第12話

 そんなことを考えながらもノックをしようとした矢先にナコトが豪快にドアを押し開けた。

 バーンッという、大きな音を立てて開かれた扉の向こう側では、金髪碧眼の美女が目を見開き煙草を咥えたまま臨戦態勢でクリス達を見ていた。

 こちらもナコト同様かなりラフな格好である。

 正しく言うならば、クリス同様スーツにも見える服装だがよれよれのYシャツと皺のよったパンツ、衣装掛けにはハンガーも使わずにジャケットが吊るされていた。

 一言で言うならば、だらしない、である。


「……なんだナコトさんか。敵襲かと思いましたよ」


「ドアから入ってくる敵って随分と礼儀正しいんだね」


「私の敵はだいたいそういう、常識を大切にする馬鹿ばかりなんでね……で、そっちはえーと、あぁこの前の……」


 胸を、正しくは心臓を抑えて煙草を灰皿に乗せたルルイエはため息をついてクリスに向き直る。

 そして近くに置いてあった小型冷蔵庫からビールを取り出し中身を一気に煽った。

 昼間から酒かよ、と思う者がここにはいないのが幸いか、はたまた災いか。


「あ、クリスティエラ・クラフトです。クリスと呼んでください。あの、ルルイエさんであってますか?」


「そうそう、ルルイエ・グリモワール。で、なんだっけ面接は済んでるし履歴書でも持ってきた?」


「いえ、父から手紙を預かってまして……」


 そういってクリスはカバンから取り出した手紙をルルイエに手渡す。

 それを開いて数秒、数十秒と眺めていたルルイエの顔色が硬直する。

 だらだらと冷や汗が流れ始めて、ガタガタと震え始めていた。


「あの……?」


 見かねたクリスが声をかけるが、それを無視してルルイエはナコトを手招きする。

 ひょこひょこと近づいて手紙を見せるとナコトは、一気に破顔した。


「あっはははははははは、あは、あはははは! まじで! フィリップスの奴マジで言ってんのこれ! あっはっははひーおっかしい!」


 加えて大爆笑である。


「何が書いてあるんですか?」


「あれ、くふっ知らないの? ふひひっ、読んでみな……ぷははははっふひっ……」


 爆笑による過呼吸で息も絶え絶えのナコトに代わりルルイエが手紙をクリスに差し出す。

 最初に書いてあったことはクリスに関する事の諸注意。

 加減を知らないやら、昔のヒーローに憧れているやら、その格言である『正義とは破壊と爆発こそが美学である』と言う言葉を真に受けているやら、とにかくその手の事情が事細かに羅列されていた。

 続けてルルイエとナコトに向けた注意。


「えー……なになに、クリスに危険な仕事をさせない事」


 声に出して読みあげたクリスの後ろでルルイエが「自分から危険に突っ込んでいくじゃんこの暴走機関車!」と小声で叫ぶが幸か不幸か、そしてなぜかそれは誰の耳にも届かない。


「セクハラ厳禁……? ここ女性しかいないですよね」


 そう言って周囲を見渡すクリスの目に、これでもかという程に凹んでいるルルイエと、苦笑いを浮かべるナコトが移った。

 が、良くも悪くも純粋なクリスは小首をかしげながら本題として仕事の依頼に関する事項を読み上げる。


「こんな食べごろを前にお預けとか……」


 この世の嘆きを全て体現したように落ち込むルルイエだが、クリスの音読はしっかりと聞き取っている辺りさすがである。

 そして最後に、現在ヴィランがダムの爆破を計画しているという旨が書かれており、それを阻止。最低でも犯人は確保してほしいという旨が記されていた。

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