第10話
権能とは神の与えた恩寵であり魔法や技術を飛び越えた、異常ともいえる特殊な能力の事である。
最も一般的な物であれば治癒の権能、この権能を持つ者は他の魔法使いよりも効率的に治癒魔法を行使できる。
数で言えば、クリス達の住む世界では1000人に1人の割合で権能を持っている。
なお権能持ちは就職に有利であったりするため公言している者もいれば詐称している者もいるが、公にしたがらない者もいる。
何も全ての権能が良いものではない。
例えば呪いの力を強める権能などは世間的に忌避される傾向にあるからだ。
それも相まって、あえて言うならばナコトの持つ権能は比較的真っ当な物ではあるが身内とはいえ他人の内情を話すのは憚られると言葉を濁す父にクリスは不思議そうな視線を向けるが、それはクリス母によって遮られた。
「ナコトについては本人に聞くべきね。あの子もそれなりにいろいろ背負っているのよクリス」
「うーん……まぁお母さんがそう言うなら……あ、じゃあこっちのルルイエって人は? 名前的にお父さんの眷属っぽいけど」
ルルイエとは、海に住まう邪神クトゥルフとその眷属が住まう聖地の名であり同時にクトゥルフの眷属が後生大事にしている魔導書の名でもある。
クリスの考えでは何かしらの理由でその名前を父であるクトゥルフ、今の姿で言うならばフィリップス・クラフトから与えられたと考えるべきである。
ナコトに関しては別の名付け親がいるだろうと想像していたが本人に聞けと母に言われたばかりなので口に出さずにいた。
「ルルイエかぁ……あいつはあいつでなんと説明したらいいか……難しいけどクリスと同じことを考えて、それに失敗した奴ってところかな」
「じゃあ元ヒーロー?」
「断じて違う」
「そうね、あれはヒーローとかそういう善性の器じゃないわ」
クリスの問いに否定と言う形で即答した両親に、今度はクリスが目を見開いて驚く番だった。
少なくともここまで言い切るというのは、クリスの両親にしてみればめったにない事である。
昔はやんちゃをしていたという二人だが、子煩悩な一面がありクリスの前では物腰柔らかく、そして斬り捨てるような物言いはしないのだ。
「あの……何か問題でもあるの? その、ルルイエさんって……」
「問題……か……なんというか、なぁ……」
「そうよねぇ……ちょっと言いにくいわよね……」
今度は一転お茶を濁すように言葉を渋る二人にクリスの不安は膨れ上がる。
切り捨てることは無いが、必要な事はしっかりと伝える両親が言い淀んでいる。
間違いなく深い理由があるのだろう、そう察したクリスは不安を飲み込むと朗らかに微笑んで見せた。
「大丈夫だよお父さん、お母さん。どんな人かなんてのは追々知っていけばいいんだから。だから私この探偵事務所でアルバイトしたいの!」
「ナコトの家でルルイエの助手か……不安は残るんだが……マリアはどう思う」
「私はさっき賛成って伝えたわ。あとはあなた次第よ?」
「むぅ……しかたない、一筆したためておくか。クリスはナコトに電話を入れて……そうだな、明後日の朝行くと伝えておきなさい」
「はーい」
父の言葉に元気よく返事をしたクリスだったが、ポケットからスマホを取り出そうとした瞬間に母がそれを遮った。
「二人とも、それはご飯の後でね」
そう言うクリス母の手にはいつの間にかシチューがたっぷり入った鍋とローストチキンの乗った皿があった。
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