#12. Past V 〜新たな一歩〜

 「あなたたちは頭が狂ってる。俺がここで先生を殺す。これ以上他の人を殺すわけにはいかないからな」


 俺は今までこんなに怒りで頭が一杯になったことは無かった。

 こいつは、生きててはいけない。このままだと世界が滅んでしまう。全く、今日は俺にとって人生初の体験が多いな。


 「俺を殺すだと?武器も何も持ってないあなたはどうやって俺を殺すんだ?俺はサブマシンガンを持ってるんだぞ。笑わせるのも大概にしろよ」

 「みんなは、先に非常階段を使って外へ出ていてくれ」

 「ダメだ、拓也。俺たちも戦うぞ。そうだろ、みんな?」


 「おー!!」


 誠一がみんなに火を付けてくれた。男子陣は近くにあった掃除ロッカーから何本からほうきを取り出した。


 「まさか君たち、そんな箒で銃に勝てるのでも思ったのか?」

 「このヤロー!」


 誠一は掃除ロッカーにあった未使用のマイペットを先生に思いっきり投げた。すると、マイペットは先生の顔面に直撃した。流石、野球部のエースだ。誠一がマイペットを投げたと同時に男子たちは一斉に前へ突っ込んだ。

 しかし先生は直様に起き上がると、持ってたP-90を俺たちに向けて発泡し始めた。P-90の装弾数は68発だ。殆どの男子は一気にやられてしまった。しかし、俺はまだ諦めてない。弾切れになった先生はP-90を捨て、斧を拾おうとした。俺はそれを阻止するために、先生の顔面にドロップキックをした。先生はそのまま地面に倒れた。その間に、俺は横にあった斧を拾いあげた。


 「残念だよ、先生。俺たちは先生のことを尊敬していたのに。地獄でしっかりと償ってこい」


 ズバッ!


 「さあ、終わったぞ。男子たちありがとう。君たちのおかげだよ。でも、助けられなくてごめん」


 俺は涙を堪えながら後方にいた女子たちの方へと急いで向かった。

 男子で生き残ったのは、俺と誠一の二人だけ。女子は真梨まなを含めた残り十人ほどになっていた。


 俺たちは非常階段を下り終えると、急いで正門へとダッシュした。しかし、校舎の屋上の辺りからスナイパーらしきものが俺たちを狙っている。次々に狙撃されていく。俺はなんとか無事に正門を通り抜け、壁に身を隠した。俺を抜いてまだ4人ほどこちらに向かって走ってきている。不幸にも走っている途中に誠一は転んでしまった。


 バン!


 「誠一ー!」


 銃声音と同時に俺は誠一の名前を叫んだ。誠一の方を向くと、そこには誠一を守るように真梨が誠一の上にいた。そして真梨は背中から血を流していた。


 「真梨ー!しっかりしろ」


 誠一の声が聞こえてくる。


 「ごめんね、誠一。私の分まで生きて。私、誠一の彼女になれて幸せでした」

 「俺こそごめんね。真梨のことを守れなくて。真梨、愛してる」

 「私もよ」


 それを最期にして真梨は死んだ。


 「誠一、早くこっちへ来い。そのままだとお前も狙撃されてしまうぞ!」

 

 誠一は涙を堪えながらその場から立ち上がり、後ろを一度も振り返らず正門まで走り切った。


 ウ〜ウ〜ウ〜


 パトカーのサイレン音が次第に近づいてくる。先程の先生との戦いの際に、女子が警察に連絡してくれたのだろう。俺は、実験室で有毒ガスを少しだけ吸ってしまったせいか、誠一の前で俺は倒れた。


 「拓也!拓也!」


 誠一が俺を呼んでいる。段々と意識が無くなっていく。最後には俺は完全に意識を失ってしまった。




 「そんなことがあったのか。段々と記憶が戻ってきたよ。ありがとう」

 「そうか」

 「じゃあ、俺は自分の病室に戻るよ」

 「うん、また明日」


 俺は誠一の病室をあとにして、自分の病室へと向かった。その日の夜、俺は自分のベッドで今回の出来事について色々と思い出してきた。次第に思い出すにつれて、自然と涙が流れてきた。


 翌日刑事さんたちの話によると、あの事件は後に「六・一七ろくいちなな事件」と言われるようになった。また、トランスマフィアのボス及びその他の幹部たちは事件当日逃走したらしいが、二週間も経たないうちに暗魔キラーロードによって暗殺され、トランスマフィアは全滅した。一方で、俺と誠一は「六・一七事件」のショックで葬式後は自分の部屋に引きこもるようになってしまった。俺たちは互いに一切連絡を取らず九ヶ月間色々と考えて、翌年の春からは新たな中学校、赤光中学校せきこうちゅうがっこうでもう一度中学二年生からやり直すことになった。

 

 今回の事件を振り返って、俺は心に決めたことがある。それは、今までほとんど探偵依頼を受けてなかったが、少しでも凶悪犯の数を減らせるのであれば悪人のみ暗殺する暗魔キラーロードのような存在になりたいと思い、全ての探偵依頼を受けることに決めたのだ。そのためには、まずは少し前向きで生きていこうと思った。これからが俺の第二の人生だ。

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