第二章 情熱の国スペイン
ルイス警部は、セビリア空港に着くと、空港内を自分を待っている人がいないか探す様に辺りを見回した。すると歳が三十台後半位の女性が、ジョナサン警部というプラカードを持って立っているのが見えた。ルイス警部は、その女性を見つけると、急ぎ足でその女性に向かって歩いて行った。その女性はルイス警部に気付くと、プラカードを下ろして「ジョナサン警部ですか?」と質問して来た。ルイス警部は、大きなスーツケース二つを足元に置くと、プラカードを持っている女性に「ああ、ジョナサンだ。君はバイミラー上司の下で働いている者で良いかね?」といった。するとプラカードを持っている女性は、笑顔を見せながら、ルイス警部に「ええ、そうです。英国特別捜査機関の特別捜査官のカーラ・オルコットです。スペインでの通訳とガイドを担当します」と手を差し出した。ルイス警部は、優し気であり真剣な顔付きで、オルコット捜査官に「分かった、これからのスペインでの捜査で君の力を存分に見せてくれ。では早速、英国特別捜査機関のスペインでの作戦本部に案内してくれないか、これから宜しく頼む」といって、差し出された手を握手した。オルコット捜査官は、何かを思い出した様に、ルイス警部に「あの、念の為に捜査官の身分証を見せて下さい」といって、自分の身分証を出した。ルイス警部は、慌てて身分証を出しながら、オルコット捜査官に「済まないね、ああ、これだよ。君の身分証も確認した。では今度こそ作戦本部に向かおう」といった。オルコット捜査官は、ほっとした様子で、ルイス警部に「そうですね、こちらです。私について来て下さい」といって、二人は自分たちの身分証をしまった。ルイス警部は大きなスーツケースを二つ持って、オルコット捜査官の案内に従ってついて行った。ルイス警部が、オルコット捜査官に案内されて、暫くするとセビリア空港の駐車場に到着した。ルイス警部とオルコット捜査官が、駐車場の地面をコツコツと音を響かせながら、奥の方まで歩いて行くと、そこには情熱の国スペインにふさわしい赤色の車が停まっていた。その車は、色が赤色のSEATの「レオン新型」だ。オルコット捜査官は、一呼吸して、ルイス警部に「はい、私たちが乗る車に着きましたよ。この車で作戦本部に行きましょう、直ぐに車のトランクを開けますね、荷物は車のトランクの中へ入れて下さい」といった。ルイス警部は、頷いて、車のトランクの前に立ちながら、オルコット捜査官に「良し分かった、いつでもトランクを開けても大丈夫だ。トランクの中に荷物をいつでも入れられる準備が出来てる」といった。オルコット捜査官は、はきはきとした口調で、ルイス警部に「あっ、トランク開きましたよ。荷物を入れて直ぐに出発しましょう」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は、英国特別捜査機関から貸し出されている赤色のSEATの「レオン新型」に乗り込んだ。
カーラ・オルコットは、英国特別捜査機関の特別捜査官でスペイン語の通訳とスペイン国内のガイドで、歳は三十代後半の女性だ。髪型は髪の毛の長さが、鎖骨の辺りまでのミディアムで、髪の色が金色と茶色の間でダークブロンドである。目の色は緑色である。身長は中位でルイス警部の肩位の可愛らしい華奢な体つきだ。洋服は上半身が白いTシャツの上に、紺色のジャケットを着ていて、下半身は色がインディゴブルーのジーンズを着て、靴は茶色のフレンチヒールを履いている。車でスペインのセビリア市内を疾走している。セビリアはスペイン国内で四つ目に大きな街なのだ。暫くすると大きな茶色の城の様な建物があるスペイン広場が見えて来た。スペイン広場は幻想的で暖かい地方の国に見られる城の様な建物で、平らな広場を囲んでいる造りになっている。その城の様な建物のある広場は、造られてから約九十年が過ぎている。このスペイン広場は夜になるとライトアップされて、広場にある噴水と噴水の周りが光り輝き、夜でも人々が集まって来るのである。スペイン広場もスペインの観光地として知られる場所の一つであるのだ。スペイン広場を通り抜けると、そこは現代の建物が並ぶ場所が、顔を出して来た。車はビル街がひしめき合う通りを過ぎた所で、ある横に広がった大きなビルの地下へと滑り込んで行った。
