第17話

「とにかく、黒ならさっさと解決しちゃいましょう。お兄さんたちごめんなさいね、あとで助けに来るから」


「もがー!」


 おそらく待て的な事を言っているのだろけれど、その思いも言葉も通じることは無くルルイエ達はダムへと駆け出したのだった。


「それで、作戦はあるんですか?」


「交渉は私がする。ナコトさんはいざと言う時の為にどうとでも動けるようにしておいてください。クリスは……邪魔にならないようにしといて」


「はぁ、それで誰に話聞きます? 見たところ10人くらいいますけど」


 ダムを見上げれば壁面では鳥人種が羽ばたきながら壁に何かを張り付けているように見えた。

 おそらくは粘着性のある爆弾だろう。


「そうねぇ……ここから歩いてあそこまで行くのは面倒ね。二人とも少し離れてちょうだい」


 ルルイエがそう言いながら数歩後ろに下がり、羽織っていたスーツのジャケットを脱ぎ捨てた。

 そして自らを抱きしめるように両肩に手を当てるとブラウスがブチッと言う音を立てはじめる。

 背中が徐々に盛り上がり、完全に布地が破れる頃には6対12枚の純白の羽が生えていた。


「はえー……ルルイエさんって天使だったんですか。カオスにはいないと思ってました」


「堕ちてるけどね、それより飛ぶわよ。クリス、ナコトさん、掴まって」


 クリスの関心も他所に二人に両手を差し出したルルイエに掴まった二人はそのまま大空へと飛び立つ。


「クリス、壁に掴まることってできる?」


「やってできないことは無いですけど……」


「じゃあやって、いざとなったらナコトさんも」


「はいはーい、手荒でもいいかな?」


「修繕費の請求書が周ってこなければ」


「んー難しい注文だけどやってみるよ」


 二人の言葉を聞き終えたルルイエは壁際によって作業中の鳥人に声をかけた。

 さりげなくナコトを壁際にして盾代わりにしているがナコトを含めて誰も気づいていない。


「お兄さんお仕事中ですか?」


「あぁそうだよ、このバカでかいダムの点検さ」


「へぇ、じゃあその張り付けているのは?」


「粘土だよ、これをはがして亀裂が入ってないかを調べるんだ」


「なるほどぉ、私はてっきり爆弾かと思ったすよ。なにせ、信管ついてますからね」


 そう告げると同時に周囲で作業をしていた鳥人たちの首元に氷の矢が突き付けられた。

 無詠唱、魔法の気配を悟らせない技術、生成速度、精度、どれを取っても超一流の物である。


「種は割れてんだよ間抜け。あんたらがここを爆破するという情報も、縛られていたイエローサイン株式会社の社員たちも、全部な」


 冷たく言い放つルルイエにこっそりとクリスは「探偵っぽい! 犯人はお前だって言ってほしい!」と一人盛り上がっていたがこれも周囲に悟られていない。

 というよりは周囲にいる者達はそれどころではないのだ。


「下手な動きを見せれば、わかるよね」


「くっ……」


「西部劇みたいに早打ち勝負でもしてみる?」


「……わかったよ、降参だ」


 ルルイエ達の前にいた鳥人は両手をあげて無抵抗のポーズをとって見せる。

 他の鳥人たちも同様に両手をあげてダムから離れた。

 それを追従する氷の矢、ここで逃がすつもりは毛頭ないという意思表示だったが……。


「俺達はな」


 先程まで会話していた鳥人がそう呟くと同時に壁に貼り付けられた粘土、おそらくはプラスチック爆弾の一種であろうそれが同時に爆発した。

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