第6話『エ〇フって何だ!!?』
ぬっと教室の前の扉から姿を現したのは、生徒指導のアベカンだった!
190センチはあろう巨躯で、ゆらりと威圧的に教室を見渡す。目線が合っただけでぞわりと悪寒が走り、膝がかくりと震えが走る。
「タブレットがどうと聞こえたぞ!! お前ら、スマフォやタブレットを持ち込んでいたりしないだろうな!!? どうなんだ!!? 校則では持ち込み禁止になってるんだぞ!! ゲームにうつつを抜かし!! 辞書を引かずに検索に頼る!! 勉学の敵以外の何物でも無い!! 貴様ら!! 分かっているのか!!?」
そう言い放って懐から赤い学生手帳を振りかざした。二百もの校則が網羅された、少し分厚い生徒手帳。常に携帯が義務付けられ、俺も仕方なしに上着に常備している。
アベカンはそれを高らかに掲げながら、ズカズカと室内に入るや、鼻息も荒く一人一人問い詰める様に睨みつけて回る。その表情から怪しい者を見抜こうというのだろう。
不意に、左腕に柔らかで暖かなものが押し付けられ、俺は心臓が跳ね上がる想いで、何事かと当の長谷川さんを見た。彼女は、今にも教室の後ろに居る男子集団へ歩み寄るアベカンをじっと見つめながら、変わらぬ表情で俺に体を寄せて来る。
制服の下に、結構立派なものをお持ちなのだとそのまろやかで暖かな感触が雄弁に物語り、何故にそんな事を俺にして来るのか、混乱の極み! の筈が、俺の口からは。
「長谷川さん」
「ん……何かしら?」
するりと落ち着いた声色で彼女の名をささやいていた。
意思の強そうな涼やかな瞳は、僅かに伏し目がちとなり、ゆっくりと俺の瞳を見つめ、穏やかな微笑みを浮かべる。さも当然の事であるかの様に、その身をゆっくりと摺り寄せて来た。彼女の甘い香りと、その吐息を肌で感じ全身の毛が泡立つ想いだ。
これまでのキツイ態度が嘘の様。長谷川さんはまるで恋人に対しての仕草を、誰はばかる事無く。
「田中くん? どうしたの? 田中くんは、大丈夫かしら?」
少し悪戯めいた笑み。
すっと女生徒達に触れていた左手を。優しく物柔らかな仕草で俺の右頬を包み込み、さわさわと耳や首筋をくすぐって来た。
岩崎さんや三枝さんの息を呑む気配が判った。
俺は、その悪戯な手を右手で包み込む様にそっと掴み、ふっと笑みを浮かべた。
「ダメだよ。教室でこんな事をしちゃ。君は委員長だろ?」
長谷川さんは、何の抵抗も無く俺の掌の中で親指をそっと握り返し、ゆっくりとその手を頬から離した。俺の手を握ったままに。
俺たちは熱の籠った瞳で見つめあったまま、ふっと吐息を漏らす。
このゆるやかな拮抗を破ったのは長谷川さんだった。幼さを想わせる無邪気な面差しを浮かべ、ちろり赤い舌をのぞかせた。
「それじゃあ、どこだったら良いのかしら?」
「そうだね……」
「おい、お前ら!! 全員体育館に集合だ!! 判ったな!!?」
俺が彼女の問いに答えを返そうと言う時、アベカンの怒声が響き渡った。どうやら検閲は終了したらしい。
「長谷川!!」
「はい!!」
彼女は、これまでの態度がまるで嘘だったかの様に、すっくと立ち上がってアベカンに向き合った。
「クラス委員のお前が責任を持って、全員を体育館に集合させろ!! 判ったな!!」
「はい!! 判りました!!」
「よし!!」
杓子定規なやり取りを交わし、アベカンは小走りに教室から出て行った。たぶん他の教室も回っているのだろう。アベカンもアベカンなりに、この異常事態に対応しようとやっきになっている様だ。他の先生は何をしているんだろう?
そんな事を考えていたら、そっと背中に誰かの手が置かれた。しかも二人。
「阿部くん。女子の事は私たちに任せて、他の男子と一緒に先に行ってて」
「そうそう。セクハラはダメだからね~」
真面目そうな岩崎さんと、少しからかう様な三枝さん。それだけを言うなら、二人とも肩に両手を置かなくてもいいのに、身を乗り出す様にかがみ込む。ち、近い! 二人とも近いです!!
息がかかる程の距離に顔を寄せて来た二人。その息が俺の首筋をくすぐる。たまらん。
岩崎さんの方が、体温が高い感じで、二人の熱が背中いっぱいに伝わって来る。
お二人が俺にやってる事がセクハラの一種では?と思いつつも、俺の口からはこれまでの俺では考えられない様な台詞がすらすらと滑りだした。
「二人ともありがとう。悪いけどその好意に甘えさせて貰うよ。正直、男子の俺にはどうしていいか判らなかったんだ。とても助かる。この埋め合わせは、必ずさせて貰うから。どうかよろしく頼むよ。良いかな?」
そう言いながら立ち上がる俺は、自然な動きで彼女らの手を両手でそっと包み込んでいた。二人の瞳を交互に流し見、にっこりと。すると彼女らもうっとりと、これまで見た事も無い笑みを浮かべ、こくりこくりと頷いた。
「それじゃあ」
「うん」
「また後で~」
名残惜しそうに彼女らに手を引かれ、俺は体育館へ向けて教室を出ようかと、そんなやり取りをしていると。
「ちっ!」
背後で、廊下の方から舌打ちの様な気配が。
振り返れば、クラスの男子たちが、体育館の方へ移動するのだろう。気だるそうに歩いて行くのが見えた。
今のは誰だったんだろう?
俺は他の生徒がぞろぞろと教室を出て歩き出す波に乗りながら、男子便所に滑り込んだ。
どうしても確認したい事があったんだ。
滑る様に個室へと入り、鍵をかける。そして、おもむろにあの台詞を唱えた。
「ステータス オープン」
たちまち、例の不思議な光る板が俺の目の前にも出現した!
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名前:田中一郎(たなかいちろう)
種族:人間(エ〇フ)
年齢:17(寿命:永遠)
性別:男(オス)
称号:三バカ
レベル:0
HP:10
MP:10
筋力:10
体力:10
器用:10
俊敏性:10
知恵:10
知力:10
意思:10
魅力:10(異性に対し種族を超えて×∞)
特殊能力:エ〇フ
特技:なし
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「……なんじゃこりゃあああああああああああああああ!!!!!?」
唐突に、男子トイレに絶叫が響き渡った。
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