第十三章 薬草園

 時は六月二十日の午前八時だ。ルイス警部との待ち合わせ場所に、オルコット捜査官が警察車両で現れると、ルイス警部がその車に急いで乗り込んだ。オルコット捜査官の運転する車は、出来る限りの速度を出して、セビリア大学へと向かった。ルイス警部とオルコット捜査官の乗せた車がセビリア大学の駐車場に到着すると、二人は車から降り立ち、大学内の事務課へと向かう為に、小走りをした。大学の事務課の中に入ると、ルイス警部は、近くにいた職員に「あのう、昨日電話をした英国特別捜査官の者ですが、植物販売業社“素敵なお庭”から、ブラック・キャットという花の苗を、買っていると思うんですが、何処に植えているか分かりますか?教えて下さい」といった。大学の職員は、明るくはっきりとした口調で、ルイス警部に「ああ、昨日電話をなさった方たちですね。ええ、植物を定期的に届けて貰っています。もちろん販売業社から買っているんですが、それでその買っている植物の栽培場所ですね、先程言われたブラック・キャットという花の事については、はっきりとは、分からないのですが、“素敵なお庭”から買った植物を植えてある所は間違い無く分かります。ですのでお教えします、ちょっとお待ち下さい」といって、その場から離れて行き、奥へと消えた。数分して、ルイス警部を対応した、大学の職員が戻って来た。大学の職員は、明るい表情で、ルイス警部とオルコット捜査官を交互に見ながら「今植物の管理をしている者に、確認をした所ですね、彼は今丁度薬草園にいるとの事ですので、そちらに待機している様に頼みました。ですので薬草園に行けば話しが聴けますよ」といった。ルイス警部は、大学の職員に「ああ、どうもありがとうございました。直ぐに薬草園の方に向かいます」といって、オルコット捜査官と二人で会釈をして、事務課を後にした。ルイス警部とオルコット捜査官は、薬草園の場所は以前にここに来た時に、聴いていていたが、用心の為に、セビリア大学のパンフレットに、記載している学内地図を見ながら向かった。ルイス警部とオルコット捜査官は、思った程間違った記憶でなく、すんなりと目的地に到着した。ルイス警部は傍らにオルコット捜査官を置き、英国特別捜査官の身分証を見せながら、薬草園にいる作業着を着た男に「僕たちが、先程事務課から連絡があった者だ。それで君が植物の管理をしている者かな?」といった。作業着を着た男は、若さを印象付ける様な高い声で、ルイス警部に「ええ、私がここの植物の管理をしているんです。ああ、申し遅れました、私の名前は、グラナド、ハビエル・グラナドです。それで聴きたい事とは何ですか?」といった。すると、オルコット捜査官が前に進み出て、ハビエル・グラナドに「ええ、早速質問の方にいきましょう。ブラック・キャットという花を植えていると思うんですが、ここの大学の何処に植えているか分かりますか?」といった。ハビエル・グラナドは、如何にも職人風の出で立ちで、移植ごてを片手に、ルイス警部とオルコット捜査官に「ああ、その花でしたら、ここの薬草園に植えてありますよ。付いて来て下さい、植えてあるのをお見せします。こちらです」といって、薬草園の中へと入って行った。ルイス警部とオルコット捜査官は、ハビエル・グラナドの後を追った。暫く薬草園の中へと入って行った所で、グラナドがにおう立ちしているのが見えた。グラナドが、黒っぽい色の花を指さしながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「この花の事ですね、ここに植えていますよ」といった。ルイス警部は辺りを見廻し、オルコット捜査官は、グラナドに「ここの薬草園に出入り出来る人物は、制限されているんですか?」といった。グラナドは、相変わらず高い声で、オルコット捜査官に「いいえ、ここの薬草園には、研究室で扱っている植物もたくさんありますし、授業の実験で扱ったり、それから休憩所の様に花を見て、リラックスする為に来る人たちがいて、ここは出入り自由なんですよ」といった。