第22話
二度、三度と読み返してそこにおかしな文言が無い事や、小さな文字、あるいは透かし彫りなどの仕掛けが施されていないことを疑うクリス。
流石に裏界隈に遊び半分で首を突っ込んでいただけあり慎重だが、どう見ても真っ当な契約書である。
「いやぁ、ナコトさんお金は余っているからね」
その言葉にルルイエとクリスは目を輝かせてナコトの手を取るのだった。
まるで神の子に祈りをささげる子羊のように……。
結果としてクリスもルルイエも今後の生活レベルを落とすことなく、いつも通りの生活を送れることが約束されたのだった。
ナコトが支払った金額は決して安くは無い。
下手をすれば、そこら辺の人間の生涯収入すら軽く超える。
だというのに、なぜナコトが借金の肩代わりなどしたのか……。
「これでルーちゃんはクリスちゃんを雇い、クリスちゃんは探偵の助手になり……さてさて、次はどんな事件に巻き込まれるかな」
くすくすと笑うナコトは、ルルイエとクリスの関係に注目していた。
今まで自分とルルイエだけでは、大きな事件に巻き込まれるようなことは無かった。
だがしかし、どちらもフィリップスや他の神々にとって特大の爆弾であることに変わりは無いという自負はある。
ならばそこにクリスという起爆剤を放り込んだらどうなるか……その事を想像するだけでナコトの口角は吊り上がっていった。
書類にサインをしたルルイエとクリスの前で、楽し気にくるくると踊って見せる。
つまり、明らかに裏がありますよと言わんばかりの様子を、借金に関する書類にサインをさせた後に見せたのだ。
「え、何怖い! ねぇクリスナコトさんが怖い! 透かし彫りとか浮き出しとかなんもしかけられてないよね!」
「ルルイエさん、どう見ても真っ当な……むしろ無利子無担保とか私達に有利すぎる契約書です! だから逆に怖い!」
二人は、全身から冷や汗を流していた。
現在のクリスの借金、絞めて1億2千万なり。
ルルイエの借金、同額+α。
具体的な事を言うならば飲酒飛行による罰金で、15万ほど請求されていた。
飲酒運転同様、酒を飲んでの飛行は厳罰であり駆け付けた警官たちにそのことを指摘され、即座に切符を切られてしまったわけである。
南無と合掌するクリスと、けらけら笑うナコトを他所に説教を受けるルルイエの姿はなかなかに滑稽だったがそれは割愛。
また余談ではあるが、ナコト本人もイエローサイン株式会社から車の修繕費を請求されているが割愛。
「あ、ちなみにクリスちゃんは逃がさないように家に泊まり込みね。フィリップス達の許可はもう得てるから」
「……え?」
「ルーちゃん、しばらく家賃待ってあげるけどあまり課金しすぎないようにね」
「……はい」
「さーてこれから楽しくなるぞー!」
くるりと振り向いて可愛らしくポーズをとりながら語る鬼がそこにいた。
ナコトさんからは逃げられない……。
こうしてルルイエ探偵事務所は新たな人材を得て、借金返済のため仕事にまい進するのであった……仕事があるならばという大前提はともかく。
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