第22話 迫り来る『有事』
「例の経済特区の状況なんだが」
美咲はデスクの上で両手を組んでいる。
「現在、経済特区内すべてが赤の状態です」
部下が即座に報告した。
「赤とはガイドライン上では敵意だったね」
「はい」
「タイミングについてはどうかな?」
「はい局長、本日午前5時15分に設定いたしました」
「つまり、統治者の投稿の直後ということだね」
「仰る通りです」
「ところで、これを見てほしい」
美咲はプリントアウトした一枚の紙を手渡した。
「これは」
部下の表情に、困惑の色が浮かぶ。
「統治者が指摘した、片桐竜介という人物の資料なんだがね、どうやら音楽を通じて我々の計画を阻止しようと画策しているらしいんだ」
美咲の口調は穏やかだが、威圧が込められていた。
「お言葉ですが局長、こういったケースは文部科学省の管轄ではないかと」
部下は慎重に言葉を選ぶ。
「私も承知しているよ。ただね、私はこの計画を通じて、文部科学省に力の差というものを実感してもらいたいんだ。確かに共同プロジェクトだが、残念ながら文部科学省には優秀な人材がいない。悪い言い方だが、お荷物なんだ。今のうちから、財務省によい印象を与えておきたい。予算獲得のためにね」
「はい」
「もちろん、私も音楽で我々の計画を阻止するなど、あり得ない話であると思っているよ。まったくもって荒唐無稽な話だ。ただ、統治者が名指しで指定した人物だ。警戒するに越したことはない。そこで君に託したいことがある」
美咲は部下の目をしっかり捉え、告げた。
「何でしょうか?」
「資料の二枚目を見てほしい。地下鉄の路線図を拡大したものだが、印のついている場所、ここを紫に設定してくれないか」
「局長、紫は有事の際のみ設定というガイドラインがございますが」
部下の声は小さく、萎縮しているように感じられた。
「君の言う通りだよ。まさしく有事なんだ」
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