クエスト
バルカンのギルドに依頼は絶えない。
例えばバルカンという街の位置。
ミクニヤ大陸の最東に位置しており、内陸に位置するミクニヤからバーン大陸に物資を輸送する際は運河陸路どちらも必ずバルカンを経由する必要がある。
運河を利用する場合は船で移動するため輸送時間はそこまでかからないが、バルカンに向かう支流は人の手によって安全性が確保されているのに対し、その本流は多種多様な生物が棲む大自然の本拠。
魔物が現れた場合は船上、水中線を余儀なくされ、船が壊されれば全てが水の中となる。
また海を経由するルートもあるにはあるが、現状大半の海や大陸を魔物に占領されている中で一切手の届かない海を渡るというのは自殺行為でしかない。
それこそ流出が認められていない密輸船しか通ることはないルートだ。
では陸路はどうかと言われればそちらも苦難の道のり。
まずミクニヤとバルカンの間には強大な魔物が巣食う山があり、陸路で素早く輸送するためにはその山を通らなければならない。
だがそこもまた魔境。
何も対策していないのは論外として、中堅程度の冒険者でも雀の涙程も役に立たない死の道だ。
それならば迂回した方が良いのではないかと思うかもしれないが、迂回するルートは大陸の最南端を経由するルートのみ。
かかる時間はその倍以上となる。
その分冒険者のランクはそこまで高くなくても大丈夫だが、運悪く山から強大な魔物が降りてきてしまった場合は自身の運を呪い一縷の生存にしがみ付くしかない。
あくまでこれは一番厳しい輸送先と言われるミクニヤを例に挙げているだけで他の街はこれほどの悪路を行かされるわけではないが、大なり小なりの危険性と横を歩くことになるのは間違いない。
例えばバルカンが抱える冒険者の質。
学び舎の戦績関係なしにバルカンの冒険者は優秀とされており、わざわざ数日の危険な旅路を通って依頼をしてくる者までいる。
またギルドにもそれぞれ特色があるため、この街で冒険者をやっていたからこっちの街でも同ランクの冒険者として活躍する、ということは通常できないのだが、バルカンの冒険者というだけである程度のギルドはそれが罷り通ってしまう。
英雄級の力を持つギルドマスターの存在も大きい。
以上のことから、バルカンのギルドには毎日クエストが舞い込んでくる。
そのクエストをこなして生活していくのが、冒険者というものだ。
「いつもありがとうね、ミルキちゃん。これが証だよ」
「ありがとうございます。機会があればまた」
「是非頼むよ」
ミルキが受け取ったのはギルドがクエストを受ける際に依頼主へと渡す、クエストが達成されたという証だ。これがなければ冒険者はクエストを達成されたとみなされないため、依頼主から必ず貰う必要がある。
過去には証だけを奪い取ったり、その事を報告されないように依頼主を殺害してしまったりする冒険者もいたのだが、クエスト達成の際には事後調査もしっかりと行われているので偽装はできない。
また逆に依頼を達成しても何かと理由を付けて証を渡さない、というパターンも存在するが、その場合はギルドよりも上の存在が動くため当然不正はできない。
表向きは信頼関係で、裏を見ればしっかりとした監視体制が敷かれている。
「まだクエストは残っているのかい?」
「はい、ブエナ大森林でバーバリアンとスケルトンの討伐があります」
「わざわざありがとうねえ。あそこは私達にとって生命線だから———あれを渡してやってくれ。六人だと少ないかも知れないけど水と食料だよ」
「ありがとうございます。有難く頂きます」
「皆も頑張ってね」
依頼主の従者から食料と水の入った包とを激励を貰った一同は、街の中へと入っていく依頼主と従者を見送って一息付く。
「あの人から何回か依頼受けているんですか?」
「うん。ロロさんはシールスの重役。大陸南側のクエストを受けるついでに護衛を引き受けているの」
シールスはバルカンの南側に位置する街。
そこまで大きい街ではなくバルカンから程近い街という事もあって、所在するギルドもバルカンの管轄になっている。
今回の依頼はバルカンからシールスまでの護衛。
比較的安全な道ではあるがもしものことがあってはいけない、ということでミルキが多くクエストを受けている依頼主の一人だ。
難易度はE級。
護衛の中では最低難易度に位置しているだけあって今回魔物と遭遇することは無かった。
「それで次はどうするミルキ」