オルコット捜査官は、車を地下の奥の方まで走らせると、段々と減速させて車を停めた。オルコット捜査官は、車のギアの取っ手を手前に引いてからトランクを開けるスイッチを押すと、ルイス警部に「さあ、私たちの作戦本部に着きましたよ、ジョナサン警部。さあ降りましょう」といって、運転席から車の外へと出て行った。ルイス警部は、さっそうとしながら、オルコット捜査官に「ああ、分かった。そうだな、車から降りる事にしよう」といって、ささっと車から降りた。オルコット捜査官は、ルイス警部が車のトランクから大きなスーツケースを二つを取り出すと、ドタンと音を出してトランクを閉めた。オルコット捜査官は、てきぱきとした口調で、ルイス警部に「ではこちらです、私について来て下さい。上の階に上がります、すぐそこにエレベーターがありますので、それに乗って上の階へと昇りましょう」といって、ちらりと視線を投げた。ルイス警部は、重いスーツケース二つに寄って、顔を少し歪めながら、オルコット捜査官に「そうしてくれると助かるよ、なにせ大きなスーツケース二つだからね。階段だと運ぶのが大変だからね」といって、頷いた。少しすると、エレベーターが到着した時のピーンという音が聞こえて来た。オルコット捜査官は、エレベーターに急いで乗り込むと、ルイス警部に「では急いで乗ってください、ジョナサン警部」といって、エレベータのドアに手を押し当ててドアが閉まるのを防いだ。ルイス警部は、慌ててエレベーターに乗り込むと、オルコット捜査官に「ああ、済まない、ありがとう」といった。オルコット捜査官は、相変わらず真面目な表情のままで、ルイス警部に「いいえ、大丈夫ですよ、作戦室に向かいましょう」といって、エレベーターのフロアの番号の書かれたボタンを押した。少しばかりして、エレベーターが作戦室のある階へと到着した。
エレベーターの扉が開くと、その場所は英国特別捜査機関の関係者たちで溢れ返り、部屋の中であらゆる種類のコンピューターや機材がピカピカと光を放ったり、コンピューターの画面に色々な情報が映ったり、また色々な音も出しているのが部屋中に響き渡り、捜査機関の関係者たちの連絡し合う声がまた響いているのだった。オルコット捜査官は、エレベーターから降りると、またしてもエレベーターのドアに手を押し当ててドアが閉まるのを防いだ。そしてオルコット捜査官は、柔らかい表情になって、ルイス警部に「こっちですよ、ジョナサン警部。奥の部屋でバイミラー上司が待ってますよ」といった。ルイス警部は、大きな二つのスーツケースを持ちながら、いそいそとオルコット捜査官の後を追った。すると暫く進んだ所に、大きな扉の付いた部屋が現れた。オルコット捜査官は、その大きな扉を数回ノックしてから部屋の中へ向かって「バイミラー上司、今ジョナサン警部が到着しました。部屋の前に私とジョナサン警部の二人でいます、中へと入っても宜しいでしょうか?」といった。すると部屋の中からバイミラー上司の声が聞こえて来た、内容は「ああ、中に入ってくれ。やっと到着したな、待ちくたびれたぞ」という事だ。オルコット捜査官は、少し緊張した口調で、バイミラー上司に「では失礼します」といって、扉を開けた。その開かれた扉からオルコット捜査官とルイス警部が吸い込まれる様に部屋の中へと入って行った。部屋の中にはバイミラー上司が、ソファーに座って、ルイス警部とオルコット捜査官に「さあさあ、ここに座ると良い、今紅茶でも入れるとする」といって、向かい側のソファーを手で指し示した。ルイス警部は荷物を脇に置いてからオルコット捜査官と共に、バイミラー上司が言った通りにソファーに座った。バイミラー上司は、立ち上がると電気ケトルなどがある場所へと向かい、その場所からコップを二つ取り出すと、電気ケトルのお湯をセイロン紅茶のティーバッグを入れたコップへと注いだ。