第十二章 ひらめき

 時は、現在の六月十九日の水曜日の午後三時五分位だ。オルコット捜査官は、考えた様な顔で、ルイス警部に「どうでしたか?ジョナサン警部、スペイン警察の方は何かを掴んでいましたか?」といった。ルイス警部は、首を振りながら、オルコット捜査官に「いいや、今の感じだと、スペイン警察では何も手掛かりを掴んでいない様だな。しかし建設会社“再建”の特殊な建設技術を会得している五人のアリバイは、調べていてくれたよ。」といった。ルイス警部とオルコット捜査官が事件について話していると、机の上の固定電話が鳴り出した。ルイス警部が、素早く受話器を取ると、電話の相手に「はい、ジョナサン警部。」と電話でいった。電話の相手は、明るい声で、ルイス警部に「ええ、私です、チャベスです。先程ジョナサン警部が言っていた、スペインでの密輸犯罪組織や麻薬関連の犯罪組織や密入国を行う犯罪組織などのいわゆる組織犯罪についてですが、うちの組織犯罪課に聴いてみた所、外国からスペインで通常咲いていない花の花粉が、見つかったというケースは残念ながら無かったです。しかし組織犯罪を行う連中のスペイン国内での活動場所で、スペインで通常咲いていない花の花粉が、犯罪の証拠品に付着していたケースがあったみたいです。」と電話でいった。ルイス警部は、興味深そうな顔をしながら、チャベスに「うむ、そうすると、スペイン国内で栽培されていた事になるね。」と電話でいった。チャベスは、心地よい口調で、ルイス警部に「ええ、その花粉が採取されたのは植物の栽培の為の温室でした。ジョナサン警部」と電話でいった。ルイス警部は、溜め息を付きながら、チャベスに「では植物園などの温室を調べなければならないね。ああ、また何か聴きたい事があったら、また連絡するよ、ありがとう」と電話でいった。チャベスは、快活な感じで、ルイス警部に「はい、分かりました。これからも協力を惜しまないつもりです、それでは失礼します」と電話でいった。ルイス警部は、固定電話での通話を終えると、オルコット捜査官に、チャベスから聴いた事を話した。オルコット捜査官は、神妙な顔をしながら、ルイス警部に「では次は何をしますか?ジョナサン警部」といった。ルイス警部は、意気込んで、オルコット捜査官に「それではまず、オルコットさんにセビリアの植物園のリストを作って貰おうかな。僕はその間、事件現場で見つかった化学物質の方を調べてみるよ。クロチアゼパムというベンゾジアゼピン作動性の薬を服用している人物が、建設会社“再建”の特殊な建築技術を会得している、五人の中にいないかどうか調べてみる事にする。それで良いかい?」といった。オルコット捜査官は、もみ手をしながら、ルイス警部に「はい、分かりました。すぐにでもリストを作ってみます、ジョナサン警部」といって、頷いた。ルイス警部は、暖かみのある声で、オルコット捜査官に「ああ、期待しているよ、僕は僕で化学物質クロチアゼパムの事について調べてみるよ。では後でオルコットさん」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は会話を済ませると、それぞれの仕事に取り組み始めた。オルコット捜査官は、セビリア市内の植物園の事を調べ、ルイス警部はクロチアゼパムの事を調べ始めた。オルコット捜査官は、大きな分厚い本で住所録を開いたり、電話をかけたりしている。ルイス警部は、早速出かける仕度を済ませると、オルコット捜査官から警察車両の鍵を貰い、駐車場に急いで行き、セビリア市内へと車で出発し始めた。ルイス警部は、マルコス・ドミンゴ責任者のいる建築会社“再建”へと向かって、少しばかりか経ち、建築会社に到着した。

