第11話『体育館の攻防⑤』
戦いは終わった。
教師という権威を傘に着た、強権的な支配の試みは打ち砕かれたのだ。
神のスマフォで検索しながら、生徒会長の烏丸先輩は語る。
「アベカンのチート能力『生徒指導』。ゴリッチョのチート能力『お山の大将』。どちらもこの狭間学園と化したこの学園とリンクした精神支配系のチート能力だね。とても邪悪で危険だ。他人の精神を容易に支配してしまうのは、田中くんも同じカテゴリになるんだけどね」
そう静かに語る視線の先には、七十名以上の女子生徒にもみくちゃにされている俺の姿があった。
「「「「「「「「「「田中く~ん」」」」」」」」」」
「た、助けて~」
俺は必死に脱出を試みるのだが、四方八方から引っ張られ、引き寄せられ、柔らかで暖かな身体を押し付けれて、柔らかあったかを通り越して暑くて暑くてもう息も絶え絶えだよ、誰か助けてぇ~!!
普通なら、ある一定の節度を持って好意を寄せる程度であったろうが、今はそう普通でない。恐怖というストレスにさらされ、更にはチート能力『エ〇フ』により発せられた、強烈なピンクのオーラ、その余波にさらされた彼女らは、もう我慢という言葉を知らない。
そして、そんな俺を冷たい眼差しで睨みつける百四十八の瞳。生徒会長だけは生暖かい眼差しだ。
「けっ」「ちいっ」「何であいつだけ?」「俺のチートの方がすげえのに!」「畜生!」「ああ、みっちゃん……どうして?」「ううう……俺の事、好きだって言ってくれたじゃないか~~~!」
男達はこんな光景に、危ない所を救って貰った筈なのに、全ての女生徒のハートを鷲掴み状態のたった一人の男に、大小少なからず嫉妬の黒い炎を燃やしていた。ちぃ、死ねばいいのに……と。
壇上に倒れたままのアベカンは、もう誰の目にもとまらぬままに放置されていた。
そして、恐怖のお山の大将、ゴリッチョの巨体は体育館の床に伏し、それを四人のJKが囲んでいた。
「ほ~ら、先生。気持ち良いですか~? 痛いとこあります~?」
三枝さんは、変わらぬ微笑みを浮かべ、両手からぬらぬらと輝くオーラを放ちながら、焼け焦げたゴリッチョの身体を癒して行く。殺しちゃ流石に不味いよね。邪悪なゴリッチョの動きを封じたり、大怪我を癒したり、本当、聖女の魔力は万能だね!
「先生……」
そんな傍らで膝まづく八重樫先輩は武装を解除して、悲しそうな顔をしてゴリッチョの身体をさすっていた。流石、筋肉フェチ。その筋肉への想いで、先輩は立ち向かえたんですね!
岩崎さんは、いつでも止めを刺せる様に、拳を光らせ身構えたまま。
そして、長谷川さんは、両腕を組んでの仁王立ち。油断無くゴリッチョの様子を伺っている。
だ、誰か助けてぇ~……
そんな時、ゴリッチョが呻きを上げ身じろいだ。
「うっ? うう……」
「せ、先生! 意識が戻られたんですね!?」
最初に呼びかけたのは八重樫先輩。あなた、立ち向かったのは単にゴリッチョの筋肉目当てだったんでしょ? そんな疑惑の残念純日本風美人。
「はっ!? お、俺は負けたのか?」
「先生……」
「先生~。今は普通に動けるだけの筋肉を残して回復してま~す。動かない方が良いですわ~」
「く……三枝、てめぇ~!」
「止めておいた方が良いですよ。ゴリッチョ、降参を勧告します」
仁王立ちの長谷川さんは、正にゴミを見る様な目で見下ろした。そして岩崎さんは、殺意をこめて拳を握る。何かあったら筋肉では無く、頭蓋を砕く気構えで。
それを見上げたゴリッチョの瞳は、未だ何やら含む事があり気に、ねちっこい嫌らしい笑みを浮かべていた。
「は、長谷川ぁ~。いつの間にそんな口が聞ける様になったんだぁ~? ぐへへへ~……そうか、田中にいっぱつ決めておぶっ!?」
ゴスっとゴリッチョの顔面を、容赦なく岩崎さんの拳がえぐる! 真上からの打ち下ろしだ。これはきつい!