ルイス警部は、辺りの地面を見ながら、グラナドに「そうでしたか、もし宜しければ、ここの土とここに植えてあるブラック・キャットの、花粉を採取しても宜しいですか?」といった。グラナドは、明るい表情で、ルイス警部に「ええ、もちろんですよ。捜査協力を惜しまない様にと言われていますので、ご自由に持って行って下さい」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、グラナドにお礼を言うと、薬草園の土といくつものブラック・キャットの花粉を採取した。それから、ルイス警部とオルコット捜査官の二人は、事務課に立ち寄り、またこちらに来る事があるかも知れないが、その時は協力をして欲しいと、頼み事をすると、セビリア大学を後にした。二人は警察車両に乗り込んで、作戦本部へと車を飛ばした。

 暫くして二人を乗せた車は英国特別捜査機関のスペイン本部に到着すると、停車して、二人は科学捜査班たちのいる階へと急いだ。ルイス警部とオルコット捜査官は、科学捜査官たちが集まっている部屋のドアを勢いよく開けると、部屋の中を見廻し、アダム・ヒューズを以前、この階へと訪れた時と同じ様に探した。オルコット捜査官は、難しい顔をしながら、部屋の中を歩き回り、ルイス警部に「アダムが見当たりませんね、何処でしょうか?ここの研究室にいる時間帯なんですがね、困ったなぁ。アダムの携帯電話に掛けてみますね」といって、携帯電話を操作した。部屋の奥からピリリ、ピリリという着信音が鳴っているのが微かに聴こえて来た。携帯電話の着信音が、聴こえて来る方へと、ゆっくりと足を運んでいくと、机の上に、たくさんの書物が載っているのが、眼に入って来た。しかし何処にも、アダム・ヒューズの姿は無かった。オルコット捜査官は、眉間に皺を寄せて、ルイス警部に「あれ?何処にもアダムも携帯電話も見当たらないわね。どうした事でしょう、ジョナサン警部?」といった。ルイス警部は、落ち着かない様子で、辺りを観察しながら、オルコット捜査官に「どうしたものかな、なるべく急いで科学検証をして貰いたいんだが」といって、溜め息を付いた。すると、書物の山積みになった、机の奥の下の方から「ここですよ、ここ」という声が聴こえて来た。ルイス警部とオルコット捜査官は、声が聴こえた所へと、近づいて行くと、そこにはボサボサの髪のアダム・ヒューズが、床から顔を上げている所だった。オルコット捜査官は、驚きと喜びの感情が一気に押し寄せて来た様な顔をして、ルイス警部は、穏やかで安心した様子の顔をした。アダムは、済まなそうな顔をしながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「ごめん、ごめん。これは失礼しました、びっくりさせてしまったようだね」といった。オルコット捜査官は、まだ平静を取り戻せずに、アダムに「いいのよ、丁度あなたを探していた所よ。あなたに調べて貰いたい代物があるのよ、セビリア大学で貰って来た土と、ブラック・キャットの花粉よ。急いで調べて貰っても良いかしら?」といった。アダムは、にっこりと笑顔を見せ、オルコット捜査官に「ああ、任せてくれ。科学調査は大好きでね、まあだからこの仕事に就いたんだけれど。その話しはまた今度にしよう、是非私に調査させて欲しい」といった。ルイス警部は、上着の内ポケットから土の入った透明な袋と、ブラック・キャットの花粉の入った透明な袋の二つを、アダム・ヒューズに渡した。アダムは、楽しそうに袋を受け取りながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「では直ぐに、この土と花粉を検査して、調べ上げますね」といった。ルイス警部は、アダムに「ああ、頼むよ、宜しく頼む」といって、オルコット捜査官は、アダムに「ありがとう、とっても頼りにしているからね」といった。アダムは、実験室にこもると、早速土と花粉の調査に乗り出した。