『ええっ!? これって、異世界転移!!?』
第1話 『嗚呼、花の飯山満高等学校』
俺の通う私立飯山満高等学校は、ちょっと普通と違う。
俺はそう思う。
朝の登校時間になると、ふもとの校門から、まるで古墳の様な丘状の頂にある校舎までの、緩やかな坂道にずらりと教師が並び立ち、持ち物チェック、及び服装チェックが行われるのだ。
え?
普通?
俺が間違ってるのかなあ~?
「何だ、その髪の色は!!?」
「地毛っすよ、地毛!」
「嘘つけ!!」
「何、あなたその鞄!!? 加工したでしょ!!?」
「してませ~ん」
「嘘おっしゃい!! 潰したんでしょ!!? そんなに薄くして、教科書はどうしたの!!?」
「こらっ! カラーはどうした!? カラーは!!?」
「今朝、割れちゃったんすよ~。購買部で買いますから~」
「絶対だぞ!! 後で担任に確認するからなっ!! クラスは……」
飯が山と満ちると書いて、ハサマと読む。
ハサマ高校は、アホみたいに校則が厳しいのだ。当然、スマフォの持ち込みは禁止。異性との交遊も禁止。アルバイトも禁止。禁止禁止禁止。自転車通学も許可制だ。まぁ、校舎から校門への坂道が危ないというのも判らないでも無いが、俺たち学生は不満たらたら。表向きは大人しく従っているけれど、教師が居ない時は好き勝手にやる。そういうものだ。
俺は田中一郎。2年C組。成績順にABCDEとクラス分けされた、丁度真ん中辺。面倒だし、1秒だって学校に居たくないから、完全なる帰宅部。特に趣味も無いし、打ち込みたいものも無い。運動神経も大した事無いし、まぁ、その内なんか見つかるんじゃない?
毎朝の事にうんざりだが、流石に2年目ともなるともう慣れた。
「よ! おっは~!」
ゲシュタポか共産党かって監視の目から抜け出た俺は、見知った顔を校庭に見つけると、思いっきり後ろから跳び膝蹴りをかましてやる。
すると、そいつはそばかすだらけの顔をくしゃっとさせ、軽く飛びのいて避けてみせる。
同じクラスの清水駿だ。
俺からはシュンって、そのまんま呼んでる。
「田中ぁ~、見たぁっ!? タカの奴、アベカンに捕まってたぜ!」
「うは~、マジかよ!? バッカだなあ!」
どうやら、D組の高橋が職員室へ連行されたって事らしい。ちょっとカマキリ染みた細面のイメージが脳裏をよぎった。ちなみにアベカンとは社会科の教師。安倍は生活指導の担当でもあり、たっぱもありがっしりとした体つきで、ぎょろっとした大きな目をいつも見開いて、俺たち生徒の一挙一動を監視している。
つまりは、この学園の『監視員』という事で、みんなアベカンと呼んでいるのだ。
この間、集団万引きで捕まった間抜け共が、アベカン担任のクラスの連中で、万引きするものの注文を受けてやってたとか。
そんな訳で、生活指導のメンツ丸つぶれ。火消に大わらわ。こっちとしては大笑い。
それ以来、ポイントを取り返そうとしてるのか、アベカンが超ウザイ。
今朝の生活指導室『監獄』送りはタカに決まりだ。叩けば余計な埃も出る事だろう。
隣のクラスで良かった良かった。誰だって巻き込まれ事故は勘弁だ。
きっとD組のHRは臨時のガサ入れになる。ヤバい物を隠し持った奴らが、隣のうちにこっそり逃がしに来るのは簡単に想像出来た。
シュンの向こうにダイダイがいた。
たぬきみたいなずんぐりむっくり。
どうやらタカの件で二人盛り上がってたらしく、大谷大悟ことダイダイは、まん丸な目を更に丸く輝かせ、うひょひょと高笑い。
「絶対絶対! あいつ、学ラン、ちょっといじってたのが、絶対バレたんだぜ!」
「うは~、マジかよ!? バッカだなあ!」
「親呼び出し、決定ぃ~っ!!」
俺は大切な事なので、二度同じ事を口にする。
決して、バカだからじゃない。
ちょっと興奮しちゃって、リピートしちゃっただけなのさ。
まるで首を吊るされるみたいなジェスチャーで、シュンの奴がぐええっと舌を出す。
それがあまりにおかしくて、俺も釣られて大笑い。三人でうひょひょと大笑い。
くるくる小躍りを繰り返す。
嫉妬でShit!!
まったくざまぁだぜ。ざまぁリア充! そうさ、高橋は俺らとは違う身分。リア充って奴だ。爆ぜろ!
「ちょっと、そこの三バカ!」
不意に後ろからいつもの罵声が。
おっと、お邪魔でしたか?
校門より校舎の昇降口へと続く真っ直ぐな道。俺たちは校庭の土のグラウンド脇を通る、雑な舗装道路へと戻りつつあった。
「んだよ、いいんちょ~?」
「そこ、どきなさいよ、三バカ!」
振り向く俺に、相変わらずクラス委員の長谷川さんのきっついお声。
まぁ、良く怒られる訳でちょっと苦手だけど、嫌いじゃ無い。むしろ、近くで怒鳴られると色んな意味でどきまぎしちゃう。
で、いつもの調子でおざなりに振り向くと、ぎょっとさせられた。
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