「疲れていないならそのままブエナ大森林に向かう。疲れているならシールスで少し休憩してから行こう」
「俺達は大丈夫だが、トーゴとリッカは大丈夫か?」
「ありがとうございます、ビーさん。僕は大丈夫です」
『私も平気です』
「うん。じゃあ行こう」
今回のパーティーはミルキをリーダーに、トーゴ、リッカ、ビー、サナ、クロの六人。新入生はある程度固めた方が良いという方針の元、一度試合したことのある二人が組み分けられた。
前衛がトーゴとビー、中衛がミルキとリッカ、後衛がサナとクロという見た目的には非常にバランスの良い編成だ。
シールス周辺の道中は比較的安全な地域と呼ばれている。
現れる魔物もかなり弱くかなり開けた場所なため、雑談をするにはうってつけの場所でもあった。
「そういえばトーゴはミルキと仲良いんだよな。結構な頻度で一緒にいるし。もしかして付き合っていたりするのか?」
「いえ、ただミルキさんの経営している宿に二年間居候させて貰っていただけです」
「トーゴは弟みたいな感じ。世話は焼けないけど」
ビーはミルキと同じ二年生。
同じ前衛を張る者ということもあって、トーゴに対してかなり気さくに話しかけてくれる青年だ。
「あの宿か。レイオス様が結構な頻度で利用していると言っていたけど、トーゴは会ったことあるか?」
「勿論ありますよ。話かけることもできないくらい、何と言うか、大きい人っていうんでしょうか。だからあまり話したことはありませんね」
「それでも話したことはあるのか。良いなあ。俺も一度で良いから英雄に会ってみたいよ」
当然といえば当然だが、トーゴとレイオスの仲はある程度伏せられている。
冒険者もそれなりに在籍している学び舎で「レイオス様が連れている子供がいる」という噂があっても「それはトーゴである」という噂が一切ないのはそういうことだ。
精霊魔法も見たことが無い人が多い、見ても精霊魔法なのかどうかは分からないということで使えているが、もし別の判別方法が見つかった場合は使用をさらに厳しく制限する必要が出てくる。
そしてレイオスの連れている子供について、有力な説が一つだけ存在あった。
「そんなレイオス様の師事を受けていたミルキちゃんはやっぱり流石よねー」
「……僕も中衛ぐらいはできた方が良いのかな」
それが「連れていた子供がミルキである」という説だ。
あれだけ頻繁に宿を利用していて、しかもそこの子供が学び舎でも類を見ない強さを持っている。
いの一番に上がる話だろう。
「サナさん、確かに少しは教えてもらったことありますがその子のついでです。一緒に外に出たことはありません。クロさんも魔法の腕は凄いのですから、前に立とうとかそこまで考えないでください。役割分担です」
サナは三年生でクロは四年生。
性格は対照的な二人だが、実力は学び舎の生徒の中でも高い水準に位置している。
「うん……そうだね」
「でもミルキちゃんじゃないとしたら本当に誰なんだろうね。ミルキちゃん教えてよー」
「言えない」
「もしかしてトーゴくんとか?」
「何も言えない。そこはレイオス様が隠しているから、もし言ったら何されるか分からない。それは怖い」
何かされるから怖くて言えない。
これはレイオスがそう言っておけば何とかなる、と言っていた方法だ。
案外これで追及は無くなるから重宝している。
「ミルキちゃんにも怖いことがあるんだね……でも背丈的にはそろそろ学び舎に入ってくるころだよね?」
「もしかしたら学び舎には入らないのかもしれない。レイオス様と一緒に居られるなら学び舎に入る必要はなさそうだし、そもそも冒険者になるかどうかも怪しい」
「確かに学び舎に入る必要がないのか。住む世界が違い過ぎてちょっと分からないや」
だがいくら開けている場所で出現する魔物が弱いとは言っても、魔物が蔓延る世界を歩いているのには少し不用心が過ぎるかもしれない。
そうではなくてもトーゴ、そしてミルキとしてはあまり入りたくない会話であり、リッカも雑談で不用意に魔力を使わないように会話に入ることもなく黙々と後ろをついている。
次の目的地はブエナ大森林。
シールスの南西部に広がる広大な森のことで、植生している大半がブエナという木で構成されていることからその名前が付いた。
ブエナは葉を多く生い茂らせる木で、森の中はほんの少しの木漏れ日と吸い込まれるような闇が広がっている。
人が住むにはあまりにも条件が悪い世界であり、特定の魔物にとっては絶好の棲み処だ。