アダムが調べている間、ルイス警部とオルコット捜査官は、コーヒーを入れて飲みながら事件の事について話し出した。アダムに科学検証を頼んだ時から、十分ばかりか時間が過ぎた。すると実験室からアダムが出て来て、ルイス警部とオルコット捜査官に二枚ばかりの紙を渡しながら「どうやら、探している物が見つかった様ですよ。検査結果が出ました、セビリア大聖堂の事件現場で見つかった土とその土に含まれていた花粉が、セビリア大学から貰って来た土と、花粉とが完全に一致しました。それはそれは、見事な結果を出したんですよ」といった。ルイス警部は、眼を輝かせながら、アダムに「これは嬉しい結果だな、とても手早い対応に感謝するよ」といって、握手をした。オルコット捜査官は、元気な声で、アダムに「お手柄よ、アダム」といって、肩を数回叩いた。アダムは、謙虚な様子で軽く会釈をしながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「二人のお役に立てて嬉しいです、またいつでも声を掛けて下さい」といった。ルイス警部とオルコット捜査官はもう一度お礼の言葉をアダムに言うと、その場を離れて行った。その場から立ち去る中で、ルイス警部は、オルコット捜査官に「今回のセビリア大聖堂の土と花粉が、セビリア大学の土と花粉と一致した事で、犯人はセビリア大学に、関わりのある人物まで、絞り込めた事になる。セビリア大学に出入りして、犯行を行える人物をピックアップしよう、オルコットさん」といった。オルコット捜査官は、頬をほころばせながら、ルイス警部に「ええ、事件解決への大きな一歩になりそうですね、ジョナサン警部」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、自分たちの机に戻り、作業を開始し始めた。

 すると直ぐに、オルコット捜査官は、事件の調査記録を見ながら、ルイス警部に「もしかすると、犯人らしい人物の一人に、セビリア大学の学生が一人いますね。この事件の犯行を十分に行える人物ですよ、ジョナサン警部」といった。ルイス警部は、明るい表情をしながら、ファイルを受け取り、オルコット捜査官に「僕にもその書類を見せてくれ。うむ、もしかすると犯人かも知れないね、彼は。早速彼に話しを聴く事にしよう、オルコットさん」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、書類を自分たちの机にドサッと置くと、作戦本部の駐車場へと急いだ。警察車両に二人が、乗り込むと、リカルド・デラのいるシェアアパートメントに向かった。

車を走らせて、少しばかり時間が経ち、シェアアパートメントが見えて来た。そして車をシェアアパートメントの駐車場に停車させると、二人は車から降り立った。ルイス警部は、オルコット捜査官を連れて、壁にあるインターホンを押し、出て来た男に建物の中へと入れて貰った。対応した男によってリカルド・デラの部屋に案内され、ルイス警部は、辿り着いた部屋のドアを数回ノックした。すると、直ぐに扉が開き、今回はすんなりとリカルド・デラが顔を見せた。ルイス警部は、愛想の良い口調で、デラに「この前会いましたね、ジョナサンです。実はここに来たのは、お話しを聴きたいと思いましてね、どうですか?お時間はありますかな?」といった。オルコット捜査官は、ルイス警部の直ぐわきから顔を覗かせて、デラに「私もいますよ、デラさん。お話しを聴かせてください」といった。デラは、若者らしい柔らかな物腰で、ルイス警部とオルコット捜査官に「良かった、今丁度同居人のヤンネは、外出していましてね。どうぞ中へと入ってください」といった。リカルド・デラの部屋に案内した男は、ルイス警部とオルコット捜査官に仕事があるので失礼すると言って、その場から立ち去った。ルイス警部とオルコット捜査官は、デラに導かれて部屋の中へと入って行った。デラの部屋は、色々な建築方法で建てられた建物の写真が、ずらりと壁という壁に飾ってあった。