第16話

「ところでさー」


「ナコトさん、前見てください」


 移動中、酒を飲んでしまったルルイエは当然運転などできない。

 クリスも免許を持っていないため、消去法でナコトがハンドルを握ることになっていた。

 ナコトの身長のせいか、はたまた車の仕様なのか、ともすればその両方かもしれないが運転は荒い。

 座高のせいで見通しが悪いのかもしれないと思いながら、クリスは手すりを握り締めていつでも身を守れるように水のクッションの準備をしていた。


「えー、だって暇なんだもん運転手って」


「いいから前見てください、それと速度落として、特にカーブの時……うぷっ」


 なぜ免許を取れたのか不思議になる程に荒い運転を続けるナコトに、ルルイエは苦言を呈しながら吐き気と戦っていた。


「ちぇー、まぁいいや。そんでさ、これから行くダムだけどもし間違ってたらどうする?」


「えーと……どうしましょうか」


「幸い時間はあるから他のダムに行く……うぷっ……でも他のダムはもう調べたんでしょ……」


 青い顔をしながら口元を抑え、ぎりぎりと言った様子で答えるルルイエにクリスは後部座席でこくんと頷く。

 既に他の候補になっていたダムも監視カメラをハッキングして調べたが、それらしい集団は見られなかった。

 もしかしたらすでに爆弾は取り付けられた後なのかもしれない、そんな不安もあったが今現在一番怪しいのは目的地のダムである。


「まぁたぶん当たりだけどねー」


「いつもの、あれ……ですか……?」


 苦し気に目を回すルルイエ、それを知ってか知らずか、おそらく知ったうえであえて無視しての荒い運転を続けるナコトは助手席のルルイエに視線を向けて人差し指を立てた。


「そう、ナコトさんのお墨付き!」


「前……見て……うっ!」


「……ビニールどうぞ」


 いまいち締まらない一行、不安の色を隠せないクリスはビニール袋を差し出しながら窓を開けて換気をする。

 オロロロロロという、ルルイエから発せられる汚いBGMを聞きながら。

そんなこんなで目的のダムへ向かう事1時間、クリス達の眼前には荘厳なダムがあった。

 とにかく巨大、何キロなのか測るだけでも面倒くさそうだがそれだけに押しとどめている水の量は膨大だろう。

 故に小さな亀裂でも入れればそこから一気に決壊すると予想できた。


「ルルイエさん、あれ」


「イエローサイン株式会社のバンね……」


 駐車場の端に置かれた車に近づくが中はスモーク硝子のせいでよく見えない。


「どうします?」


 暗に硝子を割って中を確認するかと尋ねるクリスにルルイエは大きくため息を吐く。


「どうもしない、今は構っている時間も惜しいからさっさとンガイ点検会社の社員捕まえて吐かせる」


 できるだけ穏便に、そう考えていたルルイエだが世の中それほど甘くないと理不尽の権化達は暴走するのだ。

 不意にバキッと言う音が響く。

 嫌な予感を覚えながらもルルイエがそちらに視線を向けると車のドアを片手で持ち上げているナコトがいた。


「……取れちゃった、てへっ」


 可愛らしく誤魔化そうとするナコトに、もはや何も言うまいと頭に手を当てて首を振るルルイエに対してクリスは中を確認する。


「むぐっ、むごー!」


 そこにはさるぐつわを噛まされて両手足を縛られた男たちが無造作に放り込まれていた。

 クリスは、そして隣でそれを見ていたナコトも黒だと確信する。


「ルルイエさん! ここで間違いないです!」


「別の事件も起こってるけどね……車上荒らしかぁ……」


「失礼な、この車が脆いんだよ」


 ナコトが抗議のつもりかバンを叩くとその度に車の外装が破損していく。

 もうやめてやれよと言わんばかりの視線を投げかけるルルイエだったがナコトは気付くこともない。

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