第14話 賑やかな街


「お疲れさまでした。こちらは今回の依頼報酬と聖遺物の売却金が入っています、お気を付けてお持ち帰り下さい」

「ありがとうございます」


 遺跡探索を終えた僕達は依頼の達成報告を済ませ、後は本部へと帰るだけとなった。

 今回入手した刀とネックレスの二つは、僕達では使わない物だったのでそのままギルドへと売却し、そこそこのお金を貰うことが出来た。


 この前の報酬金と合わせると中々の金額になるが、エルンとレナは教会に、僕達は実家の両親への仕送りに大半のお金を当てて居る為、現状はそこまで多くのお金を持っている訳では無い。このお金の大半も次の探索の道具代とナイズ教官へのお土産代、この街での宿代に消える事だろう。


 今日は探索を終えた事もあり、明日改めて街へと出かけるべく早々に僕達は宿で眠りに付いた。




「おはよー、お兄ちゃん」

「おはようリベラ。今日も早く起きれたね」

「えへへ、偉いでしょ?」


 翌日。今日は皆で、出かける日という事もあってか、張り切って早起きをしたリベラは元気にベッドから飛び出す。そのままの勢いで街へ向かおうとした彼女を引き留め、まだ寝癖の付いたままの髪を櫛で梳かす。


 余程楽しみなのか、髪を梳かしている間リベラは気持ち良さそうに目を細めながら鼻歌を歌う。

 割と皆で出かける機会と言うのは頻繁にあるのだが、ここが昨日来たばかりの国と言う事もあってか、彼女の興奮は中々収まらない様だ。


 髪を梳かし終えいつもの姿に戻ったリベラは、待ち切れないとばかりに急いで部屋を出る。

 その扉の前には、既に支度を終えていたエルンとレナが僕達を待っていた。


「おはよう、今日もちゃんと起きれたよ!!」

「二人共おはよー。うんうん、リベラちゃんもしっかり起きれたみたいだね」

「おはようございます。それでは、朝食を食べたら街へ向かいましょうか」

「そうだね。リベラ、朝ご飯を食べる時はもう少し落ち着いてね」

「分かった!!」


 本当に分かって居るのか微妙な返事だったが、朝食を取る際には黙々と味わいながら食べていたので、ちゃんと理解はしていた様だ。

 そうしてしっかりとお腹を満たしたのち、僕達は元気に街へと繰り出した。



 魔道具の売買を主産業とするプローダクは最東端のこの街、ベンデールを除くと国土の殆どが工場や居住区域になっている。

 それに伴い、ベンデール以外の街は原則国民以外の立ち入りが禁じられている。

 職人気質の強い人達が住む国なので、観光客や他国との余計な問題を防ぐ意味もあるのだろう。


「いらっしゃい、可愛いお客さん達ね。お土産にうちのアクセサリーはいかがかしら? 女の子はもちろん、男の子の貴方にもピッタリなのがあるわよ?」


「お前さん達、ちっこいのに探索者たぁ中々肝が据わってるじゃねぇの。どうだい、この『道標の灯』なんか買ってかねぇか? 探索に使うも良し、家や宿なんかで家具にしても良い一品だ!!」