しかしブエナは丈夫で湿気に強いこともあって建材として重宝されており、バルカンの建造物は大半がブエナを元に作られている。シールスの経済の要でもあるため、ブエナ大森林に関するクエストはかなりの頻度でギルドへと舞い込むんでいる。
今回はブエナ大森林の北側にある洞窟に棲み始めたバーバリアンと、その中央に出没したスケルトンの討伐クエストだ。
まずは最寄りのバーバリアンから。
バーバリアンはE級に分類される魔物で、十体以下の群れで行動する。筋肉質な見た目の通り力が強くスタミナもあるが、知能が低いため攻撃が単調で対策をすれば基本的に倒すことは難しく無いこと、定住を始めて数日しか経っていないことから規模も小さいことがあり、難易度はランク通りのE級となっている。
トーゴとリッカもこの数日で何回か倒したことがある魔物だ。
だが弱い部類とは言っても魔物は魔物。
最弱と呼ばれるスライムですら死者が出ている状況下で、それよりも格上のバーバリアンにやられないという絶対の保証はない。
「もうすぐ。ここで一旦休憩しよう」
「了解。それにしても相変わらず遠いな。また日を跨ぐか?」
ギルドの通常クエストということもあり、日を跨ぐ必要のあるクエストは数多くある。
それは距離的な問題が大半であり、やはりというべきか今回も日を跨ぎそうな雰囲気をビーは敏感に察していた。
「えー、お風呂入れないのヤダなー」
「文句を言っても仕方ないですよサナ。まずはご飯にしましょう」
「うん。ロロさんから貰ったのから食べちゃおう」
ミルキは護衛の依頼主であるロロから貰った包みを開けた。
中に入っていたのは拳サイズのおにぎりが人数分だ。
本当に簡易的なものだが旅路にはこれぐらいの簡易さが丁度良い。
本来食料を持って行く必要のないロロがこれを持っていたという事は、元々渡す予定だったということだ。
その好意に全員が感謝した。
「おいしー」
「おいしいけど、やっぱり肉欲しいな」
「あ、それなら狩ってきましょうか? この平野なら色んな動物がいますから」
「……いや、大丈夫だ」
冒険者の食事は質素になりがちだ。
そのため現地調達をすることも多々あるのだが、ポロッと出た一言で本当に狩りを始めようとした新入りにビーは思わず苦笑してしまった。
「それにしてもトーゴもリッカも体力あるよな。俺なんて去年シールスに着いた時点で結構キツかったぞ」
「トーゴは私と毎日試合していたからね。これぐらいは何ともない」
「お前と毎日か……絶対にやりたくねえな」
ミルキとの試合を思い出し、ビーは口元を引き攣らせた。
結果はミルキがアルス以外に無敗で通っていることから言わずもがな、と言ったところだ。だが別の角度から、その内訳に身体を乗り出してくる程の興味を持つ者がいた。
「え、もしかしてミルキちゃんに何回か勝ったことある?」
「いえ、一度もありません」
「うーん、やはりミルキちゃんが化け物———何でもないよ、ミルキちゃん」
化け物、という単語を出したと同時にミルキに睨まれて、サナは蛇に睨まれたカエルのように縮こまった。
人を表す表現というにはあまりにも不適切なので非はサナにあるのだが、化け物と呼ばれる程の実績を残したのも事実だ。
「皆さんは勝ったことあるのですか?」
「いや、この学校だとミルキに勝てるのはアルスだけですね。他は去年全員が負けています」
「いやでも待って! リッカちゃんなら或いは……!」
「…………ッ!!」
突如として向けられた矛先に、リッカはブンブンと首を振った。
しかし退く姿勢を見せなかったのは、意外にも当事者であるミルキだ。
「本気のトーゴに勝ったリッカさんなら私も危ないね」
「へえ、ミルキがそういうなんて珍しいな。いつもなら「私は負けない」とか言うのに」
「変な真似はやめて。似てないから」
「まあでも、確かに言っているね。言わなかったのはアルスの時だけじゃない?」
「あー対抗戦の選手決めるときのやつか。あの時の試合は凄かったな」
「僕もう四年目だけど、学び舎対抗戦の本戦含めてあの試合が一番白熱したと思う」
「それはそれでどうなんでしょうか……?」
本戦よりも激しい試合を選手決めの段階でやってしまうのは問題だが、それ程二人のレベルが異次元だという証明でもある。
トーゴとしても一度見てみたい組み合わせだ。
「今年は誰にも負けない。トーゴにもリッカさんにも、そしてアルスにもね」