ルイス警部は、ソファーに軽く座ると、バイミラー上司に「早速ですが、バイミラー上司、今事件の分かっている事と捜査の進行状況を教えてくれますか?」といった。バイミラー上司は、セイロン紅茶の入った二つのコップを持って、ルイス警部に「そうだな、私も今話そうとしていた所だ。ううん、前にも言ったと思うが、金で出来た木製祭壇衝立から大量の金が剥がされた事件なんだ。通常の金の価値よりも、今回の盗難事件で盗まれた金ではセビリア大聖堂が歴史的価値のあるもので、世界遺産に登録されている事も手伝って被害額はかなりの物に跳ね上がるんだ。なんたって収集家の間では、その歴史的付加価値に値段が付けられない程の物なんだそうだ。それをまんまと盗んだ連中は国際的密輸犯たちであると、ここスペインのセビリアに到着してから、私は確信しているのだ」といった。ルイス警部は、顔を険しく歪め、頷いた。そしてオルコット捜査官もまた神妙そうな顔を見せた。ルイス警部は、真剣な眼差しで、バイミラー上司に「では僕たちが以前に担当した事のある、あの犯罪組織の仕業であるという事なんですね」といった。バイミラー上司は、顔から何か固い決意を思わせる表情を見せながら、ルイス警部に「そうなんだ、ジョナサン、またしても彼らとの戦いが始まろうとしているんだ。であるからして、この事件は細心の注意を払って、挑まなければならないという事だ」といって、ソファーに座り直した。オルコット捜査官は、きょとんとした様子で、バイミラー上司とルイス警部に「あの犯罪組織、国際的密輸犯たちとはどういう事なんですか?教えて下さい」といって、二人を交互に見た。ルイス警部は、諭す様な顔をしながら、オルコット捜査官に「そうか、オルコットさんは以前の国際的密輸犯たちの事を知らなかったね。実は僕とバイミラー上司は英国特別捜査機関ができる前から今回の盗難事件の犯人たちの犯罪組織である国際的密輸犯たちと戦っているんだ。NCAの連中は僕たちよりも前から国際的密輸犯たちの存在を嗅ぎ付け、捜査しているんだ。英国政府としては、長年の相手であるという事なんだ。しかし、この国際的密輸犯たちが一つの大きな犯罪組織であるかどうかはまだ分かっていないんだ。僕たちやNCAの連中が一つの犯罪組織と考えているのにすぎないんだ。もしかしたら別々の犯罪組織の仕業を、勝手に僕たちやNCAの連中が一つの同じ組織が行った犯罪と考えているのかも知れない。別々の犯罪組織なのか、はたまた一つの犯罪組織なのか、そこの所が未だにはっきりしないんだ。確実なのは相手がとても凶悪で、とても賢くて、とても危険な相手だって事だ」といった。オルコット捜査官は、眼を光り輝かせながら、ルイス警部とバイミラー上司に「なんとそんな事があったんですか、つまりそれは今話題の犯罪一味である可能性があり、その彼らを捕まえて大きな事件を解決する事が出来るチャンスという事ですね。では直ぐにでも捜査を始めましょう、それで何処から捜査を始めます?」といった。バイミラー上司は、まだ捜査の経験の浅いオルコット捜査官に対して、彼女の事件への意気込みに微笑した。ルイス警部は、シャキッと背筋を伸ばして、オルコット捜査官に「良しまずは、今分かっている事件の捜査資料を読んで、気付く事や不審に思った事を参考に捜査しよう」といって、視線を投げた。バイミラー上司は、座っていたソファーから立ち上がると、ルイス警部とオルコット捜査官に「それでは捜査を開始してくれ、二人に部屋を用意してある。そっちで捜査を始めてくれ良いね、二人の部屋はこれから案内しよう、直ぐに案内をする者をここに呼ぶ、良いね」といった。ルイス警部とオルコット捜査官は承諾した。二人が、バイミラー上司から受け取ったセイロン紅茶を丁度飲み終わった頃に、バイミラー上司の部屋の開かれた扉をノックする音が聞こえて来て、開かれた部屋の扉の前に男が立っていた。その男は「バイミラー上司、お呼びでしょうか?」という内容の質問をした。バイミラー上司は、今まさに待っていた様子で、男の質問を聞いて顔がパッと明るくなり、部屋の外の男に「ああ、来たか、部屋の中に入ってくれ。ええと、名前はエイムズで良かったかな?」