第26話 暴かれた秘密
午前3時、カズヤからの連絡を聞いたリュウスケは、ベースメントの扉に体当たりして、中へ入った。
「どこから情報が漏れたんだ?」
息を切らせながら尋ねた。
「これだ」
カズヤの手のひらの上に、直径5ミリほどの丸いチップが乗っている。
「何だよこれは?」
「盗聴器だ。初めてここでミーティングをした時の俺たちの会話が動画サイトにアップされた。その後、あっという間に拡散だ。すべてのテーブルにこれと同じ盗聴器
が仕掛けられいた」
「サチはそれを聞いたのか? それは確かなのか?」
リュウスケは声を荒げた。全身に熱が広がっていく。
「俺もヒロも地下のサチの部屋に行った。何度ノックをしても、返事がない。ドアに耳を当てたら、泣き声が聞こえた」
リュウスケは、隣のテーブルを両手で掴み、なぎ倒した。
「仕掛けたのはあいつらなのか?」
荒い呼吸で尋ねた。
「だろうと思う。厚生労働省か文部科学省が公安警察に要請をかけたんだろう。おまけに、こんな物が出回っている」
カズヤはバッグの中から一冊の本を取りだした。表紙を見たリュウスケは愕然とした。
表紙には《生まれ変わる私》というタイトル、サチのイニシャル、帯には《セカンド・チャンスに至るまでの一人の少女の感動的独白。全国民必読の一冊》とある。
「金目当てのゴーストライターが書いたんだろうと思う。これも連中の仕業だろう」
リュウスケは、カズヤの手から奪い取るように引き寄せ、ページをめくりはじめた。
「リュウスケ、読む価値はない。全部デタラメだ。それよりサチの部屋に行け、楽器倉庫の隣のドアだ。お前ならドアを開けるかもしれない」
リュウスケは地下に向けて疾走した。楽器倉庫の隣に木製の赤い扉が見えた。
静かに扉をノックした。
「サチ、俺だ」
返事がない。
「サチ、リュウスケだ、聞こえたら返事をしてくれ」
「頼む、サチ、返事をしてくれ」
すると、ドア越しにサチのすすり泣く声が聞こえた。
「サチ、お前の顔が見たいんだ。入ってもいいか?」
数秒後、ガラスの割れる音と衝撃がドアを伝った。何かをドア目がけて投げつけたのだろう。
「誰にも会いたくない。一人にして。入ってきたら私、自分で死ぬから」
絶叫に近いサチの声がリュウスケの耳に届いた。
「会えたか? リュウスケ」
「いや、会えなかった。完全にヒステリーを起こしている」
「もう俺嫌だよ。毎日毎日こんなことばっかりで。一体俺たちが何をしたっていうんだよ? 何が何だかもう分からないよ」
ヒロキはテーブルに顔を埋め、泣きじゃくっている。
「この国はどこまで腐れば気が済むんだ?」
震えた声でカズヤがつぶやいた。リュウスケは初めてカズヤの涙を目の当たりにした。
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