第14話

「三人で?」


「いんや」


 ピピポとスマホを使いどこかに電話をかけ始めたルルイエは煙草に火をつけながら相手が出るのを待つ。


「あーもしもし、警察ですか。どっかの馬鹿がダムを爆破しようとしているって情報掴んだんで捜査お願いします。爆破時刻は正午みたいなんで、アデルとアバーラインにルルイエからの電話だと伝えてくれればいいです。じゃ、そういうことで」


 用件だけ伝えたルルイエはぷーと煙を噴き出すとクリスに向き直った。


「はい、人海戦術」


「それでも探偵ですか!」


「これでも探偵だよ。事件の全容を知ったから通報した善良な市民として義務を果たした。つーか探偵を何でも屋と勘違いしている輩多すぎじゃない? 私ら警察が出るまでもない簡単な調査がお仕事だし」


 これ以上働く気は無いと言わんばかりに再び冷蔵庫から酒を取り出したルルイエはそれをぐびぐびと飲んでスマホを傾ける。

 そしてそこからは軽快な音楽が流れ始め、時折体を揺らしながら画面を操作し始めた。

 ゲームをしているのである。


「……あの、ナコトさん。これでいいんですか?」


「んーフィリップスとマリアの事だから先手は打ってあるはずだよ」


「よし、これでフルコンボ! ……て、あぁ!」


 先程まで軽快な音楽を鳴らしていたスマホがプルルルと着信を伝える音楽を鳴らし始めた。

 リズムゲームで遊んでいたであろうルルイエはそれが邪魔されたことに怒りを覚えつつ、すぐに着信ボタンを押す。


「なんだアバーライン! 今いいところだったのに! ……あ? なに……? ………………え、まじで? ……うん……うん……はい……わかりました……はい……はい……」


 声のトーンが徐々に沈下していくのを目の当たりにしたことでクリスはなんとなく電話で何を言われているのかを理解してしまったのだ。

 間違いなく、お説教であると。


「なんだって?」


「ものっそい怒られました……そんなあやふやな通報するなって……窓際族の首をこれ以上絞めるなと……」


「だよねぇ、じゃあ普通にいつもの方法しかないんじゃない?」


「ですね……クリス、そこの棚の二段目右から五冊目持ってきて。ナコトさんそっちのテーブルの上全部床に落としていいから開けて」


 ルルイエの指示にナコトはちゃぶ台返しの要領で大人二人がかりで持ち上げるような巨大なテーブルの上を片付けた。

 クリスも言われた通りに書棚から一冊のファイルを取り出す。

 それを受け取ったルルイエは中から地図を取り出し綺麗になったテーブルの上にそれを広げて筆立てから赤ペンを取り出した。


「フィリップス・クラフトの、つまりクトゥルフの支配地域はこのラインであってるね」


 そう言いながらキャップをつけたままのペンで適当にくるりと地図上を指し示す。


「神の支配地域をどうこう言うのは無意味だってのはわかってる。神様たちは土地ではなく何を司るかが本分であり土地はそのおまけで持っているに過ぎない。ただし他の神々の土地で無茶なことはできない」


「常識だね、なんで今更?」


「その常識が通じない神様の跡取りがここにいるからですよ。で、クリスの入社試験となると、その本領が発揮できる地域を選ぶ可能性が高い。そもそもここから正午までに現場にたどり着ける範囲のダムとなるとあの人の領域内以外には無い。だから支配地域に目を向けるべきだった」


 そう言ってルルイエは三カ所を丸で囲む。

 どれもがダムを囲んでいる。


「この三カ所、そのどれかだと予想はつく」

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