 ルイス警部は車からさっそうと降り立つと、“再建”の建物内へと急ぎ、責任者に会わせてもらう様に話しをした。“再建”の受付が、何度か電話をすると、少ししてからルイス警部に駆け寄り、ドミンゴ責任者が会う事を話した。ルイス警部は、ドミンゴ責任者に会うと、早速気がかりな事を話し始めた。ルイス警部は、ドミンゴ責任者の真向かいのソファーに座り、ドミンゴ責任者に「それでですね、ドミンゴさん。この会社で特殊な建築技術を持っている五人の人たちの中で、病気か何かで薬を服用している人はいませんか?」といった。ドミンゴ責任者は、眉間に皺を寄せて、ルイス警部に「うーん、うちの会社の特殊技術を使える五人の中で、薬を常用している者は、知る限りいませんね。何故薬を飲んでいるか、聴いたんですか?」といった。ルイス警部は、真剣な顔になり、ドミンゴ責任者に「今回のセビリア大聖堂の事件の手掛かりで、ベンゾジアゼピン作動性の薬を服用している事が浮かび上がってきたんですよ。それでこの様に、ドミンゴさんに聴いた次第なんです」といった。ドミンゴ責任者は、納得した様な顔をしながら、ルイス警部に「そうでしたか、その薬はどんな人たちが、服用するんですか?」といった。ルイス警部は、ドミンゴ責任者に「ベンゾジアゼピン作動性の薬のクロチアゼパムは、不安やイライラを改善する様に、働く薬なんですよ。何かその様な薬を服用している、などといった事を聴いた事はありませんか?」といった。ドミンゴ責任者は、腕を組みながら、ルイス警部に「ええ、しかし聴いた事がやはりありませんね。やっぱりうちは、メンタルケアに関して、充実しているし、メンタルケアの為の薬などを、飲んでいる従業員は、いませんね」といった。ルイス警部は、少し溜め息を付き、ドミンゴ責任者に「そうですか、ありがとうございました。それではまた連絡する事があるかも知れませんが、その時は宜しくお願いします。では今日はこれで失礼します」といって、手を差し出した。ドミンゴ責任者は、差し出された手を掴み握手して、ルイス警部に「いえ、お安い御用ですよ。私で分かる事でしたら、いつでもお話し出来ますよ」といって、微笑んだ。ルイス警部は、立ち上がると、軽く会釈をして、ドミンゴ責任者の部屋を後にした。ルイス警部は考えながら、建築会社の階段を一段ずつ降りて行った。ルイス警部は、心の中で『一体全体どういう事になっているのだろう。何故一人も薬を服用していないんだ、何かトリックがあるのか、それともクロチアゼパムは今回の事件に関係の無い物なのか』とつぶやいた。ルイス警部は、事件の事を深く考えながら、自分の警察車両の停めてある場所へと向かって行き、車のある所に到着すると、急いで乗り込んだ。そしてルイス警部は、車を発進させた。

 暫くして作戦本部に到着した。ルイス警部は、自分の机のある階へと急いで行った。自分の机に座ると、ルイス警部は、オルコット捜査官に手を振りながら「それで、植物園のリスト作りは、今どういう事になっているんだい?」といった。オルコット捜査官は、困った様な顔をしながら、ルイス警部に「ああ、はい。ジョナサン警部、今セビリア市内の植物園全てに問い合わせた所、どうやらブラック・キャットは、何処も取り扱っていないみたいでした。それで植物園で何かブラック・キャットの栽培に関する事は、無いか聴いて見ました。すると、外国の植物を扱う業者があるみたいで、そちらに聴いて見ると良いと聴きました。これからその業者に行こうと思います、丁度良い事に外国の植物を扱う業者は、セビリア市内では、大きな物が一つあるだけなのですよ。その業者の名前はスペイン語で“素敵なお庭”という名前です、一緒に行きますか?ジョナサン警部」といった。ルイス警部は、合点がいった様子で、オルコット捜査官に「そうか、分かった。では僕も一緒に行くとするよ、オルコットさん」といって、ポケットから車の鍵を出し渡した。オルコット捜査官は渡された車の鍵を受け取ると、真っ先に車のある駐車場に駆け足で向かった。少ししてルイス警部を乗せて、オルコット捜査官の運転する警察車両は、セビリア市内へと走り出した。