そして机という机には、自分で作った模型の建物が置いてあり、隅の方にはまだ作りかけの模型が置いてあった。壁の近くには中位の本棚があり、結構多い本が本棚に収められていた。デラは、中位の大きさの青色のソファーにルイス警部とオルコット捜査官を座らせると、自分は緑色の椅子で青いソファーの向かいに座った。そして直ぐにデラは、お茶を入れにキッチンに行き、少しして黄色いトレーに、三人分のセイロン紅茶を入れたコップと、ティーポットと砂糖を載せて、戻って来た。デラは、柔らかい口調で、ルイス警部とオルコット捜査官に「お茶です、紅茶なんですが、嫌いでは無いですか?」といって、二人を見た。ルイス警部は、デラに「ああ、大丈夫ですよ。僕もオルコットさんも紅茶は、飲めますのでね、それでお話しの方へ移っても宜しいですかな?」といった。デラは、真剣な顔付きになり、ルイス警部とオルコット捜査官に「それで、お話しというのはどういった事なのでしょうか?」といった。オルコット捜査官は、少しだけ身を乗り出し、デラに「ええ、そんなに怖がらなくて良いですよ。簡単な質問ですので、落ち着いて聴いて下さい」といった。ルイス警部は、ゆっくりとした口調で、デラに「実はですね、こないだ話しをした、事件の事に関してなんですがね。あの後進展がありまして、それでお話しを聴こうと思ったんです。では本題に入ります、事件時の六月十二日の水曜日の午後十時から午後十時二十分の間、どちらにいらして何をしていましたか?教えて下さい」といった。デラは、少し驚いた感じで、ルイス警部に「これはどういった事ですか?もしかして私を犯人だと思っていますか?」といった。オルコット捜査官が、進み出て、デラに「いえ、今犯人を特定する為に聴いて廻っている所なんです、つまり聴く事によって、容疑者リストから外している所なんです。分かって頂けましたでしょうか?」といった。デラは、座り直しながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「そうでしたか、うん。それを聴いて安心しました、てっきり私が疑われているかと思いましてね。事件当日の六月十二日の水曜日の午後十時から午後十時二十分の間でしたか、私は部屋に一人でいて、大学から出ている課題の建築設計に行き詰って、一人で散歩に出かけました」といった。ルイス警部は、真剣な目をしながら、デラに「それを証明できる人や物がありますかな?」といった。デラは、腕を組みながら、困った様子で、ルイス警部に「こんな事になるんでしたら、用意しておくと良かったですね、うーん。残念ながら、私が一人でいた事、一人で散歩に出かけた事を、証明出来る人や物はありません。」といった。ルイス警部は、思案顔で、デラに「そうですか、一人でいたという事ですか、そしてそれを証明出来る事ができないとの事ですね」といった。オルコット捜査官は、またしても進み出て、デラに「あのう、デラさん。もし宜しければ髪の毛を数本頂けませんか、このお願いも容疑者リストから外す助けになりますのでね。」といった。ルイス警部は、眼を鋭く光らせながら、デラに「それとですね、デラさんは確か、建築会社“再建”で少しばかり、働いていた事がありましたよね。その時に同僚たちの中で、クロチアゼパムという薬を服用している人が、いるという事を聴いた事はありますか?このクロチアゼパムは、不安やイライラ等の改善薬として働く薬なんです、誰か該当する様な人はいませんでしたかね?」といった。デラは、難しい顔をしながら、オルコット捜査官とルイス警部に「髪の毛ですか?良いですよ。私の潔白を証明出来るのなら、喜んで差し上げます。それとそのクロチアゼパムですか?その様な薬を飲んでいる人は、聞いた事がありませんね」といった。ルイス警部は、考え沈んだ様子で、デラに「そうですか、ではこれで僕たちは失礼します。あっ、それと最後に一つだけ、デラさんの靴を調べさせてくれませんか?これも容疑者リストから外す為です」といった。