第10話『体育館の攻防④』
立ち向かって来る俺たちを前に、ゴリッチョはさも愉快そうに笑い飛ばした。
「がっはっはっはっは!!! とんだ茶番だなあ!!!? 貴様らこわっぱが何人揃おうと、物の数では無いわ!!!」
ずん! ずん! 大股で一歩、また一歩と踏み出す度に床がギシギシと悲鳴を上げる。なんて圧だ。気迫を超えた重圧が、俺たちを屈服させようとのしかかる。
「くっ! これがゴリッチョのチート能力なのか!?」
「その様だね! アベカンのチートに似ているが、それにも増して異常な強制力だ!」
俺の叫びに、烏丸先輩が歯を食いしばり、輝くスマフォを掲げる。あの輝きが、ゴリッチョの圧から先輩を守っている様だ。
「田中くん! 彼女たちを応援するんだ! それが君のチート能力でもある筈だ!!」
「くっ! や、やってみます!!」
俺は、さっき感じたこみ上げる想いを、みんなへの熱い気持ちをもう一度思い出してみた。
ゴリッチョの重圧から立ち上がらせてくれたそれは、確かに俺の中から湧き上がった。この想いを伝える!!
「岩崎さん!! 三年の先輩!! 三枝さん!! 長谷川さん!! 頑張ってぇぇぇぇっ!!」
同時に突き出した右手の手のひらから、今度ははっきりと濃密なピンクの光が!! それが彼女たちの背に撃ち込まれた!!
「うん!! ありがとう、田中くん!!」
「うおおおおっ!! みなぎるっ!!」
そう叫び、岩崎さんと、名前を知らない三年の先輩が真っすぐにゴリッチョへ向けて飛び出した。
「けっ! お仕置きだ!!」
ゴリッチョの異様な筋肉が、まるで破城槌の様に打ち出される。愚直に突っ込む岩崎さんを打ち据えようと、突き出す右を3年の先輩が全身で、まるで飛び込む様に大盾で受け逸らすと、懐に飛び込んだ岩崎さんの白銀に輝く右が、ゴリッチョの腹を強烈に打ち据えた。
「ダイヤモンドナックル!!」
衝撃が体育館の窓をも揺らす。筋肉を押し隠す青いジャージが一瞬波打ち、腹を抱えたゴリッチョは、その身をくの字に曲げ、げふっと反吐を吐く。
してやったりと、岩崎さんは腹に食い込んだ拳を、更にねじ込もうとした瞬間、その腕をゴリッチョの左手に掴まれた。
「きゃあっ!」
まるで座布団で覆うかの掌握に、振りほどこうとするもがっしりと離さない。
「ぐへへへへ、軽い、軽いなあ~岩崎ちゅわん」
「や、やめて! 離して!!」
ゴリッチョはそのほっそりぷにっとした腕の感触を楽しむ様に、手のひらでぐにぐにと弄ぶ。残る左手で、ガシガシ殴ろうと、手打ちで体重が乗らず、筋肉の壁に弾かれてしまう。焦りの色に、可愛らしい顔を染めて行く。
「貴様ぁ!! 止めろぉ!!!」
激しい気迫で撃ち込む剣を、ゴリッチョは右手一本で軽々とさばいてのける。
明らかに、レベルに差がありすぎる。
「くくく……八重樫ぃ~。貴様、いつも俺様の事を睨みつけやがって、嫌な生徒だったぜぇ~。だが今日からは、可愛くさえずる様に、しつけてやろう~」
「くっ! ふざけるな!! 教師のくせにセクハラ三昧!! 私はずっとお前を見て来た!! そんな凄い筋肉を持ちながら、悪事にしか使わない!! さ、最低だ!!」
打ち込む先で、剣の平を叩かれ、剣筋を逸らされてしまう。ゴリッチョの右腕は、その大きさに見合わぬゆるやかな動きで円を描き、全ての攻撃を防いでしまうのだ。
「おおう、おう。貴様、筋肉が好きなのか?」
「そ、そんな訳ないだろう!! ちょ、ちょっとは素敵だと思っていたけど、今は違う!! このクズ教師!!」
「おおっと」
わずかの動揺が剣筋をにぶらせ、剣を掴まれるや、ぐいっと手繰られ、その身をがっしと抱え込まれてしまった。
「あっ!? くそ!! 放せ!! 放せぇ!!」
「ぐふふふ……感じる! 感じるぞお!! 鎧の下に隠れたお前の肉を!! たっぷり可愛がってやるからなあ~!!」
「くっ、殺せ!!」
「ダメだ~!! お前らは、俺のガキを産む大事な大事なメスだからなあ!! ぬはははは!!」
そう笑いながら、岩崎さんの腕をねじ上げて左の小脇に抱え込む。
「い、嫌あ!! 放して!!」
「どうした!!!? もう終わりか!!!?」
俺は前衛の二人が、あっさり捕まってしまった事に愕然とした。苦痛に歪む岩崎さん。3年の先輩、聖騎士の人は、フルフェイスヘルムで顔が見ええないが、苦痛の呻きを上げている。もうダメなのか? 他の人たちは何をしているんだ!?
俺がそう思った時、長谷川さんが動いた。
「よし! やれ!!」
「ホールドポータル!!」
長谷川さんの指示に、三枝さんが動いた。
僧侶系の固定魔法がゴリッチョの動きを封じる。三枝さんの両腕より発した、何ともねっとりとした光の帯が、その身体にまとわりつき、がんじがらめにしてしまったのだ。
「ふ……レベル差があるからねぇ。先生みたいな人には、物理より魔力でしょう。お願いします! 生徒会長!」
「いいでしょう! スマフォシロー!! マルチタスク!!」
烏丸先輩がまたも不思議なポージングでスマフォのアプリを起動すると、突然先輩の身体が光り輝くと、左右にその光が広がり、まるで残像の様に、何人もの先輩が同じポージングで現れ、まったく同じ動きでスマフォを操作した。
「スマフォシロー!! アプリ起動!! ファイアーボール!! マジックミサイル!! ライトニングボルト!!」
一斉に浮かび上がる何十もの光。それが次々とゴリッチョへ、凄まじい速さで叩き込まれた。
「ぐあああああっ、動けん!! やめ、止めてくれえええええ!!!」
避けようにも、手で打ち払おうにも身体が動かない。両腕に二人を抱えたまま、その胸と背に次々と火球が弾け、光るミサイルが突き刺さり、電光が貫いた。青いジャージが燃え上がり、肉の焼ける匂いが体育館に充満する。
その凄まじい光景を、全員が唖然としてみていた。
やがて、黒くくすぶるゴリッチョは、ずしんと床に倒れ伏す。
「よし。勝ったな……」
不敵な笑みを浮かべ、悠然と立つ長谷川さん。こわ~。
「七実。死なない程度に、回復してあげて」
「ふふ。りょ~かい~」
あれが聖女の魔力なのだろう。柔和な笑みを浮かべる三枝さんは、不思議な光の帯を両腕から放ち、ゴリッチョの身体を再度おおってゆく。
その腕からようやく開放された二人は、岩崎さんは悔し気にゴリッチョを睨みつけ、その拳を握りしめ、八重樫先輩はその場に座り込み、悲しそうにゴリッチョの焼けただれた背に、その筋肉に手を置いてうつむいた。
なるほど。筋肉フェチか。
俺のチート能力が、その全てを正確に把握させた。
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