第48話 ウッドストックの光と影

 厚生労働省・医政局。美咲はデスクの向こう側の部下に視線を向けた。


「あと2日だが、彼らに動きはあったかい?」


「はい、局長。公安警察からの情報ですが、監視カメラの映像から、昨夜3人とも、ベースメントというライブハウスに向かったそうです」


「彼らが演奏している場所だね」


「仰る通りです」


「ところで、君はロックと呼ばれる音楽を聴くのかな?」


「ええ、多少ですが」


「私の生まれるずっと前の話なんだが、1969年にアメリカでウッドストックという音楽イベントがあったんだ。そこに集まった40万人の若者たちは、当時泥沼に陥っていたベトナム戦争を止めるために、愛と平和を掲げた。君、どうしたのかね。そんなに驚いた顔を浮かべて」


「いえ、局長からそういったお話を伺うのは初めてでしたので」


「そうか。うん、私なりに調べてみたんだよ。だが、若者たちがどんなに愛や平和を叫んでも、ベトナム戦争を終結に導くことはできなかった。所詮はその程度の音楽にしかすぎないんだ」


「ええ」


「ただね、彼らもそれなりに力をつけていることは事実だ。君ならばどういった策を講じるかね?」


「先般、局長から指示を賜りました、紫の使用を進言いたします」


「つまりガイドラインに則り、これは有事であると、そういうことだね?」


「はい」


「紫を使う。確かにそれも一理ある。紫を用いて、彼らのコンサートを叩くことも可能だろう。だが、それでは情報の拡散力が弱い。それに私は同じ手を二度使うことは好みではないんだ。私はね、この機会をチャンスだと考えている」


「チャンスと申しますと?」


「このところ、世間ではセカンド・チャンス政策への良くない噂が広がっている。そこで、この機会を利用させてもらって、セカンド・チャンス政策の正当性を全国民に知らしめたい。そのためには広告塔が必要だ。彼らにとっては不本意だろうが、セカンド・チャンス政策の広告塔の座を彼らにプレゼントしてあげたい、そう考えているんだ」


「もし、よろしければ具体案をお聞かせいただけませんでしょうか?」

「2日後にすべてが分かるが、君にヒントをあげよう。2日後に彼らは恥と屈辱、絶望、無力感を味わうことになる。ここから先は、すべて私に任せてくれて構わないよ」

 

 美咲は部下が去ったあと、デスク上の電話で受話器に告げた。


「関係各所に連絡して、シナリオどおりに事を進めてくれたまえ。首相官邸には、私から要請をかける」

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