 ルイス警部は、オルコット捜査官の運転する警察車両の中で「今回僕の方で建築会社“再建”の特殊な建築技術を使える人物で、捜査で浮かび上がって来た、クロチアゼパムを服用している人物はいるか、聴いて見た所、該当する人物が、一人もいなかったんだ」といった。オルコット捜査官は、険しい顔付きになりながら、ルイス警部に「それは残念でしたね、ジョナサン警部。今向かっている植物販売業社“素敵なお庭”で何か手掛かりがあると良いんですがね。うーん」といった。ルイス警部は、気を取り直しながら、オルコット捜査官に「そうだな、その“素敵なお庭”で何かを掴めると良いな。じっくりと話しを聴こう」といった。少しばかりかオルコット捜査官の運転する車を走らせると、如何にも植物を、販売しているなと思わせる様な、井手立ちの建物が見えて来た。その植物販売業社の様子は、至る所に色々な外国の珍しい植物が置いてあり、植物の置いてある広場に足の踏み場が無い状態という程である。オルコット捜査官の運転する車がお店の駐車場へと、入って行こうとすると、駐車場の入り口で作業着を着た若い男性が、車の駐車の誘導をしているのが眼に入って来た。その若者の指示通り、オルコット捜査官は車を器用に駐車スペースに停車させた。ルイス警部とオルコット捜査官はそれぞれ英国特別捜査官たちが所持しているピストルのSIG SAUER P226のカートリッジ(弾倉)内の弾の数を確かめると、駐車場に二人は降り立った。ルイス警部は、周りを見回しながら、オルコット捜査官に「いや、ここはとても大きな所だね。あらゆる人々がここで植物を買いに来るのか、とても大きな建物だ」といった。オルコット捜査官は、車に鍵をかけながら、ルイス警部に「ええ、植物販売業社は、セビリアではここだけですからね。セビリア市内中の人々が来るのだと思いますね」といった。ルイス警部とオルコット捜査官の二人は、植物販売業社の中へと入って行った。

 ルイス警部とオルコット捜査官の二人が、“素敵なお庭”のロビーに近づいて行くと、受付の女性が笑顔を見せながら「はい、何かお困りですか?」といった。オルコット捜査官は、受付に一歩進み出て、近づくと「私は英国特別捜査官のオルコットで、隣に居るのが同僚のジョナサン警部です。ここの責任者のアデラ・カルモナさんにお会いしたいのですが、取り次いで貰えますか?」といった。受付の女性は、にこやかに微笑みながら、オルコット捜査官に「そうですか、責任者カルモナとはお約束はありますか?」といった。すると、今度はルイス警部が、一歩進み出て、受付の女性に「約束はありません、僕たちは捜査官です。ちょっと急いでいるんですが、取り次いで貰えませんか?」といった。受付の女性は、少しばかり躊躇いながら、ルイス警部に「少々お待ちください、今お会い出来るか確認して来ますので」といって、席を外した。受付の女性は、奥にあるドアの中へと入って行った。数分後、ドアの中へと消えた受付の女性が戻って来て、受付の席に座り、ルイス警部とオルコット捜査官に「はい、今責任者のカルモナに確認した所、少し時間がありますので、お会い出来ると言いましたので、お会い出来ます。それでは三階へと向かって下さい、責任者カルモナがお待ちしています」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、受付の女性にお礼の言葉を言うと、エレベーターのある所に向かった。ルイス警部とオルコット捜査官がエレベーターに乗り込むと、三階へと目指した。すると、三階でエレベーターの扉が開いた、そして二人はエレベーターから降りて、三階の通路を歩き出した。ルイス警部は、辺りを観察しながら、オルコット捜査官に「いったい、何処の部屋に責任者カルモナがいるんだ。てっきりカルモナさんの名前が書かれている表札があると思っていたんだがな。うむ」といった。オルコット捜査官は、落ち着いた様子で、ルイス警部に「ええ、私も直ぐに部屋が見つかると思っていたんですがね。でもここ三階に必ず責任者の部屋はあると思いますから、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ、ジョナサン警部」といった。そうこうしていると、三階の通路で一回左に曲がった所で、扉が開いている部屋が見え、その部屋の入り口に女性が一人立っているのが見えた。その女性は、二人に気が付くと、手を振った後に手招きをして合図を送った。ルイス警部とオルコット捜査官は、早歩きしながら、部屋に向かった。それから二人が部屋の前まで来ると、扉の前にいた女性が部屋の中へと入って行った。その後を追う様に二人は、部屋の奥へと入って行った。