「こんにちは探索者さん。このお店の道具ツールは過酷な遺跡探索のお供として皆さんのお力になる事間違いなしです!! 是非見て行って下さい!!」


 その影響か、唯一他国との交流が盛んなこの街に集まった人々は、みな賑やかな性格をした人物ばかりの様だ。


「はえー、凄く親しみやすい人達だね」

「うんうん。みんな優しい人達ばっかり!!」


 リベラ以外の皆はプローダクへの先入観から少しだけ身構えながら街を巡っていたが、街を回っている間に随分と印象が変わっていた。


「大分買い込んだけど、この後はどうする?」

「そうですね。お昼も少し過ぎていますし、近くのお店で遅めのお昼ご飯にしましょう」


 朝から街を見て回ったが、既に結構な時間が経っていた様で既に昼の時間は過ぎていた。

 早めにお腹を満たす為、直ぐに見つかった飲食店へと迷わず足を運ぶ。


「っしゃあせぇ!! お客さん何名様でしょうか~!?」

「え、えっと……四名です」

「あぁい!! 四名様はいりゃっしゃ~!!」

『ウィーーッス!!』


 そこで待ち受けていたのは不思議な掛け声をあげながら気合を入れて働く店員達。

 彼らの放つ謎の圧に押されながらも、僕達は案内された席に着く。


「これ、私達が入っても大丈夫な場所だったかな?」

「多分? 一応今は普通の飲食店として営業してるっぽいし……」


 中々面白い装飾がなされた店内では、お酒と思われる飲み物が入った瓶が棚に大量に備えられているのが見える。その手前の厨房で器用に大鍋や包丁を振るう彼らは、その風貌さえ除けば一丁前の職人の雰囲気が感じられる。


 取り敢えずお店のおすすめ料理を頼み、商品が提供されるのを待つ。


「お待たせしゃしたー!! こちら当店の看板メニュー、『セレドゥ産アゲマスのテン上げ☆バーニング仕立て』でウィッシュ!! パリパリの皮の食感とフワッと柔らかに仕上がった白身の濃厚な旨味、鼻を通り抜ける魚の油と香草の重厚な香りの協奏曲コンツェルト。ごゆっくりとご堪能あれぃ!!」

「あ、ありがとうございます……?」


 こちらが付いて行けない勢いで料理の解説と提供を行う彼らは、一体この店でどんな経験を積んで来たのだろうか……。

 ふとそんな事が気になるが、折角の料理が冷めない内に頂かなければ。


 早速提供された焼き魚を口にすると、彼の言う通り柔らかな身とパリッと香ばしく焼き上がった皮、魚の油と香草の濃厚な香りが口の中で溶け合いながら広がって行く。

 まるで飲み物の様にするりと喉を通り抜けた魚に驚きつつ、僕達は料理を食べ勧める。


 気が付けば魚はあっという間にその姿を消し、僕達の目の前には食べ終わった皿と豊かな後味だけが残っていた。


「ハッ!! 嘘でしょ、もう残ってない!?」

「今まで食べて来た料理と比べても一、二を争う程美味でした……」

「なにこれ、すっごい!! お兄ちゃんも作れない?」

「さ、流石にこれだけの料理はまだ作れないよ……」


 多少自炊するとは言え、これほどの料理を作れるほど僕の調理技術は高くない。

 また食べに来ようとリベラを説得しながら、ふと再び棚に並んでいる瓶へと目が行く。


「そう言えば、あそこのお酒は購入出来ますか?」

「全っ然大丈夫ッスよ~!! あ、でも結構お高いんすけど……行けそうっすか?」

「はい。幾分かお金に余裕はあるので」


 そう言って懐から硬貨を取り出すと、店員達は上機嫌にお酒を棚から取り出す。


「久々のベンデールの注文はいりゃしたーー!! お前ら気分上げてけー!?」

『ウィーーッス!!』


 再び妙な機嫌になりながらお酒をこちらに持ってくる店員達。

 中には余程嬉しいのか小躍りしながら手を叩いて居る者も居る。


「どうしたのリオン君。お酒で酔っ払いたくなっちゃった?」

「いや、ナイズ教官ってお酒は好きなのかなって。もし駄目だったら、母さんに上げれるしね」


 教官がお酒を飲む姿は全く想像出来ないが、もしかしたらそう言った物も嗜むのかもしれない。

 そんな軽い気持ちで買う事にしたのだが……。


「いやー、本当に助かりやした!! ウチの店でしか取り扱ってない酒なんすけど、日中の飲食店の印象が強いらしくって殆ど捌けなかったんすよ。美味さはばっちり保証するんで、今後も是非買ってホスィーなんて思ったり!?」

「あ、はい。検討しておきます……」


 彼らのあまりの押しの強さに若干引きつつも、ナイズ教官の反応が良ければもう一度この街に来た時にでも買って見ようとお店を後にする。


「あはは……凄いお店でしたね」

「でも料理はとっても美味しかった!! また来たいね!!」

「この付近の依頼を受けた時にでもまた行ってみようか」


 その後も賑やかなベンデールの街を楽しみ尽くし、宿でギルド本部へと向かう支度を終えてその日は眠りに付いたのだった。

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