第5話 先輩とお話し
「え~と・・・」
「・・・・・・」
どうしようかな。
渋沢は出掛けちゃったし。
春香さんも部屋に戻っちゃったし。
先輩は・・・さっきから俯いて黙ってるし。
仕事以外で水奈先輩と一緒にいられるのは嬉しいけど何?このシチュエーションは。
それに・・・今日の先輩っていつもと雰囲気違うから普段よりも緊張するんだよな。
口調は相変わらずな感じだけど、プライベートだからなのかいつもの張り詰めた感じも無く、少し失礼な言い方かもしれないけど・・・凄く可愛い。
そういえば、さっき春香さんが僕達に"付き合っちゃえば"とか言ってたよな。
ああ言ったってことは水奈先輩には今彼氏がいないってこと・・・だよな。
冴島さんのことは水奈先輩が否定していたし。
でも、だからといって僕が付き合えるってわけじゃないよな。
そりゃ先輩と付き合えるなら嬉しいけど僕なんかじゃ釣り合い取れないよ。
先輩は美人だし何でも出来るし。
それに比べて・・・僕は何をやっても人並みで。
仕事もまだまだだし。
あ、でも気になる新人君が居るとも言ってたよな?
成海ってことは無いだろうし・・・もしかして僕のこと?
だとしても"気になる"ってだけで"好き"かどうかはわからないし。
危なっかしくてミスしそうで気になるとかかもしれないし。
あ~もう気になる。
さっきから色々な事が思い浮かんでくるけど、そもそも先輩がさっきから視線すら合わせてくれない。
本当どうしよう。
凄く気まずいし、そろそろ何か話してくれないかな。
でも・・・やっぱり僕から話しかけないと駄目か?
だよな。うん。ここは僕から話しかけないとな。
僕は意を決して先輩の方を見つめ声を掛けてみた。
「あ あの。朝食美味しいですね」
ベタすぎるかもしれないけど一緒に食べてるんだし良いよなこれで?
と、先輩は少し顔を上げ一瞬戸惑った表情をしつつも返事をしてくれた。
・・・相変わらず視線は合わせてくれないけど。
「・・・春香は・・・料理が上手だからな」
「そ そうですよね。凄く美味しいです」
「そ そうだろ♪」
春香さんを褒めたはずなのに、何だか自分のことのように嬉しそうな声音で先輩が話に乗ってきてくれた。
いい感じだ。というか本当に春香さんと仲がいいんだな。
よし。この感じで会話をつなげよう。
「水奈先輩は春香さんのところによく朝食を食べに来てるんですか?」
「ああ。最近は来てなかったけど学生時代はよく来ていたな。春香とは大学のバスケ部で仲良くなったんだけど、当時の私は一人暮らしだったからよく食事に誘ってくれたんだ」
「そうなんですね。一人だと何かと大変ですものね」
「そうだな。それに一人だと食事も味気ないしな」
確かにそうだよな。
僕も一人暮らしを始めたばかりの頃は何だかちょっと寂しく感じた。
それに一人だと思うとつい食事も手を抜いちゃう事が多かったしな。
「ですね。それにしても水奈先輩って本当に春香さんと仲が良いんですね」
「春香は年下だけど・・・私にとっては何でも話ができる大切な親友だ」
「羨ましいですね。そういう関係って。
あ、そういえば春香さんの彼氏さんって成海の同級生で幼馴染なんですよね?
凄く仲が良くいって聞きました」
「春香の彼氏なら睦月君だね。そうだな確かに仲がいい。
ちなみに彼も大学のバスケ部の後輩だったから知ってるぞ。
誠実でしっかりした子だ」
「へぇ。でも良いな睦月さん」
「ん?何がだ」
「だって春香さん料理上手ですし。羨ましいですよ」
と、笑顔で僕が答えると直前まで優しい感じの表情で僕と話をしていた先輩の顔が急に険しくなった。
え?何?何かまずいこと言ったか僕?
「わ 私だって春香ほどじゃないけど料理とか出来るんだぞ!
掃除だって洗濯だってちゃんと出来るし・・・」
「は はぁ」
先輩は急に焦りながら僕に家事が出来ることをアピールし始めた。
どうしたんだ急に。
別に先輩が料理とか出来ないなんて思ってないけど。
昨日とかも会社にお弁当を持ってきてるのを見てるし。
多分手作り弁当だよな。
あ、そういえば一昨日持ってきていた唐揚げも美味しそうだったな。
僕のために作ってくれるとかは・・・ないよなぁ~
なんてことを考えていると
「その顔は 信じてないな!」
「いや そんなことは」
唐揚げ思い出して少し呆けた顔をしてたかもだけど・・・信じてない顔ってどういう顔だよ。
と、反応に困っていると先輩は尚も焦った様子で捲し立ててきた。
「そ そうだ。それなら今度は私が食事を作る。これでどうだ!」
「え?先輩が僕に食事を作ってくれるんですか!」
何が"これでどうだ"なのかはわからないけど先輩が僕に手料理を食べさせてくれるってことなのか?
僕が食い気味で話しかけたことで先輩も少し驚いた顔をしている。
「ふぇ?」
「だって今先輩が言ったんじゃないですか?
食事作ってくれるんですよね?
期待しちゃって良いんですよね?
まさか期待しちゃったのに"冗談だった"とか言わないですよね?」
もう言質取りましたからね。
絶対食べさせたください!出来れば唐揚げで!
「わ、わかった。わかったから落ち着け!
そ それに」
「それに?」
「顔が近~い!!」
「あ、す すみません」
僕はテーブルに乗り出すような形で先輩の眼前まで近づいてしまっていた。
今にも鼻と鼻がぶつかりそうな距離。
何だか今更ながらに僕も顔が熱くなってきてしまった。
先輩も照れているのか顔が赤い。
「そ、その・・・。ちゃんと作るから」
「あ、あの・・・よろしくお願いします」
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