第15話 遺跡共鳴現象
探索依頼を終え、街の観光も済ませた僕達はお土産を手に馬車に揺られてギルド本部へと向かう。行きと同じく、数日を掛けて無事にギルド街へと辿り着いた。
「くぅー、数日間離れてただけなのに随分と懐かしく感じるね!!」
「そうですね。早速ナイズ教官に顔を見せ行きましょうか」
帰りの馬車は少し慣れたのか、全員あの丸薬を飲まずとも直ぐに回復出来たようだ。
馬車から降り、荷物と依頼完了の証明書を手に早速ギルド本部へと向かう。
「おかえりなさい。初めての遠方探索は如何でしたか?」
「行きの馬車は大変だったけど、それも含めてとても良い経験になったよ」
受付で僕達を出迎えたのは既に顔見知りとなった受付嬢。
証明書とネームプレートを受け取った彼女は手際よく手続きを行う。
「そう言えば、もう少しでリオンさん達も五等級へと昇格出来ますね」
「え、そうなんですか?」
「はい。何でも、以前の遺跡で発見した古代の木の実などがとても高いギルド貢献度を稼いでいるとか。あと一回依頼をこなせば依頼達成回数も二桁に乗りますし、ギルド職員からの印象も良いので、そこまで苦労無く昇級出来ると思いますよ」
新米の七等級、半人前の六等級。そこから五等級に昇級することによって、ようやく一端の探索者として認められるのだ。
そう考えると次の依頼への意欲がどんどん湧き出て来る。
とは言え、今日はプローダクから帰って来たばかりだ。
一日休みを取って、また明日から探索へと向かおう。
そう決意を固めていると、何やら受付の奥でギルド職員がざわめいている。
「あれ? 何か皆慌ててる?」
「本当だ、事件でも起こったのかね?」
リベラとエルンがその様子をまじまじと見つめながら何気なく呟く。
そんな中、受付嬢は不安げな表情でそちらを一瞥すると、手続きを終えた僕らに向かって真剣な表情で話しかける。
「恐らく、遺跡の共鳴現象が起こったのかも知れません」
「遺跡の共鳴現象?」
聴き慣れない言葉を耳にし、そっくりそのまま口にしてしまう。
「詳細は明日、ギルドの方から発表されると思います。それまでは私からは何とも……」
「職員の方々の様子からしても、大変な事が起こっているみたいですね……」
ギルド職員たちの様子を察した探索者達もどことなく緊張し始めている様だ。
普段のギルドからは想像出来ないほど張り詰めた雰囲気が漂い始める。
「……取り敢えず今日は帰って休もう」
「そうだね。このままここにいても仕方ないし、明日に備えて準備した方が良いと思うよ」
「教官も忙しいかな……?」
「そうですね、今日は間が悪いかも知れません。お土産はまた今度お渡ししましょう」
いまここで戸惑っていた所で、何かが解決する訳じゃ無い。
それなら受付嬢の言う通り来たる明日に備えて置く方が賢明だろう。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
丁度依頼完了手続きも終わった様だ。
僕達はそれぞれのネームプレートを受け取りギルドを後にする。
「どうする? 道具の買い足しとかはそこまで必要無さそうだけど……」
「うーん……。前に父さん達に手紙を書いたんだけど、その返事が来てるかも知れないから確認しておきたいな」
「それであればご一緒します。丁度私達も教会宛に手紙とお金を送りましたから」
「じゃあみんなで行こう!!」
僕達と同じく二人も手紙を出していた様で、四人揃って以前送った手紙の返事の確認の為に配達屋へと向かう。そこまで混んでいなかったからか直ぐに配達物の確認が取れ、整理された棚の中に埋まっていた無数の手紙の中から僕達宛の手紙が引っ張り出される。
「お待たせ。これが君達宛の届け物だよ」
「わーい!! ありがとう!!」
手紙を受け取ったリベラは早速封を破り便箋を取り出す。
そこには父さんが寂しい思いをしていて毎晩うるさいから、偶には家に帰ってきて欲しいと言う様な内容が一枚の紙にびっしりと書かれていた。
勿論、僕達の探索者としての活動を応援する言葉や、くれぐれも無茶だけはしない様にと言った内容も別紙に書かれていて、二人がどれだけ僕達の事を思ってくれているのかが分かる。
「あはは、お父さんは相変わらずだね!!」
「そうだね……。母さんを困らせて無いと良いけど、この感じだとダメだったみたいだ」
一枚目の手紙は所々に筆が乱れた様な痕跡が残っている。
その部分以外は綺麗な字で書かれており、この手紙を書いたのは母さんだと容易に想像出来た。
手紙を読み終えた僕は、もう一つ届いていた封筒を開く。
その中には僕達二人に向けて作られたのだろう押花が入っていた。
「これ家の近くに咲いてた花だよね?」
「うん。そう言えば、小さい頃はこの花で冠も作ってたっけ」
どこに居ても我が家の風景を思い出せるように作った物なのだろう。
その少し不格好な姿は、父さんが慣れないながらも一生懸命に頑張った姿と重なって見える。
「あ、それ押し花かな? 可愛い花だね」
「二人の為に懸命に作られたみたいですね」
どうやらエルンとレナも手紙を読み終えたようで、僕達の手にある押し花を見て柔らかな微笑みを浮かべる。
「うん。お父さんが頑張って作ってくれたみたい!!」
「二人の方はどうだった?」
僕が訪ねると、二人は手元から嬉しそうに一枚の絵を取り出す。
「教会の子達が探索者になった私達の絵を送って来てくれたんだ。これが私で、これがレナちゃんなんだって」