「……今年こそは個人戦に出ようと思っていたが、これは想像以上に荒れそうだな」
「僕、今回は見るだけで良いかなあ……」
「クロさんは今年最後なんですから、一緒に出ましょうよ! 私も頑張ります!」
同じ釜の飯を食べた仲、とはまた違うかもしれないが、食事の時間を共にしたことは少なからずパーティーの親睦を深めることに成功していた。
それは食事の後、森までの道中まで続いていたのだが、森に入るころには張り詰めた緊張と臨戦態勢を保ちながら各々が引き締めた表情で周囲を警戒していた。
先導者はビー。
リーダーということもあり立場上はミルキが妥当だが、今回は中衛ということもあって前衛のビーが抜擢された。
そして最後尾はトーゴ。
最後尾は背後から襲われた際どれだけ素早く立て直せるかの要となるポジションであるため新入生のトーゴに務まるのか、という心配の声が上がったが、ミルキが問題ないと断じたことでこの形に収まっている。
「……あそこだ」
「了解。皆一旦隠れて。クロさん、周りに魔物の気配は?」
「了解」
立ち止まり、全員が身を隠したのを確認してからクロは目を閉じた。
その瞬間クロから魔力の波紋が広がっていき、波紋に触れた魔力が呼応するかのように共鳴を起こす。
クロが使った魔法は探知魔法。魔力の波紋に触れて共鳴した魔力を探知するというものだ。魔力の共鳴は無意識下に起きるものであり、その共鳴があるかどうかでそこに何がいるのかを判断する。
もし気づかれた場合は術者と対象に大きな実力差があるのか、それとも相手が魔法に敏感なのかのどちらかだ。
探知魔法を使ってから数瞬。
目を開いたクロの表情が厳しいものへと変化した。
「……少しある。けど洞窟の中に反応は無い」
「…………」
その報告は、クエスト対象であるバーバリアンの存在を否定するもの。
先に冒険者が倒してくれていた、またはバーバリアンがそもそもいなかったというのなら話は簡単なのだが、前者は報酬を望まない善人で後者はギルドに嫌がらせをしたいのか献金したいのか分からない存在ということになる。
そんな希望的観測を当てにはできない。
普段無表情のミルキだが、珍しく硬い表情を浮かべた。
それから数秒の長考。
上げた顔は、トーゴを真っ直ぐに見つめていた。
「……トーゴ、どう思う」
意見を求めたのは同学年のビーでもなく、上級生のクロやサナでもない。
その事実に三人は少し驚いたような顔を浮かべたが、旧知の仲である以上トーゴのことを知っているのはミルキの方だ。リーダーとしてトーゴに聞く判断をしたミルキに異を唱える者が居ないところにミルキに対する信頼が伺える。
「魔物にやられたんだと思います。一番可能性があるのはスケルトンかな」
「私もそう思う」
「確かにスケルトンはここからさらに奥だったな」
魔物と一括りにされているとはいえ、種族が違えば当然争いは起きる。
例えばバーバリアンは自身の群れ以外は他のバーバリアン含めて全てを敵と判断して襲い掛かり、スケルトンも同種族以外には同じ魔物だろうと容赦なく襲い掛かる習性がある。
両者とも棲む環境が似ているため、対峙したとしても不思議はない。
だがその程度の話ならばミルキ一人で即断する。
問題はその先だ。
「クロさんの探知はどれくらい正確ですか?」
「クロさんの索敵は学び舎でもトップクラス。魔力の波長でそれが魔物か動物かはハッキリと分かるぐらい正確に探知できるし、感じ取られたことも今まで無い」
「そういうことですか……」
「ごめんね。何を悩んでいるのか分からないんだけど?」
トーゴとミルキが同じ領域まで到達したところで、サナから待ったがかかった。
「バーバリアンとスケルトンが縄張り争いしてバーバリアンが負けただけじゃないの?」
「俺も二人が何を悩んでいるのか分からない。洞窟の中にバーバリアンがいないかを一応確認して、そのままスケルトンを倒しに行けばいいと思うが」
それはサナだけではなくビーも同じだ。
そこまでは理解できたからこそ、何を悩んでいるのかが理解できなかったのだ。
だから同じところまで理解させるために、クロが道を示す。
「魔物や動物の死骸が偶然、または人為的に魔力を注ぎ込まれて魔物化したのがスケルトンですが、彼等は基本的に移動しません。ですが今スケルトンは洞窟にいない。ビーはどうしてだと思いますか?」
「普通にいなくなっただけだと思う。魔物なら良くあることだろう?」
