#10. Past III 〜密室〜

 「きゃあああ!!!」


 目の前に居た生徒が急に倒れた光景を漠然と見ていた数人の生徒は悲鳴をあげた。

 無理もない。目の前で人が倒れたのだから。


 クラス委員長はその悲鳴に気づき、倒れた生徒の方へと向かった。しかし彼に近づくと、委員長もまた倒れた。すると、みんなは次第に慌て始めた。


 「なんだよ、これ!こんなもん、やってられるか!」


 一人の生徒は取り乱して、先ほど委員長が開けようとしたドアとは違うもう一つのドアを開けて外へ飛び出して行った。しかし飛び出した瞬間、彼の首だけがコロンと実験室内へと転がってきた。

 何が起きた?

 

 「きゃあああ!!」


 またもや悲鳴。今の状況を見て、一部の人はあまりのショックで気を失ってしまった。

 後ろのドアが簡単にも開いたので何かあるとは思ったが、こういう結果になるとは。

 俺は昔から推理小説を読むのが好きで、こう言う状況になっても俺は冷静でいられる。今、この実験室で冷静のままなのは俺ぐらいだろう‥‥‥と思いながら実験室を見回すと、一人だけ冷静でいる人を見つけた。彼の名は、小谷誠一。彼は、今震えてるまり真梨の背中を優しく撫でてあげていた。


 今までの結果や今の状況から推測するに、足利先生は俺たちを殺そうとしている。前方のドアは職員室に行く際に外から鍵を掛けたのだろう。後方のドアは一見何も無いように感じるが、廊下に何か仕掛けられていると予想ができる。一方で、教卓付近から上がる黒煙は火災ではなく、有機物が含まれてる有毒ガスであるだろう。また、教卓の上にあるサーキュレーターは有毒ガスを早く循環させるためにあるのだろう。しかし、有毒ガスが近くにある以上サーキュレーターを止めるのはもう不可能。コンセントも教卓の真下にあるので、コンセントを抜くことも不可能。俺は、とりあえずみんなに状況を知らせるために声を上げた。


 「みんな、聞いてくれ。教卓の近くから出ている黒煙は火事ではなく、有毒ガスだ。だから、教卓から急いで離れて後ろの方へ来てくれ」

 「わ、わかった。でも、気絶してる人たちはどうする?」

 「それは‥‥‥諦めてくれ。仕方ないんだ」


 俺は一度言葉に詰まったが、ストレートにキッパリと言った。



 ごめん、みんな。



 俺は心の中でそう呟いた。


 「う、うん」


 間があったものの、みんなの理解が早くて直ぐさま後方へと来てくれた。しかし、サーキュレーターが回っている以上、時間もあまり無い。そこで俺は考えた。


 「窓側にいる人たち、窓を開けてくれ。少しでも毒ガスを外へ逃がすんだ」

 「わ、わかった」


 窓側にいた人たちが急いで窓を開けようとするが、開かない。


 「拓也、窓が開かないぞ。どうする?」


 つまり、密室ってことか。どうする?どうする?

 気づかないうちに、俺の額からは汗が流れてきていた。




 ピーッピーッピーッ

 


 俺が目を覚ますと、俺は病室のベッドの上にいた。まだ意識が朦朧もうろうとしているせいか、視界がはっきりしない。

 一人の看護師さんが俺の病室に入ってくると、俺の意識が戻ったことに気づいたようで医者を呼びに行く様子で、病室をあとにした。数分後、先程の看護師は担当医と見られる医者を連れてきた。


 「拓也くん、具合の方はどうですか?」

 「まだ、頭が少しくらくらします」

 「そうですか。分かりました。では‥‥‥」


 俺は担当医の先生との話を終えると、お手洗いに行くためにベッドから起きあがろうとした。しかし体が普段よりも重く感じ、起き上がるだけでかなり疲れる。どうやら、俺は三日間ずっと寝ていたらしい。

 先生によると、俺は明日刑事さんと話をするらしい。内容は今回の事件についてだ。今はまだはっきりとは思い出せないが、何かの事件に巻き込まれていたのは薄々感じる。とりあえず、今はこの体の怠さをなんとかしたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る