デラは、控えめな笑顔を見せながら、ルイス警部に「ああ、別に構いませんが、何も出て来ませんよ」といった。ルイス警部は、毅然とした態度で、デラに「ええ、そうかも知れませんが、これも仕事の一環として行いたいと思いましてね。ありがとうございます」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、デラにお礼を言うと、数本の髪の毛を入れた透明な袋と、靴底に付着していた物を入れた透明な袋を、内ポケットにしまい、部屋を後にした。デラは、ルイス警部とオルコット捜査官が階段を下りて行く音を耳をすまして聴いて、彼ら二人が帰ったのを確かめると、彼ら二人が持ち帰った物などや、事件現場に残っている物で、自分に結び付く物は無い筈だがと思いを巡らせた。思案に沈みながらデラは、自分の部屋の隅を行ったり来たりして、独り言で「いったい彼らは事の真相を気が付いたのか、それとも…。いや待てよ、そんな筈が無いじゃないか、さっきの様子だと全然何も掴んでいない様だった。しかし、もし知っていて、あの様な態度だったのか、私はどうすれば良いんだ」とつぶやいた。それから数分間思案を巡らせた末に、デラはある事に思い立った。彼に連絡をしようと、そう思い立ったのだ。デラは、部屋の小さなテーブルに置いてある携帯電話に、近づき拾い上げると、直ぐに携帯電話を操作して、ある電話番号に電話をし始めた。

 電話の受け手の部屋は、部屋の中の壁という壁は白くて、大きな家具やテーブルは明るいベージュ色の物で、部屋には大きな南国の植物が緑色の葉を付けて、元気よく育っている様に見える。この南国の植物は実はアンドロイドなのだ。すると、いきなりテーブルの上の携帯電話が静まり返っている部屋で、けたたましく鳴り響いた。男が、携帯電話の鳴り響いている、部屋へと入って来た。いきなり植物のアンドロイドが「ご主人様、携帯電話に連絡が入っています、ご主人様、携帯電話が鳴っています。携帯電話に連絡が入っています」といった。男は、テーブルの上の携帯電話を手に取りながら、植物のアンドロイドに向かって「ありがとう、シャルロット。今直ぐに電話に出るよ」といった。シャルロットは、女性らしい声で、男に「良いんですよ、ミレー様。お役に立てて光栄です、直ぐにお電話に出ると宜しいかと思います」といった。ミレーは、優し気な目線で、シャルロットに「ああ、そうする事にするよ。何か急で重要な要件かも知れないからね」といった。ミレーは、携帯電話を操り、電話の相手に「もしもし、ミレーだ、ジョルジュ・ミレーだが。何にか緊急の用か?連絡してくるなと言っただろ、デラ。この電話で私も君も危険な状態へと導いた結果になったかも知れないんだぞ」と携帯電話でいった。デラは、電話口で息を荒げながら、ミレーに「それがとても危うい状態に陥っているんだ、ミレーさん。」と携帯電話でいった。ミレーは、たしなめる様な口調で、デラに「いったいどうしたと言うんだ、デラ?いったい何があったんだ」と携帯電話でいった。デラは、声を震わせながら、ミレーに「ミレーさん、とてもまずい状況なんだ。捜査機関の者たちが私の所に来たんだ、もしかすると私たちがやった事について、彼らは感づいているかも知れないんだ。こんな事になってしまって、私はいったいどうすれば良いんだ。ミレーさん、私に教えて下さい」と携帯電話でいった。ミレーは、落ち着いた口調で、デラに「君は私と繋がる証拠をどこかへ置いて来てしまったかね?」と携帯電話でいった。デラは、先程よりも息を荒げながら、ミレーに「いや、そんな筈は無いです」と携帯電話でいった。ミレーは、ゆっくりとした口調で、デラに「それじゃ、大丈夫じゃないか。ではもう二度とこちらに連絡してこないように、良いね」と携帯電話でいった。デラは、ゆっくりと息を呑んで、ミレーに「ああ、分かりました、ミレーさんが言った様に、問題無いと分かってほっとしました。ええ、もう連絡をしません、安心して下さい。当初の予定通りにします」と携帯電話でいった。