といった。男は、元気良く、バイミラー上司に「はい、そうです。エイムズ捜査官です、失礼します」といって、部屋の中へと入って来た。バイミラー上司は、エイムズ捜査官に「早速だが、ここにいる二人は、私たち英国特別捜査機関に依頼された、スペインで起きた盗難事件の捜査を担当する特別捜査官の二人なんだ。急いで彼らに、私たちが用意した彼らのオフィスを案内してやってくれ、良いね」といった。エイムズ捜査官は、きびきびとした様子で、バイミラー上司に「了解です、直ぐに取り掛かります」といって、ルイス警部とオルコット捜査官の方に向き直った。エイムズ捜査官は、二人と目が合うと、ルイス警部とオルコット捜査官に「こちらです、どうぞ付いて来て下さい」といって、先頭にたって歩き出した。ルイス警部とオルコット捜査官は、エイムズ捜査官の後を追って、部屋から出て行った。ルイス警部とオルコット捜査官は、エイムズ捜査官に連れられて、下の階へと向かって行くと、暫くしてこじんまりとした、人が三人位入れる部屋が現れた。エイムズ捜査官は、バイミラー上司の指示を完了して、ほっとした様子で、ルイス警部とオルコット捜査官に「ここですよ、着きました。部屋の中に必要な資料と思われる物を用意しておきました。何か用がありましたら、呼んで下さい」といった。ルイス警部は、二つの大きなスーツケースを部屋の中に置きながら、エイムズ捜査官に「分かった、何かあったら君に知らせるよ。ありがとう、エイムズ捜査官」といった。するとオルコット捜査官もエイムズ捜査官にお礼を言った。エイムズ捜査官は、会釈をしながら、ルイス警部とオルコット捜査官に「いいえ、何でも言って下さい。捜査に協力したいんです、では」といって、二人のオフィスを後にした。ルイス警部は、部屋の中を見回した。すると部屋の中に中位の大きさの机が二つと椅子が二つ、それからコーヒーサーバーが備え付けてある。二人分の席の後ろには本棚があり、本棚には色々な本が収納されている。ルイス警部とオルコット捜査官の机には、沢山の捜査資料が山積みにされていた。オルコット捜査官は、机に置いてある捜査資料を手に取り、ルイス警部に「私は、ここの捜査資料を直ぐに分析しますね」といった。ルイス警部は、机にどっかりと座りながら捜査資料を見て、オルコット捜査官に「んん、ざっと目を通したところ。これといって捜査に役立ちそうな事は無いなぁ、これから事件現場に行って、そこで何か気付く事が無いか見てみよう。では行こう、オルコット捜査官」といって、捜査資料をパタンと閉じた。オルコット捜査官は、手に取った捜査資料を自分の机に置き、ルイス警部に「分かりました、車を出しますね。車の運転は私がします」といった。ルイス警部は、大きなスーツケースから必要な物だけを取り出して、オルコット捜査官に「それは助かるな、ああ、作戦本部を出る前に、僕たちはピストル(拳銃)を携帯するのが良いと思うんだ。これから行くところは事件現場だ、犯人が、いや犯人たちが舞い戻って来るかも知れないからね」といって、視線を投げた。オルコット捜査官は、腰に手を置き、ルイス警部に「私はもう既にピストルを携帯していますから、ジョナサン警部のピストルを貰いに行きましょう」といった。ルイス警部は、少し驚いた様子で、オルコット捜査官に「そうだったか、君はピストルを携帯しているんだったね。では僕のピストルを受け取りに行こう」といった。オルコット捜査官は、素早い動きで部屋の外に出ながら、ルイス警部に「直ぐに行きましょう、こっちですよ、ジョナサン警部」といった。ルイス警部は、おいていかれない様にオルコット捜査官の後を付いて行った。オルコット捜査官に付いて行くと、ルイス警部は地下の銃器保管庫に到着した。オルコット捜査官は、一歩引きながら規律正しい様子の中にも安心感をにじませて、ルイス警部に「ここですよ、ここでピストルを受け取れますよ。大丈夫です、私たちの捜査機関の身分証を見せれば、保管庫のパソコンで手続きを済ませて、直ぐにピストルを受け取れますよ」といった。