#16. First Period

 「そういえば今朝、どこに行ってたんだよ、拓也たくや


 今年度初めての美術の授業を受けながら今朝のことについて考えてると、隣にいた誠一せいいちから急な質問が飛んできた。


 「別に大したことじゃないさ。ただの人探しだよ」

 「ふーん。人探しって女の子?もしかして、昨日気になる子とか見つけたのか?」


 誠一は15分前までのテンションと同様に俺を少しからかってきた。


 「全然違う」

 「じゃあ、誰?」

 「清太せいた

 「あー、昨日昼休みにカフェテリアで会った愛海あいみの幼馴染か」


 ツッコミを入れたいところだが、いつものことだからやめておいた。



 誠一は昔から一度話したことがある女子のことを名前で呼んでいる。当時、今はもういない真梨まりと誠一が初めて会った時に、誠一が彼女のことを名前で呼ぶと、「初対面なのに馴れ馴れしい」と怒られたことがある。それでも誠一と真梨の距離は時間と共に縮まり、最後には結ばれたのだ。しかし、一つの事件によってその赤い糸は切れてしまった。



 「うん」

 「なんで、清太のことを探してるの?」

 

 俺は今朝のことを一から簡単に説明した。


 

 「なるほど。拓也が勝負に負けて、自販機で缶ジュースを買ってベンチの方に行くと、数分前までいたはずの清太の姿がどこにも無かったってことか。それで登校した時、教室に清太はいたのか?」

 「いや、いなかった。今日は午前中、全部移動教室だから昼休みにもう一度探してみるよ」

 「俺も手伝うよ」

 「ありが‥‥‥」


 「そこの男子二人。しっかり話を聞きなさい」


 俺が誠一にお礼を言おうとした瞬間、誠一ではない声が耳に響いた。俺が周囲を見渡すと、端の席にいた美穂みほがクスクスと笑っていた。隣にいる李子りこは「笑っちゃだめだよ」って美穂に言ってるような行動をしていた。


 「す、すみません」


 俺と誠一はとりあえず先生に謝った。

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