第34話 等級剥奪?


「お待たせ。次は遺跡から持ち帰った物の確認をさせて貰おうかな」

「分かりました」


 しばらくしてアースさんが僕達に話しかける。記録が終わったのか、遺跡の情報が書かれた紙を他の場所に纏めていた。その束の分厚さに戦慄しながらも、僕は持ち帰った物を取り出す。


 取り出された試験管に保管されている砂と植物。

 アースさんはそっと試験管を手に取り、じっくりと観察する。


「これが遺跡内から持ち帰った砂と植物か。何か分かるか?」

「この植物……一部分だけではあるけれど、表面の形状や内部構造を見るにこの大陸には無い種の様だ。そもそもこの植物が生えていた砂の海と例えられる様な地形はこの大陸に存在しないしね」


 ナイズ教官は植物などの知識が無いのか、あまり興味無さげに尋ねる。

 一方のアースさんはそう言った知識がある様で、試験管をくるくると回しながら中の植物を興味深げに観察している。


「……砂はキメ細かく、随分と滑らかに動くね。この分だと君達の履いていた靴の中にも幾分か入り込んでいるかも知れない」

「そ、それは流石に洗い流しましたよ……」

「そうか。もう少しサンプルが欲しかったけど仕方ないね」


 確かに僕は遺跡の土や植物を持ち帰ろうとする癖はあるが、流石に靴の中に入り込んだ砂を集めて保管しようと考えられるほど熱心に収集している訳じゃ無い。


 手元の物以外にサンプルが無いと知ったアースさんは肩を落とすが、直ぐに意識を切り替えて目の前の物に集中する。


「そう言えば、以前地中を調べたデータがあったような……。それとこの砂を照らし合わせれば、何か分かるかもしれない。植物についても色々なデータを取るのに最適だ。この二つに関してはギルドの方で買い取らせて貰っても良いかい?」

「はい、構いません」

「ありがとう。帰る際に纏めて換金しよう」


 アースさんはそう言うと近くの机にあった試験管立てに試験管を纏め、先程まとめた記録用紙の束と同じ場所に置く。


「さて……後は例の物かな?」


 残るはリベラの持つ花の盾。

 僕が視線を向けるとリベラはコクリと頷き、自身の胸に手を当てる。


 すると、手を当てた場所から眩い輝きが放たれ、やがて光が収まると彼女の手には金色に輝く花の盾が現れていた。

 その光景を目の当たりにしたアースさんとナイズ教官は、驚愕からか目を見開いている。


「まさか、本当に身体の中に聖遺物が宿っているとはね……」

「実際にこの目で見たと言うのに、未だに信じがたいな……」


 リベラがそっと盾を差し出し、アースさんがそれを手に取る。

 彼が盾を受け取ると花は先程の輝きを失い、僅かな光を放つ程度にまで弱まった。

 その様子を見たアースさんは何かを確信したように呟く。


「……やはり、大遺跡に眠る聖遺物は担い手を選ぶようだね」

「アースさん達は似たような聖遺物幾つも保持しているのですか?」


 レナの問いかけにアースさんは頷く。


「私が所持している物が一つ。信頼出来る人物に預けているのが二つ。最後に所在は分かって居るものの、手が出しにくい物が一つと言ったところかな」


 どうやら、アースさんは過去に出現した大遺跡から持ち帰られた四つの聖遺物全ての所在を把握している様だ。


「なるほど~。その四つってどんな聖遺物だったんですか?」


 その話を聞いたエルンは、純然な興味からか何気なく尋ねる。

 だが、大遺跡の聖遺物はギルド内でもトップクラスの機密情報だろう。まだ六等級探索者である僕達にそう簡単に教えてくれるとは思えないが……。


 と、思って居たら意外にもあっさりとアースさんは答え始めた。


「そうだね……。一つは燃える様な真紅の鎖。二つ目は白く輝く美しい長槍。三つ目は何もかもを見透かすように照らし出す鏡。そして四つ目は……」

「おい待て。まさか貴様、こいつらを巻き込む気か?」


 つらつらと答えて行くアースさんを、隣にいたナイズ教官が制す。


 だが、既に聖遺物の情報は僕達に漏れてしまっている。

 悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべる彼に対し、教官は忌々し気な視線を向ける。


「まさかも何もその通りだよ。私達ですら体験したことの無い事象、引き出した事のない聖遺物の特異性を彼らは体験して来ているんだ。寧ろ、ここで囲わない手は無いと思うけどね?」

「……私は賛成しかねるな」


 二人がしばらく言葉を交わした後、ナイズ教官は腕を組んで目を閉じて自身は何も関与しないと言う素振りを見せる。

 それを見たアースさんは仕方が無いとでも言う様に溜息を一つ吐くと、僕達に顔を向け直す。


「すまない、見苦しい所を見せたね」

「……ギルド長は、僕達をどうするおつもりですか?」


 緊張からか、自分の表情が少し険しくなっているのを感じる。

 そんな僕の表情を見て、ギルド長は薄っすらと笑みを浮かべる。




「そうだね……。まずは君達の探索者等級……それを剥奪する」

『―――!?』




 “等級剥奪”―――それは実質的にギルドから除籍処分を受ける事と同義だ。


 除籍と違い探索者としての活動こそ正式に認められたままだが、ギルドからの支援や報酬と言った物が一切渡されることが無いと言う点では殆ど野良の探索者と変わりない。


 彼が僕達の等級を剥奪する事に何の意味があるのだろう……。

 そう考えながらも、僕は固唾を飲みながら続く言葉を待つ。


「そして―――」


 彼は未だ微笑を携えながら口を開く。

 そうして彼の口から告げられた言葉は、到底正気とは思えないような内容だった。



「君達には僕と共にレアン王国に来て欲しい。そこで、現国王から大遺跡の聖遺物を貰い受ける為の交渉を手伝って貰いたい」

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