扉の前にいた女性は、ゆっくりとした口調で、ルイス警部とオルコット捜査官に「どうも初めまして、ここの責任者のアデラ・カルモナです。どうぞ宜しく、それで何やら今日は捜査協力か何かで、いらしたとお見受けしますが。さあさあ、どうぞここにお座り下さい」といって、手でソファーを指し示した。ルイス警部とオルコット捜査官は、責任者カルモナに言われた通りに、ソファーに腰を下ろした。部屋には辺り一面に、色々な花々の大きな写真が飾られていて、その花の様子と壁紙が、良く合っているのも、責任者カルモナの美術的センスの良さが、とても表れえているのだった。ソファーに腰掛けたルイス警部は、胸のポケットから一枚の写真を取り出して見せて、責任者カルモナに「この花の事なんですがね」といった。すると、責任者カルモナは、前に身を乗り出して、ルイス警部に「ああ、この花ね。たしか、この花の花言葉は“孤独な主張”ですわね。この花について知りたいのですね、何でも聴いて下さい」といった。ルイス警部は、座り直しながら、責任者カルモナに「ええ、それはとてもありがたいです。このブラック・キャットという花ですが、この辺りで何処に販売しましたか?教えて下さい」といった。オルコット捜査官は、手に手帳とペンを持ちながら、真剣な眼差しを責任者カルモナに向けた。責任者カルモナは、控えめな笑顔を見せながら、ルイス警部に「ちょっと待って下さい、今顧客リストを確かめて来ますので」といって、その場で立ち上がって、部屋の隅へと向かった。責任者カルモナは、部屋の隅にたくさん置かれているファイルの中から、一つのファイルを掴み取り、脇に抱えて戻って来た。責任者カルモナは、ファイルを見せながら、ルイス警部に「このファイルで分かる事でしたら、何でもお答えできますわ。さあ、質問をして下さい、どうぞ、ああ、販売をした所の事でしたわね。ああ、はい。これですね、販売した先は二つ程ですね。一つ目はフラワーバイオエネルギー社という研究施設ですね、二つ目はセビリア大学です」といって、ブラック・キャットのページを開いた。ルイス警部とオルコット捜査官は顔を見合わせた。そしてルイス警部は、向き直り、責任者カルモナに「確認ですが、ブラック・キャットを販売したのはその二つだけですか?」といった。責任者カルモナは、大きく頷きながら、ルイス警部に「ええ、そうです。このファイルに載っている二つだけです」といった。ルイス警部は、微かに微笑を浮かべて、責任者カルモナに「分かりました。ではまた聴きたい事が、ありましたらこちらに伺いますよ」といった。責任者カルモナは、愛想の良い表情で、ルイス警部とオルコット捜査官に「ええ、いつでも来てください。私で分かる事でしたらお教えします」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、責任者カルモナにお礼を言うと、部屋から出て、急いで植物販売業社の駐車場へと向かった。ルイス警部とオルコット捜査官の二人は警察車両の色が赤色のSEATの「レオン新型」に乗り込んだ。車の座席に、ルイス警部とオルコット捜査官が座り、オルコット捜査官が車のエンジンをかけると、ルイス警部に「先程責任者カルモナさんが、言っていた販売先にセビリア大学がありましたね。ジョナサン警部は、お気付きになりましたか?」といった。ルイス警部は、自分の手を額に持って行き、オルコット捜査官に「ああ、そうだったね。もしかすると、今回の手掛かりで、大きく事件解決への一歩が、踏み出せたかも知れないね。もう午後五時半だ、セビリア大学の職員は帰っている頃だな。では明日セビリア大学に行ってみよう、そしてもう一度調べてみる事にしよう、オルコットさん」といった。オルコット捜査官は、車のギアを操りながら、ルイス警部に「ええ、そうする事にしましょう、ジョナサン警部。では明日行きましょう、直ぐに明日に、セビリア大学を訪れて、話しを聴く事が出来る様に、連絡を入れておきます。明日の午前九時にはセビリア大学に到着するようにしましょう。まだセビリア大学に犯人へと繋がる手掛かりが残っているうちに」といった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る