ルイス警部は、安心した様子で、オルコット捜査官に「色々と教えてくれてありがとう、直ぐに手続きを済ませるよ」といって、銃器保管庫の受付に向かった。銃器保管庫の受付は、まるまると太った年配のじいさんで、頭は禿げ上がり如何にもドーナツなどの甘いお菓子が好きそうな気の良い人物だった。ルイス警部が、銃器保管庫の受付に「僕はここの捜査機関のジョナサン特別捜査官だ。僕の携帯許可があるピストルを貸し出して欲しいんだ」といって、身分証を見せた。銃器保管庫の受付は、口を食べ物でもぐもぐさせながら、ルイス警部に「はいはい、ちょっと待っててね、今すぐに渡しますから。ええと、ジョナ…ジョナ…ジョナサン…ジョナサン警部、あっこれだ、ありましたよ。ピストルのSIG SAUER P226ですね」といって、微笑み掛けて来た。ルイス警部は、笑顔を見せながら、銃器保管庫の受付に「ああ、そうだ、無事に見つかって良かった」といった。銃器保管庫の受付は、ピストルやライフルがしまわれている沢山の引き出しのある所に行き、沢山の鍵の中から一つを選び、そしてその鍵を使い、英国の警察官のみんなに支給されているピストル(拳銃)のSIG SAUER P226とカートリッジ(弾倉)を二つを持って受付に戻って来た。ルイス警部は、落ち着いた様子で、銃器保管庫の受付にお礼を言って、自分のピストルとカートリッジ二つを受け取った。そしてルイス警部は、オルコット捜査官の待つ場所へと行き「僕のピストルやら一式を受け取った。しかし防弾ベストは何処で借りられるかな?」といった。オルコット捜査官は、にっこりと笑顔を見せながら、ルイス警部に「私たちの乗る車に既に積んでいますよ、さあさあ、事件現場に向かいましょう」といった。ルイス警部は、彼女は出来る捜査官だなと心の中で言いながら、オルコット捜査官に「凄いな君は、大したものだ。ではこれから捜査を始めよう」といった。少ししてルイス警部とオルコット捜査官の二人は、空港から乗って来た、警察車両の色が赤色のSEATの「レオン新型」に乗り込んで、地下駐車場から地上へと飛び出した。
時刻は午後二時ちょっと過ぎだ。暫くセビリアの街を警察車両の車で流していると、色々なレストランの看板が見えて来た。それらの看板にはスペイン料理の郷土料理と書かれていた。ルイス警部はお腹が空いて来たなぁと思いながら、ぼんやりとしていると、オルコット捜査官が急にルイス警部に話し掛けて来た。オルコット捜査官は、にこやかな笑顔をしながら、ルイス警部に「ジョナサン警部、空腹ではありませんか?ここの辺りで食事にしませんか?この辺りは食事がとても美味しいお店が立ち並んでいるんです。どうですか?」と誘ってきた。ルイス警部は、オルコット捜査官のお誘いを受ける事にした。ルイス警部は、首を大きく縦に振り、オルコット捜査官に「是非その提案に乗る事にするよ、直ぐにでも何かを食べないと、倒れそうだ」とお腹を鳴らしながらいった。オルコット捜査官は、車のハンドルを器用に操りながら、ルイス警部に「今見えた、お店にしますね。そのお店はかなり美味しい郷土料理が出るお店なんです、それで良いですか?ジョナサン警部?」といった。ルイス警部は、楽し気な表情で、オルコット捜査官に「スペイン料理の事は良く知らないし、それに滅多に食べれないから、君のお勧め料理を頂くよ」といって、ちらりと見た。オルコット捜査官は、スペインの郷土料理を出すレストランの駐車場に車を乗り入れながら、ルイス警部に「分かりました、ここは私に任せて下さい。直ぐに私の提案が素晴らしいという事が分かりますよ」といった。ルイス警部は、わくわくした気持ちの口調で、オルコット捜査官に「ああ、とても楽しみにしているよ。それはもう楽しみで仕方無いよ」といった。そうこうしていると、ルイス警部とオルコット捜査官を乗せた車は、オルコット捜査官が後ろを振り返りながら、ハンドルを器用に操り、車をバックさせて、停車させた。車が駐車すると、オルコット捜査官は、急いでシートベルトを外して、ルイス警部に「では着きましたよ、車から降りて店内に入りましょう。ジョナサン警部」といった。