第17話 マインド・セッティング
美咲は、医政局の室内にあるサーバールームのコンピューター画面を見つめていた。
画面の右上には、英語表記の「マインド・セッティング」の文字が青く点滅しており、東京都内の各地区が様々な色で染まっている。
6畳ほどの室内にはアプリケーション・サーバーが3台設置されており、オペレーターが椅子に座っている。
サーバーの稼動音を聞きながら、美咲はオペレーターの背後から指示を始めた。
「ますは、A23番の不満を少し下げてみよう」
オペレーターが指示に従い、マウスを右クリックすると、別ウィンドウが開いた。怒り、不満、恐怖、安堵、不安、嫉妬などのワードが表示される。
オペレーターは不満をクリックし、マップ上のA23番地区にカーソルを合わせ、クリックした。すると、A23番地区の色が微妙に変化した。
「次は、B3番の怒りを上げてくれるかい」
同じ手順で、やはり色が変わる。
「あとはA6番。喜びを下げよう」
美咲の指示はさらに続き、やがて都内全体の色が、淡いブルーに近づいていく。
「最後に都内全体の不安。これを上げよう。もう少しかな。うん、それでいいよ」
「局長、お伺いしてもよろしいですか?」
「構わないよ」
「何故、不安を上げられたのでしょうか?」
「ああ、それはね、人間は不安に駆られると、自分よりもさらに不幸な人間を探す。比較をすることで安堵感を得る生き物なんだ。これは基本だ。君もよく覚えておきなさい」
「ご指導ありがとうございます、局長」
「当面は経済特区B13番、世間ではウバステと呼ばれているようだが、被験者も決定したところだし、特に注意を向けて欲しい。もし色が変化しはじめる徴候がみられたら、すぐに私を呼んでくれ。頼んだよ」
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