#11. Past IV 〜脱出〜
お手洗いを済ませて、自分の病室に戻る際に違う病室の名札を見てると、「小谷誠一様」と書かれている名札がふと目に入った。俺はもしかしてと思いながら、ドアを2回ほどノックして入ると、そこには誠一の姿があった。彼は外の景色を覗いていた。
「せ、誠一?」
俺が一言声をかけると、誠一は俺の方を振り返った。しかし、それはいつもの誠一の表情では無かった。どこか暗そうで、何かを失った悲しい猫のような表情をしていた。
「お、拓也か。目覚めたんだな。具合はどうだ?」
「いつもより体が重いよ。お前こそ、どうしたんだ?そんな暗い顔をして」
「お、お前、あの時のこと覚えてないのか?」
誠一の反応からして何か大きな出来事があったのだろう。しかし、今の俺には何のことなのかあまりよく分からない。
「なんか、まだ寝起きだからかもしれないけど、何かあったぐらいしか覚えてないんだ」
「そっか。話すよ」
「一言で言うなら、拓也、お前と俺以外みんな死んだ。三日前の6月17日に」
「え?真梨は?」
「真梨もだよ」
俺は今頭の中が真っ白だ。一体、誠一は何を言ってるのだろう?みんな、死んだ?
「そんな訳ないでしょ。冗談は‥‥‥」
俺は誠一が泣いてる姿を見て、口を謹んだ。
誠一は続けて話す。
「俺はお前のおかげで今生きてるんだよ、拓也。ありがとう」
「う、うん」
「多分、お前は何を言ってるか分からないと思うから、一部だけ教えるよ。詳しくは明日刑事さんたちから聞けると思うから」
誠一は真梨を失った辛さを堪えながら、俺に丁寧に一から話してくれた。
この密室状態からどうやって逃げる?窓は開かない。窓ガラスを壊すようなものもない。考えろ、俺。どうやったらここから逃げれる?考えろ、俺。
そ、そうだ。これしかもうない。一か八かでやるしかない。
「みんな、聞いてくれ。やはり、この実験室から出るのはほぼ皆無だ。でも、まだ一つだけ出る方法がある。それは、あそこから出ることだ」
俺は鍵が掛かっている前方のドアを指差した。
「で、でも、あのドアは鍵が掛かってるんでしょ?どうやって、開けるの?誰も鍵を持ってないんだぞ」
すると、誠一が俺に尋ねた。当然の質問だ。
「分かってる。だから、俺がピッキングしにいく。それしか方法がないから」
「でも、前に行ったら死んじゃうんだよ?」
「確かに死ぬかもね。でも、それは有毒ガスを吸った時だけだから。つまり、有毒ガスを吸わなければ良いんだよ。これでも俺、3分間は息を止められるんだよ」
「わ、分かった。拓也を信じるよ。気をつけてな」
「うん。では行ってくる」
俺はみんなの命を背負いながら、筆箱からクリップを取り出して前方のドアへと向かった。
もうここまで来てるのか。時間がない。急がないと。
有毒ガスは、実験室の1/3まで来ていた。俺は有毒ガスがたまってるギリギリのところで息を止めて前方のドアへと向かった。
ピッキングの作業に入るが、正直言ってピッキングをするのは今回が人生で初めてだ。何回か試みたが上手くいかない。意外とピッキングは難しい。そろそろ限界だ。次がラストだと思いながら、俺はクリップを入れた。
カチャカチャ、カチャン
すると、ドアの鍵が開いた。俺はさっとドアを開けて廊下に出た。俺は一度深呼吸して、みんなに向かって手を振った。そして、みんなは一人ずつ息を止めながら有毒ガスのエリアを通り過ぎて、廊下へ次々と出てきた。
「ありがとう、拓也。助かったよ」
俺はみんなからとても感謝された。
「いえいえ。でも、まだ安心はできない。今ドアを開けたから、有毒ガスが今度は廊下の方に出てくる。みんな、外の非常階段まで走るぞ」
「お、おい。待てよ!」
どこかで聞いたことのある声だった。後ろを振り返ると、数メートル先には右手にP-90を持った
「先生。一つ聞きたいのですが良いですか?」
「何だ?」
「何故、こんなことをするのですか?」
「良いだろう。どうせ、君たちはここで死ぬのだから最期に教えてあげよう。何故かって?」
「それは、俺は人を殺すのが大好きだからだ。勿論、俺だけじゃない。これは校長先生、我のボスによる計画だ。俺たち、トランスマフィアは全ての人類を殺し尽くす。そして、俺たちだけの世界を作る。だから、君たちも死ぬんだよ!」
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