ルイス警部は、ゆっくりとシートベルトを外すと、オルコット捜査官に「そうだな、じゃあ、早速店の中へと行くかな」といって、後部座席から降りた。車から降りた二人は、急ぎ足でレストランの入り口へと向かった。スペインの郷土料理を出す店の外装は白く塗られた壁に、大きな窓が白い壁の左右に四つずつ付いていて、その窓は黒い窓枠が付いていて、窓の横に料理のメニューが書いてある黒板が掛かっている。正面には大きな黒い扉があり、その扉は黒い縦に長い扉であった。入り口の扉の真上に大きく店の看板が掛かっていて、“スペインの郷土料理”と書いてあるのだった。ルイス警部とオルコット捜査官がレストラン内に入ると、レストランの内装はやはり外装と同じように白く塗られた壁が店内に広がっているのだ。しかし内装の壁は白く塗られたレンガで出来ている。レストラン内の至る所に鉢に入った植物が置いてあり、天井には大きなランプ状の明かりがともっている、またレストラン内にはカウンター席とテーブル席が用意されていて、床は白いレンガで出来ている。
このレストランは二階建てで出来ていて、二階は四角い小さなテーブルがいくつか置いてあり、その小さなテーブル一つに対してやはり小さな椅子が四つ置いてある。テーブルの上にはいくつかのメニューが置いてあるのだ。二階の床は木製で出来ていて、テーブルも椅子も木製で出来ているのだ。ルイス警部はレストラン内に入ると、異国のレストランの雰囲気に圧倒されて茫然としている。オルコット捜査官は、店内を見回すと、レストランのウェイターに、自分たちの居る所へと手招きをした。レストランは、丁度昼食時で、店内は人々で溢れ返っていて、人々の接客でウェイターも不足しているのが分かった。店内のカウンター席では色々なお酒を並べてあるのが分かった。ウェイターは、ひょろっとした背の茶色の髪の毛を短く切った、茶色の目の青年で、服装は上半身が白いワイシャツに黒いネクタイを締めて、下半身は黒いズボンの上に黒いエプロンを付けていて、靴も黒い革靴であった。ウェイターは、急いで客の間を上手く通り抜けて、オルコット捜査官に「お食事でしょうか?席はお二人で宜しいでしょうか?」とスペイン語でいって、愛想良く笑った。オルコット捜査官は、自分も流暢にスペイン語を使い、ウェイターに「ええ、二人で大丈夫よ、お昼ご飯を食べに来たの。空いている席はあるかしら?」といった。ウェイターは、嬉しそうな顔をしながら、オルコット捜査官に「大丈夫ですよ、今丁度二時を過ぎている時間帯なので、どこのお店も混雑していますよね。でも大丈夫です、うちのお店はあなたたちに、丁度席を提供出来ますのでご心配無く。では私に付いて来て下さい、こちらです」とスペイン語でいった。ルイス警部は、今までオルコット捜査官とウェイターのやり取りを黙って見ているしかなかった。オルコット捜査官は、ポカンと立ち尽くしているルイス警部に「行きましょう、ジョナサン警部、急いで付いて行かないと席が無くなるかも知れないですよ」といって、自分の頭でウェイターの進んだ方向を指し示した。ルイス警部は、スペインの雰囲気に圧倒されていたのが、ふと我に返り、オルコット捜査官に「そうだね、ああ、置いて行かないでくれ」といって、慌てふためいて付いて行った。オルコット捜査官は、昼時のスペインのレストランは慣れたもので、ウェイターにすいすいと付いて行けているが、ルイス警部はそこら中、人だらけで人をかわしながら、付いて行くのがとても困難な様子であった。ルイス警部が、レストランの一階でもがいていると、オルコット捜査官とウェイターは二階の階段を上がって行った。ルイス警部は、慌てた口調で、オルコット捜査官に「どうしよう、まだ一階から抜け出せないでいるんだ」と叫ぶ様にいった。オルコット捜査官は、後ろを振り返りながら、落ち着き払っている様子で、ルイス警部に「急いで下さいね、二階ですよ」といった。ウェイターとオルコット捜査官は二階へと消えて行った。ルイス警部は、先程よりも急いだ足取りで、額に汗をかきながら、二階へと向かった。