第2話 先輩を名前呼び!?

「なるほど。確かにこうやって書いた方が相手に伝わりやすいですね」

「でしょ?資料を作るときはね、ただデータをまとめて書くだけじゃなくて相手が求めている内容も意識して書かなかきゃ。

 まぁ私も入社当時に言われたセリフだけどね」

「はい!」


昼休み明け、僕は会議室であらためて提案資料のレビューを受けていた。

午前中指摘を受けた計算式や文章の記載順序など"私ならこうするかな"とアドバイスもしてもらえた。本当勉強になる。


と、僕がPCのモニタから視線を先輩に移すと先輩が僕のことをじっと見ている(というか睨んでる?)のに気がついた。

まだおかしなところとかあるのかな?


「・・・どうかしたんですか先輩?なにかまだ資料に問題が?」

「ふぇ!?あ、な、なんでも無い。うん。なんでも無い」

「はぁ」


先輩何を焦ってるんだ?


「そ、それより。誤字脱字!資料は提出する前にセルフチェックをちゃんとすること!わかった?あと、計算式の部分はちゃんと教えてたんだから同じことを何度も聞かなくてよいようにね」

「はい。すみません。。。」


今日はいい感じだなと思ってたけど、結局今日も注意を受けてしまった。

ほんと毎回最後は叱られて終わりなんだよな。

早く先輩に認めてもらえる様にならないと。


「わ わかればいいのよ。それから・・・・」

「何でしょうか?」


まだ、注意受けるようなことあったっけ。


「営業部には私の他にもうひとり槇村って居るわよね?」

「はい。亮太さんですよね?」

「そう。槇村亮太。私の1年後輩よ。

 ・・・なんで彼のことは亮太さんで私のことは牧村先輩なの?」

「え?なんでって言われても先輩は先輩ですし」


何か問題あるのか?

渋沢も牧村先輩って呼んでたよな?

それに亮太先輩は自分から牧村はもうひとり居るから"亮太とでも呼んでくれ"って言ってくれたんだよな。


「そこじゃない!名前!!なんで私は名前呼びじゃないの?」

「は!?(そこ!!)」

「水奈さん。私のことも名前で呼びなさい!」

「え!?先輩のことを名前でですか!」


いやいやいや。

女性同士ならまだしも僕が先輩を名前でとかまずくないか?

先輩って色んな意味で目立つのに僕なんかが名前呼びしてたら誤解されちゃうよ。

でも・・・先輩命令だしな。

よ、よし!


「・・・水奈・・・先輩?」

「う~ん。先輩はいらないんだけど」

「いや・・・でも」

「まぁしょうがないか」


しょうがなくないです。

学生時代ならともかく会社で先輩を名前でなんて呼べないですよ。

っていうより何で急に?


僕がそんなことを考えながら困った顔をしていると先輩は僕から視線を逸しながら机に広げていた書類を片付け始めた。


「じゃ私はこの後会議があるから席外すけど、その資料は課長にもチェックしてもらってね」

「え?課長に?」


この資料って練習課題とか言ってなかったっけ?課長に見せる?

確かに数値とかは結構具体的だったし、実際に今度発表される新製品の品名とかも書いてあったけど。


「そ。確かに練習用とは言ったけど題材は次に営業に行くお客様の案件なのよ。

思ったより良く出来てたから課長がOKくれたら私と一緒に営業行きましょ」

「ええ!!!この資料でですか!!」

「まぁもちろん手直しはするかもしれないけどね。それにお客様に坂下君のことも紹介したいし」

「は はい・・・」


いきなり過ぎますよ先輩。

一応名刺は作ってもらったけどまだ使ったことすら無いのに。


「大丈夫よ。自信持ちなさい。良く出来た資料だと思うし私が保証する」

「先輩がですか?」

「あら?私じゃ不満かしら?」


先輩はそう言いながら僕の顔を覗き込んできた。

先輩・・・顔近いですよ。


「い いえ、そんなことないです。嬉しいです!」

「うん。よろしい。じゃ訪問先の資料見ておいてね」

「はい」






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「はぁ~緊張した」

「お疲れさん。でも良かったな。資料褒められて」

「嬉しいけど牧村先輩に指示された通りに書いただけなんだよな・・・」


先輩に提案書のレビューを受けた後、僕は早速課長のところに資料を持って行った。気さくで話しやすい人だし、普段からお昼一緒に行ったりとやり取りはあるんだけど自分の作った資料を見てもらうと思うと何だか緊張してしまった。


が、緊張しながらも説明した資料は中々の好評価を頂けた。

実際、謙遜とかじゃなく殆どの部分は先輩に言われたとおりに書いただけだったんだけどやっぱり評価されたのは嬉しい。

ちなみに課長にも先輩の指導を受けたことは説明したけど新人レベルでは十分な内容だとのこと。まぁ先輩の作る資料と比べちゃうとまだまだらしいけど・・・


「後でちゃんと先輩にお礼言わないとな」

「え?」

「先輩のおかげなんだろ?資料褒められたの」

「確かにそうだな。色々と指導は厳しかったけど先輩には本当感謝だよ」

「俺も頑張らないと。同期として差をつけられるのは何だか悔しいし。

 あ、それより今日も飲みに行くんだろ?」

「そうだな。何だか緊張して疲れたし飲むか♪」


最近は仕事終わりに駅前商店街の居酒屋で渋沢と飲むことが多い。

お互い飲むのが好きということもあるけど慣れない仕事で色々とストレスも貯まるしね。

それに渋沢が教えてくれた小料理屋がいいんだよなぁ。

食事も美味しくて、お酒だけじゃなく料理も楽しめる。

それに値段もリーズナブルで最近は休みの日もランチ食べに行ったりしてて常連になりつつある。

今日は何を食べようかな。


などと、渋沢と話しをしながらビルのエントランスへ歩いていると受付の近くに牧村先輩が居ることに気が付いた。


「あれって牧村先輩じゃないか?お礼言うんだろ?」

「そうだな。水奈せんぱ・・・」


今日のお礼を言うために声を掛けようとしたけど・・・

先輩は"男性"と話をしていた。

しかも僕とやり取りしている時の気難しい感じの顔じゃなくて、優しく楽しそうな笑顔で。

確かあの人って・・・


「あの人、総務部の冴島さんだよな?女子にすごく人気がある。

 何だか牧村先輩といい雰囲気じゃないか?」

「・・・あ、あぁ」


冴島さんは年齢的に牧村先輩の先輩か同期の人とかだよな?

仲が良さそうというか・・・本当いい雰囲気だ。

それに牧村先輩も細身で背が高い方だから長身の冴島さんと釣り合いもいいし、悔しいけど僕よりも全然お似合いに見える。

って何を自分と比べてるんだ僕は。


「声掛けないのか?」

「あ、あぁ止めとく。。。そ それより早く飲み行こうぜ」

「あぁ」


何だかあの場に割って入る勇気が今の僕にはなかった。

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