#15. Chit Chat

 「おはよう、誠一せいいち

 「おはよう」


 俺は自分の机の上にカバンを置き、1年3組をあとにして1年1組へと向かった。1組を覗いてみるが、そこにはまだ清太せいたの姿は無かった。

 少し早く着きすぎたかな。今日は全て移動教室だし、昼休みにもう一度行ってみるとするか。



 俺が3組に戻ると、教室には数分前まで居なかった佐々木美穂ささきみほ高田李子たかだりこが誠一と会話をしていた。


 「おはよう。佐々木さん、高田さん」

 「おはよう。上月かみつきくん」


 俺の挨拶に最初に気づいたのは高田さんの方だった。彼女は直ぐに挨拶を返してくれた。彼女に続いて佐々木さんも挨拶してくれた。


 「おはよう!拓也たくや

 「さ、佐々木さん!?どうして、下の名前?」

 「ごめん。嫌だった??」

 「いや、そういう訳ではなくて少し驚いただけ。こっちこそ変なことを聞いてごめんね、佐々木さん」

 「拓也さ、私のこと、美穂って呼んで」

 「わ、分かった‥‥‥み、み、美穂」


 俺は少し躊躇ってしまった。しかし、女子を下の名前で呼ぶのは慣れないもんだ。誠一はほとんどの女子のことを下の名前で呼んでるが、俺には無理だ。俺が女子を下の名前で呼ぶようになるのは、その子とめっちゃ仲良くなってからだ。出会って間もない女子のことは、いつも名字で呼んでいた。


 俺が美穂のことを下の名前で呼ぶと、高田さんが何か言いたそうな顔をしていたのに気づいた。


 「どうしたのですか、高田さん?」

 「あ、いや。なんでもないです」

 「どうしたの?リリ。拓也に告白でもするの?」


 隣で美穂が高田さんのことを気にしてるのと同時に彼女を少しいじった。そのいじりにのったのか、誠一も一言付け足した。


 「李子、マジで??拓也のどこを好きになったの?」

 「二人とも全然違います!それに美穂、その呼び方やめてってば」


 高田さんは顔を赤くして、美穂に向かって言う。すると美穂は高田さんの背後に回って、彼女の脇腹に両手を近づけた。


 「きゃぁ」

 「ごめんってば。許してリリ〜」


 美穂は真っ赤な高田さんの脇腹をくすぐっていた。

 俺は今何を見ている?夢でも見てるのだろうか?なんだか、俺まで少し恥ずかしくなってきた。

  

 「わ、分かった。ゆ、許すからやめてー。くすぐったい」


 美穂は高田さんのことを聞いてあっさりと彼女の脇腹から手を離した。


 「ありがと、リリ。大好き」

 「もう〜、ありがと。あと、よ・び・か・た」

 「あ、ごめん、李子。テヘッ!?」


 美穂は自分の発言に気づき、高田さんに謝るのと同時に右手を頭の上において舌を少し出した妙なポーズをとった。


 「それでどうしたのですか、高田さん?」


 俺は改めて高田さんに尋ねてみた。


 「え、えっと、できれば私のことも李子って呼んでいただけないでしょうか?」

 「そういうことですか。分かりました、良いですよ。じゃあ、俺のことも拓也って呼んでください。それと、敬語やめよ」

 「分かった。ありがとう、拓也くん」

 「こっちこそありがとう、李子」


 すると、隣から誠一と美穂の重なった声が聞こえてきた。


 「ヒュー」

 「やめろよ」


 俺は二人に言い返した。

 なんだか気恥ずかしい。顔から火が出そうだ。

 俺は教室の時計を確認すると、8:25になっていた。


 「やば。もう25じゃん。急がないと、一時間目の美術に遅れる。みんな、行くよ」


 俺たちは筆箱とジャーナルを手にして急いで美術室へと向かった。

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