やっとのことで、二階へと到着したルイス警部は、辺りを見回した、すると奥のテーブル席からこちらに手を振りながら「ここよ、ここです。ジョナサン警部」と呼んでいるオルコット捜査官が眼に入って来た。ルイス警部は、手を上げて合図を送り、ゆっくりとした足取りで、オルコット捜査官の居るテーブル席へと向かって行った。少しして手間取ったが、漸くオルコット捜査官の居る席に到着すると、ルイス警部は「いやいや、人がとても多くて、歩くのがやっとだね。それなのにオルコットさんは早く歩けるんだもんな、いやいやスペインのレストランはお手の物って事だね、大したものだ」といった。オルコット捜査官は、軽く口元に微笑を浮かべながら、ルイス警部に「スペインの街は経験を積んでいますからね、それはそうと、私が勝手に食事をもう既に二人分頼みましたけど、宜しかったですか?」といった。ルイス警部は、感心した様子で、オルコット捜査官に「ああ、別に問題無いよ、君のお勧めの料理で十分だよ。スペイン料理は初めてだからね、どれも楽しみさ」といった。オルコット捜査官は、控えめな笑顔を見せて、ルイス警部に「それは良かったです、では席に着いてください、ジョナサン警部」といって、手で椅子を勧めた。ルイス警部は、小さなテーブルから小さな椅子を引き出すと、どっかりと座った。オルコット捜査官は、指を組んで、ルイス警部に「この午後二時から午後四時の間はスペインでの昼食時間で、“コミダ”って言うんですよ。スペインは昼食がメインの食事であるので、スペインでは量がたっぷりあるんですよ。昼食はメイン食なのでしっかりとたっぷりと食べるためなんです」といった。ルイス警部は、わくわくした様子で、オルコット捜査官に「それで食べ物は何を頼んだんだい?」といって、少し身を乗り出した。オルコット捜査官は、先程とは打って変わった、ゆったりとした様子で、ルイス警部に「ええ、ここスペインの人々と同じ様に、昼食はきっちりと頂くのが良いと考えて、スペイン料理の有名どころのパエリアを注文しました。それもパエージャ・デ・マリスコスという私のお気に入りのパエリアです。凄く美味しいですよ、楽しみにしていて下さい」といった。ルイス警部は、穏やかな表情で、穏やかな口調で、オルコット捜査官に「それは嬉しい話だ。うん、楽しみにしているよ」といって、またしてもお腹を空腹で鳴らした。暫くして、最初にオルコット捜査官と話したウェイターが、大きな皿を二つにとてもキンキンに冷え切っているコップを二つ持って、ルイス警部とオルコット捜査官のテーブル席へと現れた。するとウェイターが、礼儀正しい口調で、オルコット捜査官に「こちらがパエージャ・デ・マリスコスで、こちらがアイスコーヒーですよ、それぞれ二つずつですね。ご注文は以上で宜しいでしょうか?」とスペイン語でいった。オルコット捜査官は、冷静な顔付きから笑顔に変えて、ウェイターに「ええ、頼んだ物はこれで全部だわ。ありがとう」とスペイン語でいった。ウェイターは、礼儀正しくお辞儀をして、オルコット捜査官に「それでは何かありましたら、お呼び下さい」とスペイン語でいって、その場から離れて行った。パエリアとはスペイン東部バレンシア地方発祥の料理で、野菜、魚介類、肉などの食材を米と水、黄色の着色料としてハーブを加えた物の上に置き、フライパンで炊き上げて、調理中は混ぜ無い料理の事である。パエージャ・デ・マリスコスというパエリアは、ムール貝、エビ、イカ、パプリカと魚のスープにタマネギを入れて調理した魚介類のパエリアである。運ばれて来た料理は、沢山の魚介類で皿いっぱいに飾られていて、その飾られているエビや貝などの魚介類はとても色鮮やかに彩られていて、この料理はとても芸術的であった。この運ばれて来た料理は、見た目だけで無く、香りも芸術的な美味しそうな香りを放っているのだ。アイスコーヒーが入っている透明なコップからは水滴が滴り、黒の様な茶色の様なそのアイスコーヒーは、パエージャ・デ・マリスコスとは異なり、落ち着いた雰囲気を漂わせていて、それがよりパエージャ・デ・マリスコスを引き立たせているのだった、そこがまた料理の芸術的な印象を与えているのだった。