二人が見せてくれた絵には、山積みになった金貨や宝の上で寝そべる二人の様子が描かれていた。
「あははー!! すっごい宝の山だ!!」
「現実はこれほど派手な訳では無いですけど……私達の送ったお金のお陰で、教会の維持費も大分賄えたそうです」
「それはそれとして私はシスター達からありがたいお小言を頂いてるんだけどね……」
エルンは彼女達に心配を掛けさせてしまって居る事を少し気にしているが、それでも教会の為に探索者を辞める気は無さそうだ。
「でも、シスターや子供達も二人が無事で安心してるだろうね。折角だし、この手紙の返事の意味も兼ねて今から手紙を送るのはどうかな」
「私も丁度そうしようと思ってたんだ。あ、便箋と封筒買えますか?」
「はいはい。手紙を書く時はあそこを使うと良いよ」
手紙を読み終えた僕達は、明日の事も考えて今日の内に手紙を送る事にした。
僕やレナは直ぐに書き終えた物の、リベラは何を書けばいいのか分からずにうんうんと頭を悩ませている様だった。
「ねぇお兄ちゃん、手紙って何を書けば良いの?」
「そうだね……。今までの出来事とか、父さん達に伝えたい事を書けば良いと思うよ」
「それは分かってるんだけど、書きたい事が多過ぎて何を書いたら良いのか分かんない!!」
どうやら書き方が分からないのではなく、書きたい事を絞り込む作業が難航していた様だ。
僕が手伝いながらどうにか三枚までで収まる様に内容を煮詰めていき、時間を掛けてようやく封筒に収まるくらいまでになった。
「出来たー!!」
「おー、お疲れリベラちゃん」
「……エルンは手紙を出さないの?」
リベラの手紙が書き終わった所で、僕は唯一手紙を書いていなかったエルンに尋ねる。
「んー……まぁ、書こうかと思ったんだけど、そう言うのはレナちゃんの方が上手いしね。私は教会への送金くらいで良いかなって」
そう言って彼女は視線を彷徨わせながら頬を掻く。
手紙を書けない訳では無さそうだし、探索者をやっている以上手紙はマメに送っておいた方が良いと思うが、彼女がやりたくない事を無理強いする必要も無いだろう。
代金を支払って、配達屋の店員に手紙とお金の入った封筒を渡して僕達は宿へと向かう。
「お帰りなさい。無事に戻って来れたようで何よりだよ」
「はい。またお世話になります」
宿屋のおばちゃんは僕達の事を覚えてくれていた様で、以前使ったのと同じ部屋に案内された。
部屋の扉を開くと、第二の我が家の様に住み慣れた空間が僕達を出迎える。
「……さて。早めに明日の準備をしておこうか」
「うん。その後は一杯夜ご飯を食べよ!!」
道具の整備をし、全ての準備が終わった所で四人揃って夕飯を取る。
その後は明日起こるであろう何かに備え、早めにベッドで眠りに付いた。
「昨日の昼頃、水都セレドゥ付近で
翌日、数多の探索者達が集まったギルドでは昨日の騒動に関しての情報が発表された。
『
過去、四度に渡って発生したそれは、一つの大遺跡を中心に数多の遺跡が一斉に現れる現象だそうだ。今回で発生は五回目。既にギルドはそれらの対処を終え、今日僕達に遺跡群の緊急探索依頼が発注される運びとなった。
「現在他の依頼を受注している者達には悪いが、一度受付の方で依頼の受注解除手続きを行って欲しい。今はこの遺跡群を踏破する事が最優先事項となる」
ギルドの中央で話をしているのはナイズ教官。
現場で対応中のギルド長に代わり、この場で指揮を取って居るのは彼女のようだった。
依頼を受けていた探索者達は彼女の指示に従い、受付で次々に手続きを行う。
本来、何の進捗も無しに依頼を終えると違約金が発生するのだが、今回は非常事態の為、逆にギルド側から多少の保証金が支払われている様だった。
話を聞いていた探索者達が次々に行動を起こす中、僕達はナイズ教官の下へと駆け寄る。
「む、お前達は……。無事に帰って来たようだな」
「はい、お久しぶりです。所で、今回の遺跡群の調査には僕達も向かえますか?」
見た所調査へ出向こうとしているのは僕達よりも上位の等級の探索者ばかりだ。
「お前達はいま六等級だったか?」
「そうだよ!! もう少しで五等級に上がるんだっけ?」
「あぁ、そんな話が上がって居たな」
僕達の昇級の話はナイズ教官も知っていた様で、彼女は腕を組んで目を瞑る。
「……正直、六等級でも受けられない事は無い。だが今までの遺跡よりも遥かに危険だと言う事は分かって居るな?」
真剣な表情で問いかける教官の目を見つめながら僕達は頷く。
「危険な事は承知して居ます。ですが、少しでもお力になれるのなら……」
「ギルドが既に封鎖しているとはいえ、万が一があるかも知れないしね。私で良ければ力を貸しますよ」
レナとエルンも意思は固いらしく、それを見たナイズ教官はフッと不敵な笑みを浮かべる。
「どうやら、最近の新人は余程危険が好きなようだな。良いだろう、調査へ向かう事を許可する。ただし、各々準備は怠るなよ?」
『はい!!』
教官から許可を得た僕達は事前に用意してあった荷物に加え、今回調査に向かう探索者達の為にギルドから特別に至急された品を持ってセレドゥ方面への緊急馬車に乗り込む。
初めて経験する大探索依頼を前に緊張と興奮を覚えながら、僕達は出発の時を待つのだった。
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