第36話 一縷の望み

 リュウスケは診察室のソファーに腰掛け、コーヒーを口に運んだ。


「ねえ、リュウスケ、本当に出演するの?」

 

 隣に座っている香織に尋ねられた。


「ああ、出演するよ」


「あの人を信じているの?」


「さすがの俺もそこまでバカじゃないよ。完全に信じちゃいない」


「だったら、出演しないで」


 香織が鋭い口調で告げた。


「どうして?」


「だって、敵なのか、味方なのか分からないんだよ。何が起こるか分からないじゃない」


「そのときは、自分を殺してくれって、あいつは言ったんだよ」


「そしたら、リュウスケ、あなた殺人犯になっちゃうんだよ」


 香織はリュウスケの方を向いた。


「たださあ、香織、今サチを救う方法は、これしかないんだよ。そいつに賭けるるしかない。時間がないんだ、それに」


「それに?」


「あいつの歌とギターは本物だ。これだけは信じてるんだ」

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