第35話 提案
「君達には私と共にレアン王国に来て欲しい。そこで、現国王から大遺跡の聖遺物を貰い受ける為の交渉を手伝って貰いたい」
アースさんが口にした言葉。それは常人からしてみれば到底正気とは思えない内容だった。
「……さすがに何かの冗談だよね?」
「いや、私は本気だよ。君達なら、あの人を説得できると感じたんだ」
エルンの問いに対し、彼は真剣な表情で答える。
どうやらふざけて言った訳でも冗談でも無いらしい。
そんな彼の様子を察したのか、エルンもそれ以上何も聞かないで居た。
「その、説得と言うのは? アースさんはレアン王国でも高い地位にあったんですよね? 既に自分では説得を試みて、それが不可能だったから私達に協力をして欲しいという事ですか?」
「ああ。情けない事に殆どその通りだ」
続いて口を開いたのはレナ。
彼女の語った予想をアースさんは全面的に肯定する。
「私が一番最初に大遺跡を攻略したのは、レアン王国の騎士として活動していた時だ。そこで見つかった聖遺物を手にした国王は酷く顔を歪めた後、誰の手にも触れられぬように聖遺物を厳重に管理する事にしたんだ。何度か直接聖遺物の解析や研究を進めてみてはどうかと言ってみたが……聞き入れられる事は無かった」
その時の事を思い出してか、彼は苦々し気にそう語る。
「だが、君達はかつての私達よりも大遺跡の深みに触れている。君たち自身が大遺跡を攻略した事実を考慮すれば、国王も考えを変えてくれるかも知れないと私は考えているんだ」
そう語るアースさんの表情は先程までの暗さが嘘の様に明るくなっている。
そんな彼を再び制する様にナイズ教官が口を挟む。
「だからと言ってお前はまだ若い冒険者たちに対して大遺跡の聖遺物の情報を意図的に伝えた挙句、自身の提案を蹴れば探索者としての退路を断つと言う手段をとるのか?」
「その事については誤解だ。勿論彼らが僕の提案を拒否したいと言うのであれば等級剥奪処分に関しては撤回し、今まで通りの活動を続けられるようにするとも。そもそも等級剝奪処分も一足飛びに彼らが等級に関係なく遺跡に立ち入る事が出来る様にするための一時的な措置だ」
どうやら等級剥奪処分は余りにも等級に差がある僕達とアースさんが同じ遺跡へ立ち入る為の建前の様な物で、もし彼の提案を断るのであれば今まで通り普通の探索者として活動出来る様だ。
その事を聞いた上でもう一度彼の提案の内容を確認する。
この提案を受け入れた場合、僕達はアースさんと共にレアン王国に行く事になり、そこで国王の説得に協力する。また、その成否に関わらず一部遺跡を彼と共に探索する可能性もある。
この場合の遺跡は、僕達の等級では到底見合わないような難易度と予測される遺跡にも立ち入る事になる為、危険度で言えば今までより遥かに高くなるだろう。
僕個人の意見であれば……この提案を受けたいと思って居る。
大遺跡での経験を経て、より一層遺跡に対しての興味が深まった。
身に迫るであろう危険に対する恐怖より、未知に対する好奇心の方が勝っている為に直ぐにでもこの提案を受けてしまいたい。けど……
「皆は、どう思う?」
それは僕だけで決められるものじゃない。
皆の意見を聞くために、僕は彼女たちに問いかける。
「私は大丈夫だよ!!」
直ぐに答えたのはリベラ。彼女も未知の遺跡への好奇心が強く、等級に関係なく様々な遺跡へと入れる点に魅力を感じたのだろう。
一方、エルンやレナは少し考え込んでいる様だ。
「う~ん……。聖遺物の売買が出来ないとなると、教会への仕送りがなー……」
「その点に関しては君達の働きに応じて相応の金額を支払わせて貰うつもりだ。通常の遺跡に潜り、そこから持ち帰った聖遺物を売却するよりも遥かに多い金額を渡すと約束しよう。それでも足らなければ教会に個人的な支援をしても構わない」
エルン達の悩みとしては聖遺物の売買に厳しい制限が掛けられ、教会への仕送りが出来ない事に対する不安だった。
それを聞いたアースさんは、やや食い気味に解決案を持ちかける。その口ぶりから、彼が僕達に相当な期待を寄せているのが窺える。
「そこまで言われたら……やるしかないかなぁ。レナちゃんは大丈夫?」
「はい。エルンが行くのなら、私も勿論ついて行きますよ」
その様子を見たエルンは、仕方ないなぁとでも言う様に首を縦に振る。
レナも彼女が向かうのならば異論はない様だ。
「……リオン君はどうかな?」
アースさんはまだ答えを口にしていない僕に尋ねる。
「やります。是非やらせてください」
彼の目を真っすぐに見つめてそう答える。
すると彼は安心したようにほっと息を吐き出した。
「ありがとう。君達の協力に感謝するよ」
そこでアースさんはふと隣を見る。
釣られて視線を向けると、そこではナイズ教官が不機嫌そうに腕を組みながら彼を睨んでいた。
「……お前達が良いのなら、私からは何も言うまい」
その割には眼がギラギラとした敵意で満ちているのは気のせいだろうか……。
アースさんはその視線を浴びて居心地が悪そうな表情をしながらも、今後の話を進め始めるのだった。
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