第15話
「一気に絞り込めましたね! じゃあ手分けしますか?」
「それが可能ならそうするけど……クリス、貴方のお父さんはそんな生ぬるい仕事こっちに回すと思う?」
数秒、顎に手を当ててクリスが導き出した答えは一つである。
「私の入社試験というならA級ヒーローに回すレベルのトラブル持ってきますね」
「でしょ、つまり今回の仕事は要約するならば『ヒーローや警察が出る前にクリスが中心となって解決する』と言う前提条件が付けられることになるわけ。そこから考えると手分けして済ませるのは悪手」
「ということは……」
「正午とは言っていたけど正確な時間まではわからない、だから12時丁度を目安にしておくのがいいわ」
その言葉にクリスとナコトは時計を見る。
現在午前9時、タイムリミットは残り3時間である。
「それに手分けすると言ってもクリスはどうやってダムまで行くつもりだったの?」
「タクシーで」
「……お金かかるじゃない、まだ正式なバイトじゃないんだから経費で落とせないわよ」
「むむ……入社試験なのに経費で落ちないとかブラックですか?」
「…………近頃の若いのはこういう知識だけはあるから厄介ね。まぁいいわ、私やナコトさんは一時間程度でたどり着けるから全部周れるけれどクリスは違う。だったら虱潰しに三人で行くべきね」
スッとナコトが挙手する。
どうぞと促すようにルルイエが手の平を向けて返した。
「それ私ついていく意味ある?」
「あ・な・た・が、面接して雇うとか言い出したんでしょうが!」
「あれ、そだっけ?」
とぼけるように舌を出し自分の額を小突くナコトを相手にするのは無駄だと悟ったのかルルイエは新たな煙草に火をつけてスマートフォンを操作し始める。
「あーどうも観光で今日そちらに行こうかと思っているんですけど、なんかどっかのダムは工事中だか清掃中だかで作業員がいるとお聞きしまして、あ、そうですかーどうもありがとうございます」
「……ルルイエさん?」
「虱潰しと言ってもちゃんと当たりはつけるべきよ。ダムで観光客が作業をしていたら怪しまれる、だったら怪しまれない方法をとるでしょ。つまり工事とか、点検とか、清掃とか、そういう業者が作業しているように見せかけるの」
「……なるほど、それでどうでした?」
「ここは点検も清掃もしてないから後回し、次」
そして先程と同じようにダムの管理会社を調べ上げては電話をかけて確認を取る。
これを二度繰り返して地図上にマークをつけていった。
「こっちは今日点検が入る、こっちは三日前に清掃が入っている。どっちも怪しいわね……遠隔操作なら前もって仕掛けておくだけでもいいから。クリス、どちらから調べる?」
「私ですか?」
「あなたの入社試験よ。あなたが考えて決めなさい」
「んー……」
数秒悩んだクリスはルルイエと同じように、しかしスマートフォンではなくタブレットを懐から取り出した。
「……それ、何処に入っていたの?」
今のクリスの装いは正式には初顔合わせと言う事もありフォーマルな格好をしている。
よく見ればそれらが量販店で買える安物と気付けたかもしれないが、ルルイエにそれほどの余裕はない。
つまり余裕を失うほど驚いているのだ。
先述の通り、ついでに上着も脱いでいるクリスは大きめのタブレットを収納できるスペースがあるような恰好ではないからだ。
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