第4話 禁じられた遊戯
目を開けると、自分が椅子に座っていることに気がついた。
そこは灰色の6畳ほどの空間だった。
身体の関節、とりわけ肩甲骨付近に痛みを感じる。
リュウスケは反射的に両腕を広げようとしたが、手首に痛みが走った。
視線を手首に向けると、手錠が見えた。そういうことか。
目の前にはスチール製の灰色の机、向かいにはどす黒い顔色、白髪混じりの短髪、スーツ姿の男が座っている。
年齢は50歳前後と思われた。男が口を開いた。
「ようやく、お目覚めの時間か」
低く、威圧的な口調だった。
「ああ、おはようさん」
「いい返事だ。挨拶はきちんとしなきゃな。だが口のきき方には気をつけろ」
男は片方の指先で机を3回叩いた。
「自分が何をしたのか、分かっているよな?」
男は腕を組んだ。
「あんたと同じく、ただ息をしていただけだ。たまたまブルースハープをくわえてたけどな」
男はパイプ椅子から立ち上がると、リュウスケに近づいた。無造作にリュウスケの髪を掴んだ。頭皮に痛みが走る。
「ずいぶんと気の利いた言い訳してくれるじゃねえか」
「言っておくが、俺が吹いたのはロックじゃない。ブルースだ。ブルースはロックの産みの親だぜ。親を敬うことのどこが悪い」
拳が飛んできた。左頬を打たれたリュウスケはパイプ椅子から転がり落ちた。口の中に痛みと鉛の味が広がる。
「座れ」
リュウスケは身体を起こし、再び椅子に座った。
「どうやって俺を見つけたんだ?」
「警察を舐めるなよ。ゴミを見つけるのは簡単だ。ゴミ箱を探せばいい」
「毎日毎日ゴミあさりか。大変な仕事だな」
「ああ、おかげで1日に3回は風呂に入らなきゃ匂いが落ちねえよ」
男は苦笑を浮かべながら告げた。
「俺の容疑は何だ?」
「俺はロックなんてものにまったく興味がない。だがな、国が決めた法律だ。お前には従う義務があるんだよ」
「もし俺が従わないと言ったら、あんたどうするよ?」
「お前を特別矯正所に移送する」
男はゆっくりとした口調で答えた。
「馬鹿言えよ、そんなものがあるわけないだろうが」
リュウスケは語気を強めた。
「さあな、まあ夜もだいぶ深くなった。続きは夜が明けてからとするか」
リュウスケは係官に連れられ、拘置所へ入った。
★
自分の名前を呼ぶ声で目が覚めた。
昨夜とはどこか違う感覚を覚える。
すぐに分かった。手錠が外されている。眠っている間に外されたのか。
「
係官が無機質な口調で告げる。
昨夜と同じ部屋に連れていかれた。椅子に腰掛ける。
机にはリュウスケの所持品とタブレット端末が置かれている。
机の向こう側には昨夜と同じ男が座っていた。
「おい、手錠を外したな。どういうことだこれは?」
リュウスケの声が、部屋に響く。
「この地区の管轄に異動になって、もう5年目だ」
男はため息交じりに告げた。
「そりゃまあ、なんとも。ご苦労さん」
「5年もの間、来る日も来る日もお前のようなゴミを相手にしているとな、まともに仕事してるのがばかばかしくなってくるんだよ」
男は口元に笑みを浮かべながら、リュウスケの革製の長財布を手に取った。
ジッパーを開け、財布の中から1万円札を3枚抜き取った。
「俺がゴミなら、あんたは国家の犬だろう。犬としてのプライドはないのかよ」
「そんなプライドは、もうとっくに捨てたよ」
男は3枚の1万円札をスーツのポケットに無造作に入れた。
「お前も自由になりたいだろう。俺もこういう仕事のやり方が好きだ。まあ、相思相愛ってやつだ」
リュウスケはラバーソウルのつま先で机の脚を蹴った。
「釈放だ」
男はタブレット端末をリュウスケの前に差し出した。
タブレット端末の画面に視線を向ける。
リュウスケのフルネームと「経済特区特別措置法違反」という文言、今日の日付「プロジェクト歴29年12月25日」と表示されている。
「右下に、親指を乗せろ」
リュウスケは言われた通り、右手の親指を乗せた。
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