく。十分な準備があれば、あなたが昔見た重戦甲らしきマシンを運び出せると思います」
「そうかあ……! あれをな。さすがにもうあきらめかけておったが……わしのこの四十年は無駄にならなかった!」
それからしばし、老人の昔語りが続いた。
「……それでな、明かりが灯ってたんで思い切って中に踏み込んだ。手つかずの食料と水が保管されてるのを見つけて、バカみたいに貪り食ったもんだ」
「ええ、それで奥に進むと格納庫があったんですよね。何度も聞きましたから覚えてます」
(コルグ君、ダメだぞ、そんな風にお年寄りの話を『もう聞いた』とさえぎってはいかん……)
「こらお前、その顔!! 『お年寄りの話をさえぎってはいかん』とか思っとっただろう! 誰が年寄りだ誰が。失敬な騎士だな!!」
「なんとぉっ!?」
考えを読まれるのはともかく、なんで俺が叱られるのだ。横で見ていたリンが、吹き出しそうなのを口を押さえて耐えているのも微妙に腹が立つ。
「……それでなあ、中にはマシンがたくさんあったが、わしは操縦なんて学んでなくてな……持ち出せんかった。それで、何とか砂嵐をもう一度抜けて、街道に戻ってから――」
くどくどと話が続く。以来彼は軽歩甲を手はじめに歩行マシンの操縦を学び、商売に精を出して資金を貯え、仕事の暇ができると何度も砂漠へ出かけて遺跡を探し続けたのだという。
要するに宝の山から
結果的に遺跡は見つからなかったが、商人としては大成できた、という自慢話のオチだった。
「いやあ、まさかそれを坊が見つけてくるとはなあ。親父さんといいお前といい、なにかこう、世間の連中とは違って「持って」おる奴らと見込んではいたが……」
「ウナコルダで戦乱が激しくなる兆しがあるんです。そのマシンを出来るだけたくさんソステヌートまで運びたい……パールさん、顔の効く運び屋やキャラバンに、声をかけてくれませんか」
「任せろ! だが、何輌かはこちらでもらうぞ。ジャクソにも、もっと防衛力が必要だからな……何より、わしも一度くらいは乗ってみたい!」
「……乗るおつもりか」
無茶すんな爺、と言いたいところだったがさすがに控えた。
「あそこには三十輌くらいあった。動くものの数次第だが、最大で五輌までは権利を保留したいな」
「それは、何とでもなると思います。数の申告は向こうへの報告時に確定すればいいので」
それからジャクソで待機すること、三日――いよいよ出発という日には、本式の運搬車に即席の代用車輛、それに護衛の軽歩甲まで加えれば総勢四十台ほどの車輛が、集積所に入りきらずゲートの外まで、長蛇の列を作っていた。
クロクスベがふわりと彼らの上に浮かび、最も遅い車輛の速度に合わせてゆっくりと動き出す。パール氏を艦のブリッジに迎え、調査隊は再び砂漠の遺跡へと出発したのだった。
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