ツンな上司と甘やかしたい僕

ひろきち

第1話 先輩は厳しい人?

6月。

今年大学を卒業した僕[坂下啓二]は、製薬大手の川野辺製薬に入社した。

何社受けても中々内定が取れず、焦る中で受けた地元の大企業にまさかの内定。

何だか一生分の運を使い果たしてしまった気がしたよ本当。


で、4月に無事入社した僕は、わからないことが多いながらも新人研修を何とか乗り切り、この6月に初の現場となる営業部に配属された。

元々広報や営業の職種を希望していたんだけど、製薬会社というだけあって例年新入社員は研究や薬剤に関する部署の希望者が多いらしく僕の希望は通りやすかったらしい。まぁ普通はそうだよね。

ちなみに新入社員は結構いたけど営業部に配属されたのも僕の他には1名だけだ。


そして、今は営業部の中でも若手のエースと称される牧村先輩の下で色々と勉強させてもらっている。

ただ・・・


「坂下君!昨日もらった提案資料だけど誤字が多いわよ。それに途中の計算式も間違ってる。この間説明したわよね?ちゃんとチェックした?」

「すみません。チェックはしていたんですが」

「・・・そう。だったらチェックの仕方から指導が必要なのかもしれないわね。

 今から打ち合わせだけど戻ったらもう一度説明するからね」

「はい・・・よろしくお願いします」


眉間にシワを寄せ困ったように僕に注意をする牧村先輩。


まぁここ数日はこんな感じで毎日のように叱責を受けつつ過ごしている。

自分なりには結構頑張っているつもりなんだけ慣れない仕事で抜けやミスも多いし叱られてばかりで結構凹む。

まぁ、ミスしたところやわからないことは僕が理解するまで教えてくれる面倒見が良い先輩ではあるんだけど、ちょっと口調がきついくて・・・その・・・何だかちょっと怖かったりもする。


そう思いながら牧村先輩を再び見ると自分の机の上に置いてあったPCを持って会議室へと小走りで向かっていった。

いつも時間には余裕を持って行動する人なのに今日はギリギリなのかな?

あ、もしかして僕の資料をチェックしていたから?

誤字が多くて時間かかっちゃった?


「はぁ。。。駄目だな僕」

「よぉ坂下。相変わらず大変そうだな」

「あぁ渋沢か。まぁな」


何だか全てが僕のせいの様に思えてきて自己嫌悪に陥っていると同期の渋沢に声をかけられた。

渋沢は僕以外で唯一営業部に配属された新入社員で、僕と一緒に牧村先輩の配下で色々と教えてもらっている。


渋沢とは入社式の時に席が隣で顔見知りになったんだけど、配属先も同じ営業部ということで最近は仕事終わりに一緒に飲みに行ったりするなど仲良くしている。

まぁ半分以上は僕の愚痴を聞いてもらってるんだけど、渋沢って裏表がないというか体育会系ですごく話しやすいんだよな。

確か大学までバスケやってたとか言ってたよな。


「それにしても完全にお前目をつけられてるよな」

「・・・だな。何か僕が気に障るようなことしたのかな?」

「う~ん。俺が見てる限りは何もしてないと思うけどな。むしろよくやってると思うし期待されてるんじゃないのか?少なくとも俺よりは仕事できるしな♪」

「はは ありがとな」


ほんと。そのセリフを牧村先輩から言われたいよ。。。

足を引っ張るだけじゃなくてちゃんと評価されたい。


「まぁ、あれだよ。他の先輩方も言ってたけど牧村先輩って仕事に厳しい人だし、新人を部下に持つのは俺達が初めてらしいから指導についても加減がわからないんじゃないかな」

「そうかもしれないけど・・・渋沢に対しては結構普通な態度じゃないか」


そうなんだよ。

渋沢への指導はそんなにきつくないし口調も穏やか。

仕事のボリュームもそこまで多くない。

本当謎だよこの差別。僕が何かしたのか?昨日の書類だって練習課題だとは言ってたけど新人が作るレベルじゃないでしょきっと。


「まぁ期待されているってことで頑張れや。実際成果も少しは出せてきてるだろ」

「他人事だと思って。。。」

「拗ねるなって。まぁでも実際先輩って凄いよな。

 俺達と歳はそんな変わらないのに主任だぜ」


だよな。本当先輩は凄いよ。

営業成績もトップクラスだし、何でも卒なくこなすし・・・すごく綺麗だし。

ちょっと憧れるよな。


「確かにそうだよな。歳は確か3個上だったっけ?」

「流石詳しいな♪ あ、先輩彼氏とか居るのかな?」

「彼氏って・・・・もしかしてお前牧村先輩のこと?」


彼氏?

考えたこともなかったけど先輩くらいの人なら・・・

少し仕事に厳しいところはあるけど僕にとっては高嶺の花なんだぞ!!


「あ、いや別にそういうわけじゃないけどさ。ほら前に言ったろ?

 うちの姉貴の部活の先輩だったって。だから学生時代にも何度か会ったことはあるんだけだけどさ」

「あるんだけどさって、何か変なのか?」

「変ってわけじゃないけど、その頃はもっと年相応というか表情も豊かだった気がしたんだよな。今ほど厳しい感じの印象なかったし」

「表情が豊か?」

「そ、今とは雰囲気が大分違ったと思うぜ。

 あ、ちなみに俺には麗美がいるし先輩のことは狙ってないから安心しろ」

「あ、安心って僕は別に・・・」


忘れてた。こいつ羨ましいことに彼女がいるんだった。

この間飲みに行った時に散々自慢されたんだっけ。

幼馴染で美少女とか・・・どこの小説の世界だよ。僕にはそんな幼馴染いないぞ。

高校も男子校だったし大学も女子率低かったし。


そ それより安心ってなんだよ・・・僕が先輩のことを?

いやいや、ないない。

確かに牧村先輩は良くしてくれるし憧れはするけど、口調もきつめだし、表情も普段から気難しい感じしてるし・・・美人だけど・・・僕のことなんて興味ないさ。


「まぁそれはそれとして昼行こうぜ昼。先輩ランチミーティングだろ?

 戻ってくるの昼過ぎだしさ」

「そうだな。僕も腹減ってきたわ」

「よっしゃ!ラーメン行こうぜ!ラーメン。俺いい店知ってるんだ♪」


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