「余計な事、言わない方がいいです。次は眉間を打ち抜きます」
ぴっと光る拳についた汚らわしい液を飛ばし、まだ若いのに眉間に深い皺を刻んだ岩崎さん。正に怒りの鉄拳。最早、俺の救いを求める声など届く筈も無い。
顔を押さえ唸るゴリッチョに、長谷川さんはパンツも見えるくらいにしゃがみ込み、大変申し訳ないと言った風情で語りかけた。
「先生~。も~勝負は決まってるんですよ~。いい加減観念してちゃくれませんかねえ? こっちも、すぱっとさっきの事を忘れてなんて言えませんが、私たちは一蓮托生だと思いませんか? この異世界って奴で、力を合わせて乗り越えて行かなきゃいけないんです。私たち生徒も、一応先生って大人がいた方が心強いっちゃあ心強い。私のチートは『大将軍』。先生の『お山の大将』だって同じ大将系のチート持ちじゃありませんか? ここは仲良く一緒に力を合わせて、生きていくって選択肢は悪くないと思うんですけどねえ?」
「く……くふ……くふふふふ……長谷川ぁ~。言うじゃねぇか~」
黙って長谷川さんの言うことを聞いていたゴリッチョは、ゆっくりと立ち上がる。どこか考える様に、天井の光らぬ水銀灯を睨み。
「長谷川ぁ~。てめぇの言う事にゃいちいち正論でご尤もだ。だがな。大の大人が、十七、八の小娘の言う事にはいそうですか、と素直に聞けると思うかぁ~?」
「では?」
「聞けねぇなあ!!!」
そう叫ぶと、ゴリッチョは驚くべき身軽さでぽ~んと宙を描き、ずだだんと後ろへ飛んで距離を取った。
「ぐはははは!!! ば~かめ!!! これを見ろ!!!」
そう叫び、突き出したごりっちょの両手には、じゃらり大量の何か鍵の様な物が握られていた。
「これは学校の施設という施設のカギだ!!! 俺はここに来る前、学校の全施設にカギをかけて来たんだ!!! これがどういう事か判るかっ!!!? 教室にも入れ無ぇ!!! 蛇口を捻っても水は出ねぇ!!! 屋上の貯水槽の元栓を締めてあるからなぁ~!!! 非常用備蓄倉庫のカギもだ!!! てめぇら、俺様に逆らったからには水も食料も毛布も無ぇ!!! くくく……百五十人だぁ~……てめぇら何の苦労も知らねぇガキ共が、これからどうやって生きて行くのか、見ものだなぁっ!!!」
「ホールドポータル!!」
すかさず三枝さんの僧侶系魔法が発動するが、ゴリッチョはそのぬらぬらとした輝きをさらりと避けてレジストして見せ、いかにも体育教師らしい素早い動きで体育館の出入り口の前へと逃れた。
(俺はこの隙に、びっくりしているみんなの足元を、Gの如く這いつくばって逃れた。チート能力のお陰か、びっくりするくらいに完璧な逃走ルートが、林立する女子の足元に見えたんだ。おお、神よ!)
「ぐへへへ……ここを閉めてしまえば、お前たちは体育館に閉じ込められ、水も食料も無ぇ~まま飢え死にだ!!! どうだ!!!? これが大人の知恵ってもんだぜぇ~!!!」
「このぉっ!!」
「おおっと動くな!!! 本当に扉を閉めるぞ!!!」
岩崎さんが飛び出そうとすると、素早く扉の向こうへバックステップ。扉に手をかけた。
そこでにんまりと。
「これが最後だ!!! 俺様に従うか、ここで飢え死ぬか!!! 二つに一つだ!!! 女は性奴隷!!! 男は馬車馬の様に働く奴隷様だ!!! 選べ!!! その場で膝まづけぇ~っ!!!」
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