オルコット捜査官は、パエージャ・デ・マリスコスを見て、嬉しそうな表情でいる。ルイス警部は、パエージャ・デ・マリスコスを前にして、口の中でよだれが垂れそうになっているのをどうにかこらえているのだった。ルイス警部は、席に用意されているスプーンを手に持って、もう片方の手でアイスコーヒーを手に持ち、そして一口、口に含んだ。ルイス警部は、落ち着かない様子で、オルコット捜査官に「もう食べても良いかな?とてもこれ以上は我慢が出来ない、どうかな?」といった。オルコット捜査官は、ころころと鈴が鳴る様な笑いをして、ルイス警部に「ええ、構いませんよ、どうぞ召し上がって下さい」といった。ルイス警部は、勢いよくスプーンでパエリアを掬いながら、オルコット捜査官に「それでは、先に料理を頂きます」といった。ルイス警部は、目の前にあるパエリアをスプーンで出来るだけ多く掬って、口の中に放り込んでいる。それから彼は、放り込んだパエリアを懸命に口の中でもぐもぐいわせながら、食べているのであった。彼は、とても空腹であるのが誰から見ても一目瞭然であった。パエリアを食べる彼の様子は、とても気持ちの良い光景であった。オルコット捜査官は、勢いよく早く食べているルイス警部とは異なり、ゆっくりと大好きなパエージャ・デ・マリスコスを味わいながら食べている。彼女は、眼を閉じながら、ゆっくりと口を動かしている。それから彼女は、「うーん、とても味わい深いわ、この味この味」とつぶやいた。ルイス警部は、パエリアを皿の半分程食べ終えると、アイスコーヒーをゴクゴクと音を出しながら飲み、食べたパエリアを流し込んだ。ルイス警部は、少しお腹の中が満たされた事によって、気持ちに余裕が出たみたいで、口調も明るい感じを帯びながら、オルコット捜査官に「それで、事件現場はこの近くなのかい?」といって、パエリアを載せたスプーンを口の中へと入れた。オルコット捜査官は、自分のパエリアを味わいながら、物思いにふけっていて、反応に遅れながら、ルイス警部に「えっ?何です?何か言いましたか、ジョナサン警部?」といった。オルコット捜査官は、呆けた様子でポカンとした。ルイス警部は、陽気な感じで、質問を繰り返した。するとオルコット捜査官は、漸く合点がいったみたいで、ルイス警部に「ああ、捜査の事ですね、ええ、この近所ですよ。事件現場の事ですよね、ジョナサン警部?」といって、視線を投げた。ルイス警部は、少し安心した様子で、オルコット捜査官に「そうか、ほっとしたよ、スペインって国は素晴らしいし、美味しい食事ももっと食べていたいが、仕事をしにこの国に来たのを忘れてはいけないからね」といって、アイスコーヒーを一口飲んだ。オルコット捜査官は、元気良く、ルイス警部に「そうですね、捜査に来てるんですものね。急いで食事を終えて、捜査に当たりますね」といった。ルイス警部は、パエリアの残りのもう半分を食べると、アイスコーヒーを全て飲み干した。オルコット捜査官は、食べる速度を上げた。少しばかりしてルイス警部とオルコット捜査官は、注文した食べ物と飲み物を全て平らげると、スペイン料理のレストランを後にした。素早くルイス警部とオルコット捜査官は、警察車両の色が赤色のSEATの「レオン新型」の車内へと吸い込まれた。
時刻は午後三時だ。セビリアの街は、とても大きくて、厳粛な建物が細い道路を囲んでいる。この細い道路に沿って木が植えられていて、緑の色を街に提供している。そびえ建つ建物は、中位のお城を連想させる、街は空から見ると建物の屋根の色が大まかに赤茶色と黄色や他の色に分かれて建っている、そして屋根には神話に出て来る様な人物が銅像として備え付けてある。その光景は街を聖人たちが、街を守っている感じを心に呼び起こしている。午後三時の空の様子は、とても青々とした空で、所々に白い雲が覗いていて、ヨーロッパの独特な空を見せている。そんな中、ルイス警部とオルコット捜査官は、車でセビリアの街を抜けて、セビリア大聖堂へと到着した。
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