俺は『エ〇フ・DANAKA』じゃねぇ!!

猿蟹月仙

ぷろろーぐ

第0話 『世界の半分をお前にやろう』


「お前がエ〇腐・駄ナカか。なるほど……」


 そいつは闇に覆われた玉座から、深紅の瞳を爛々とさせ見下ろして来た。


「どうだ? 我が軍門に下るならば、世界の半分をお前にやろう」


 俺は左手に茶碗、右手に箸という軽装備で、いきなり何やら魔王っぽいのと対峙させられてた訳なんだが。


「あの~、そうゆ~のは、も~間に合ってんすが~……」


「なっ!?」


 押し売り訪問販売員へのテンプレ台詞で、平均的日本人笑顔のつもりで返すと、一瞬唖然とした気配から闇が爆発的に膨らんで。


「なん……だと……?」


 ぞろり白いぎざぎざが三日月より細くすらり覗き、怨嗟の響きをキリキリと奏でだす。

 ああ……ついてない。何か今回も面倒そうな奴だ。

 俺はずいっと左足を半歩前に。その圧に対し体を斜に構えると、箸の先をすっと相手に向け、自然半眼となる。


「後、俺から一つだけ言いたい」


 膨れ上がった奴の怒気が、ビリビリと大気を震わせる。だが、そんなの関係無ぇ!


「ふ、ふん……聞いてやろうではないか」


 相手は如何にもなんちゃら魔王っぽい尊大な態度だ。

 だ~がそんなの関係無ぇったら関係無ぇ!

 俺にはいい加減我慢出来ない事が一つだけあるんだ!!


「あんた、どこのドイツ人だか知らねぇが、俺はエ〇フでもダナカでも無ぇ!!」


「何? 人違いだと?」


 そいつは悪びれる様子も無く、小首を傾げた気配が判った。

 俺との間で闇が爆ぜ、パリパリ火花を散らす。こちとら、伊達や酔狂で異世界転移してないっつ~の! つまりは、これが俺とそいつの、能力同士の領域って奴?

 まったく、飯時狙っててのはどの世界も同じかよ! むかつくぜ!

 だ~か~ら~、言ってやった。


「違う! そうじゃ無ぇ! 俺をエ〇フとかダナカとか呼ぶんじゃねえって事っ!!」


「ん~? こやつ、こう言ってるが、どうなのだ?」


「左様ですな……」


「うわわっ!?」


 その時になって、他にも数名が左右に控えている事に気付いて、ちょっとびびった。

 目の前に居る奴の存在感が半端無いから、声を出すまで全然気付かなかった。

 よくよく周囲を見渡せば、まるで如何にもな魔王城の大広間って感じだ。RPGでラスボスが待ち受けているって奴。

 俺は思わずよろけて、足元の光る線を踏んだ。見れば何やら魔法陣っぽいのが描かれてて、俺はその真ん中辺に立ってたみたい。その瞬間、視界がぐるんと反転。俺は元の場所へ。



   ◇



 ぶすぶすと煙立ち昇る様を眺め、魔界の重鎮が独りは重々しく口を開いた。


「どうやら、『エ〇腐・駄ナカ』は真名では無かった様でございますな。恐らくは忌み名かと……」


「で、あるか……」


「即刻、再召喚致しましょう」


「うむ」


 暫く複数名の召喚士が、ああだこうだとやっていたが、一向に召喚される気配は無い。

 そして、あくせくした雑の者達が魔王の一括に平伏するまで、そう時間はかからなった。


「どういう事だ!? 説明せよ!」


「う、うははああああっ!! ど、どうやら、エ〇腐・駄ナカは術にレジストしている様で御座います!!」


 すると、別の者ががばぁっと面を上げ。


「聞いた事が御座います!! 異世界の勇者には、一度受けた術は利かないとも!!」


 魔王は闇の衣をはばたかせ、ダンと玉座より立ち上がった。


「だが、奴はエ〇腐! 瞬間、覗き見た奴のステータスは、職業が勇者では無かった!」


 魔王の邪眼により、エ〇腐・駄ナカの全てを見通そうとしたのだが、まさしく異界の言葉やら文様が飛び交い、その一端を理解するに止めていた。


「面白い! 面白いぞ、エ〇腐・駄ナカ!! 欲しい! 奴が!! 奴の力が!! このかいなに掻き抱き、全ての骨をばらばらにしても飽き足らぬ程に、奴が欲しい!!!」


 うははははと高笑い。そう宣言した魔王は、大至急エ〇腐・駄ナカを目の前に引き連れて来る様、配下の魔物どもに命じたのだが、当の本人は知る由も無かった。


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