「違うよビー。縄張りに棲みつく魔物、縄張りを広げていく魔物、そもそも縄張りを持たない魔物と魔物にも種類がある。スケルトンは基本的に縄張りに棲みつく魔物だから、一度持った縄張りを離れることは無いんだ」
「でもクロさん、結局スケルトンはいなかったんですよね? そんなに心配することなんですか?」
「場合によってはかなり危険な状況にあるかもしれない。だからトーゴとミルキは状況把握を行っているんだろう?」
「その通りです」
クロの質問に肯定を返したトーゴは、手を開いて前に出した。
それは現状考えられる可能性の数を示している。
「現在考えられる可能性は五つです。一つ目がスケルトン以外の魔物にバーバリアンがやられた可能性。これなら洞窟内に魔物がいなくても不思議ではありません」
「でも今日クエストを受けるとき、近くにバーバリアンを襲うような魔物はスケルトン以外いなかったから可能性としてはかなり低い」
「二つ目、他の冒険者が既に倒している可能性です」
「クエストが被ることはないし、近くを通ったからといって洞窟内にいるバーバリアンをわざわざ倒しに行くのはまずないと思う」
「僕もこの二つは違うと思います」
トーゴは指を一本ずつ折り曲げながら、現状考えられる可能性にミルキが相槌を入れていく。
「三つ目にスケルトンが本当に洞窟を離れた可能性です。スケルトンの習性としてはまずありえませんが、他の魔物が関与しているならあり得ます。そして四つ目がクロさんの探知が妨害されていて、実は洞窟の中にスケルトンがいる可能性です。その二つとかなり似ていますが五つ目にギルドが把握していない高ランクの魔物がいる可能性。僕はこのどれかだと思っています」
「私もそうだと思う」
「ちょっと待って」
考察に入ったと思ったらどんどん話を進めていく二人に、サナは再び待ったをかけた。
まず上級生の自分が下級生二人、特にトーゴの会話についていけていないことにも驚いたが、そこは一年生でエキスパートクラスに入って来たぐらいなんだから、で片づけられる。
問題はそこではなく、結論の部分だ。
「ごめんね。何が言いたいか分からないんだけど」
「申し訳ありません。簡単に言えばバーバリアンを倒したのはスケルトンでほぼ間違いありませんが、その後の行動から見て後ろに別の魔物がいるって話をしています」
今トーゴとミルキが挙げた可能性には、ある共通点があった。
それが背後にいる魔物の存在。
スケルトンが独自にバーバリアンを倒し、独自にその場を離れたというよりは余程現実味のある可能性だ。
だがその可能性は等しく最悪の可能性でもある。
「え、それってつまり……」
「はい、スケルトンよりも格上の魔物がいることになります。しかも一番可能性の高い魔物が———」
「———スケルトンキング」
誰かが固唾を飲みこむ音が聞こえた。
スケルトンキング。
その名の通りスケルトンを統べる王であり、本能に生きるスケルトンを思うがままに動かして一つの軍隊を形成するB級の魔物。討伐クエストも最低でB級以上が確定する魔物だ。
しかも現状難易度がB級以上と確定しただけであり、スケルトンの規模や場所によっては最大でA級にまでなる可能性もある。
いくら戦力が揃っているからといって安易に挑んで良い相手ではない。
「僕の探知に掛からなかった以上、できれば洞窟の中だけでも見ておきたいけど……」
「僕は一度引くべきだと思います」
「私もそう思う。皆も異論ある?」
否定の声は上がらなかった。
冒険者としているなら挑む選択肢もあったのかもしれない。
だが今トーゴ達はあくまで学び舎の生徒としてこの場にいる。
クエスト達成よりも無事に帰ることが先決であり、特にクエスト難易度変更の可能性があるのであれば退くのが正しい判断だ。
そういう意味では、ミルキの判断は何も間違っていない。
「では一旦退きます。後日安全が確保された時にもう一度———ッ!?」
唯一間違いがあるとするならば、その判断を下した場所だろう。
突如として放たれる不気味な魔力の波紋。
それを感じ取ったのは、探知に特化したクロとトーゴだけだ。
発生源は先程クロが誰もいないと言っていた洞窟の中から。
そして魔力の波紋はまさしく、先程クロが使っていた探知魔法のそれだった。
「スケルトンキングだ!」
最悪の可能性が、見事に当たってしまったのだ。
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