ミレーは、微かに笑い声をあげて、デラに「そうさ、計画通りに進んでいるよ、何も心配いらないよ。ではもう連絡をしないように、それでは失礼する」と携帯電話でいって、携帯電話の通話を切った。デラは、驚きの声を上げながら、ミレーに「あっ、ミレーさん。もしもし、ああ、切れてしまったか」と携帯電話にいって、携帯電話の画面を確かめた。するとやはり、ミレーとの通話が切れていた。ミレーは、険しい顔をしながら、携帯電話で、デラとは違う相手に電話を掛け始めた。ミレーの操る携帯電話から男の声が漏れ聞こえて来た。ミレーは、早口で、男に「ああ、こちらミレーだ。実は困った事になってしまったんだ、例の仕事で使った人物が連絡を取って来たんだ。だから私はその事について手を打とうと考えている、それで手伝って欲しいと考えているんだ。協力してくれディオン・ラガルド」と携帯電話でいった。ラガルドは、きりっとした口調で、ミレーに「ああ、もちろんだ。当然君に協力するよ、まずはその例の仕事で使った人物と連絡する為に、用意した携帯電話なり連絡手段を断つ事にしよう。今直ぐにでも私が、言う宛先に、仕事に使った携帯電話を郵送してくれ、そうすれば簡単に問題は解決できる。良いね」と携帯電話でいった。ミレーは、安心した様子で、ラガルドに「分かった、この電話が終わったら、直ぐに郵送に取り掛かろう。それで宛先はいったい何処なんだい?」と携帯電話でいった。ラガルドは、軽やかな口調で、ミレーに「そうだったね、宛先は前回私と仕事で使った、私書箱に送ってくれれば良いよ。君が携帯電話を送って、私がその携帯電話を受け取り次第、新しい携帯電話を送る事にするつもりだ」と携帯電話でいった。ミレーは、明るい口調で、ラガルドに「分かった、ありがとう」と携帯電話でいった。ラガルドは、陽気な口調で、ミレーに「いや、良いんだ。ではまた」と携帯電話でいって、通話を切った。ミレーは、ラガルドとの電話を終えると、リカルド・デラとの連絡に使った携帯電話を大きな茶色の封筒に入れると、テーブルの上にあった、車の鍵を掴み取り、玄関の扉を開き、外へと出た。ミレーは、マンションの階段を下りながら階下へと向かうと、自分の車の「ポルシェ 911 ST 2.3」のある駐車スペースへと到着した。ミレーは、鍵を車に差し込むと、「ポルシェ 911 ST 2.3」のエンジンをかけ始めた。それから街に繰り出し、郵便局へと車を発進させた。

 暫く車を流していると、黄色い看板に青色で“CORREOS”と書かれている建物が見えて来た。ミレーは、黄色い看板の建物の駐車場に車を停めると、降り立った。ミレーは、早く歩きながら、郵便局の正面ゲートを通り抜けた。ミレーが、郵便局内に入ると、直ぐに郵便局の係員がすっ飛んで来た。郵便局員の男性は、丁寧な口調で、ミレーに「お客様、今日はどんな御用ですか?」といって、にこやかに微笑んだ。ミレーは、落ち着いた口調で、郵便局員の男性に「ああ、この私書箱宛てに、荷物を送りたいんだが。その手続きをしてくれないかな」といって、住所を書いてあるメモ用紙を見せた。郵便局員の男性は、流れる様な口調で、ミレーに「それでしたら、こちらに来て下さい。直ぐに手続きの手配をしますので。どうぞこちらへ」といった。ミレーは、郵便局員の男性に連れられて、奥の部屋へと入って行った。郵便局員の男性は、暫く席を外していると、いくつかの書類を持って現れた。郵便局員の男性は、数枚の書類を見せながら、ミレーに「この書類に記入事項を記入すれば、お客様の荷物を、指定された私書箱に送る、手続きは完了します」といって、いくつかの書類の横にペンを置いた。すると、ミレーは、素早く書類に必要事項を書き込むと、書類を手渡しながら、郵便局員の男性に「では荷物の郵送をお願いするよ」といって、茶色の大き目な封筒を渡した。ミレーは、対応した郵便局員をその場に残して、郵便局から外へと出た。

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