第21話

 さて後日談。

 あれからルルイエとクリスはフィリップス・クラフトの命令で無事釈放された。

 クリスはともかくルルイエは危うく獄中に送られるところだったが、そこはナコトの嘆願も受けて不幸な事故に居合わせただけの一般人と言う事にされたのだ。

 その代わりにと言っては何だがダムの修繕費の一部が二人に借金として重くのしかかることになった。


 万年金欠のルルイエはしばらく塩パスタ生活だと涙を流し、クリスは父に肩代わりをしてもらおうと画策していた。

 が、あっさりと却下されてしまった。

 曰く、連日でやりすぎたお仕置きも含めて後始末を学びなさいという事らしい。

 そう語る父は打撲痕を顔に残し、その背後では母がひしゃげたフライパンを手にしていた。

 想像するに借金の肩代わりを事前にしてしまおうとしたクリス父を母が殴打して制止、そして今回の一件はクリスとルルイエに責任をしっかりとらせる事としたのだろう。

 その結果クリスは部屋のあちらこちらに隠した通帳を引っ張り出す事になった。


 どれを見ても百万前後の金額が記されているが、借金額には到底届かない。

 悩みぬいたあげく、ルルイエと相談すべく事務所に出向いたクリスは沈痛な面持ちでルルイエとテーブルを囲んでいた。


「どうしましょうか……」


「どうしようね……」


 クリスはコップに注いだ水、しかも水道ではなく権能で生み出した自前の物を飲みながら思考を巡らせる。

 借金の支払いには期日がある。

 クリスの手持ちを全て総動員しておよそ一割に届くかどうかという物。


 尚且つこれはグレーな手段で稼いだ分も含まれており、今後真面目な返済を目指すのであればブラックな仕事だろうが、真っ黒な仕事だろうが、ともすればピンクな仕事さえも考えなければならない状況である。

 それはルルイエも同じであり、今までのようにギリギリの水準で生活する事すら難しい。

 というよりは、既に生活必需品などを除けばかなり質素な生活を送っている。


「来月のマーリンピックアップガチャ……どうしよう……」


 マーリンとはエターナルグレートオリジン、通称EGOというゲームに登場する超レアキャラである。

 あえて俗な言い方をするならばルルイエは重課金兵であり、特に今回は入念に貯金をして、家賃を待たせてまで課金の準備をしていた。

 とある理由から娯楽に飢えているルルイエにとって、スマホやPCを失う事は命を失うに等しい。


「それどころか、私達来週には水のみの生活ですよ……最悪の場合逃亡生活かアバーラインさん達のところでお世話になるか……いや、もっと最悪の場合貞操が……」


 対するクリスは差し押さえを受けた場合、過去に公文書偽造や脱税といった犯罪に手を染めていた事実まで発覚してしまうのだ。

 この世の終わりのような顔をした二人を、ただ一人楽しげに眺める人物がいる事にすら気付けない。


「無課金……爆死……うっ、胃が……」


「私の青春……性春に……絶対嫌……」


 ぶつぶつと頭を抱えながら苦悩するほど切迫していたクリスとルルイエの前に、ナコトがそっと書類を差し出す。


「ナコトさん……?」


 クリスが顔を上げると、にっこりとほほ笑んだナコトは無言で書類を指さした。


「ふっふっふ、ナコトさんクモの糸だよ! 無利子無担保で借金肩代わりしてあげる。その代わりルーちゃんは、クリスちゃんを正式採用する事。今は学生だからバイト扱いで良いけど、後々は正社員としての雇用かな。少なくとも借金返済までは働いてもらうよ、クリスちゃん」


 ウィンクをして見せたナコトの説明通り、無利子無担保の借金肩代わりに関する旨が記された契約書。

 対価としてルルイエがクリスを社員として雇う事とある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る