02.なんでも褒められると誤解しますがディスられても死にます

「クイル、ああ、なんと素晴らしい名前だ」


 何故かシオン王子は僕の名前を聞いて感涙の涙を零している。普通に怖い。どうしよう、人が怖い。これは人見知り系ではなく、ホラー的な恐ろしさである。


「ああ、偉大なる死の神の御使いである鳥様の意味を持つ名、まさに告死天使様に相応しい名だ」


「素晴らしい、まさに神が我々を見捨てていなかった証だ」


 間違いない、この人達はヤバイ狂信者系の人達だ。何とかして逃げたい。けれど所詮死神やっかいなニートでしかない僕にできることなんて割と限られている。というかないに等しい。悔しいほどに僕は実社会の経験がない。


 大体、死神やっかいなニートって設定なだけで僕には人を殺す能力があるかも本当は怪しい。確かに白い髪に紫の目とか激レアカラーリングではあるが、それだって全く確率的に生まれない訳ではないし……。


 あ、でも、もしかして異世界召喚あるあるで、この国に来てチート技能に目覚めたとかあるやもしれない。


 そして、今まで人がいっぱいで怖すぎて忘れていたけれどこれって僕が憧れていた、異世界召喚ものの主人公になった訳で、つまりうまくいけば僕は可愛い女の子に囲まれてキャッキャウフフできるやもしれない。


 そう思って、初めて怖いけど周囲を見渡す。そしてすごい微妙なことに気付いた。僕の眼球が腐り落ちていないなら、どう見ても女性らしき人がいない。


 中性的でどちらかよく分からない人は若干数いる。けれど今見える範囲に女性がいないのだ。しかし、諦めるな僕、もしかしたらあんまりそういうのは良くないけれど女性の地位とかが低い国でこういうところに女性が来ないとかそういう可能性もある。


 確認のため、僕はシオン王子に聞いてみることにする。


「あの、えっと、女の子は、どうして……」


 あまりしゃべったことないから完全に挙動不審のヤバイ人と化していた。あかんこれはいけない、完全なる不審者だ。でも仕方ないよ、だって僕は死神やっかいなニートでしかないもの。引きこもり歴=全人生舐めてはいけない。


「女性はこの区画にはおりません。我々は死がないので法で異性間で触れ合うことを禁じております。子供が出来続けると生活が困難となりますので」


「えっ!!」


 終わった。僕のハーレムウフフな異世界召喚生活が終わった。つまり実質男だけの世界ってことでしょう、それどこのBL小説だ。拙者、なんでも偏見なく読むタイプのオタクゆえに嗜んでみたことはあったけど、読むには楽しいけど自分がその世界に行くことになったら全力で、それはもう散歩拒否のわんこくらいの勢いで嫌がるところです。


「ああ、死の有る世界から、いらっしゃったクイル様からしたら奇怪ですよね。しかしご安心ください。それに関してはちゃんとした処理方法もございますので」


 柔らかく親切に微笑んでいるシオン王子。本来なら感謝したいところだけど性処理方法を他者に聞かないといけないとか、死神やっかいなニートには敷居が高すぎて、最早壁どころか砦になるくらいの高さだ。


「ははは」


 とりあえず愛想笑い、ただし声だけで顔はチベットスナギツネ風味でお返しした。早くこの諸々から逃げたい。そう考えていた時、群衆からひとりの男が現れた。彼は体中傷だらけでまるでバーサーカーのような出で立ちの人物だった。つまり滅茶苦茶怖い。


「あんたが、告死天使か?胡散臭いな」


「あ、あばば」


 今まで、好意的な意見しか聞いていないタイミングでいきなりディスられるとダメージがクリティカルするらしい。今まさに僕はそんな状態で金魚みたいにパクパク口を開くことしかできない。そして泣きそうだ。


(怖い。何この人、怖い)


「無礼者、偉大なる告死天使を愚弄するつもりか??そなたが救国の元騎士であっても最悪、の刑処すことになるぞ」


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