第2話 その後のこと

「……きみ……おい、君、大丈夫か?」

「あ……こ、ここは……」

「ああ、良かった、気が付いたようだな?いったい、何でこんな所に寝ていたんだ?」


 僕は警備員のおじさんに揺り起こされて目を覚ました。


「ああ、すみません……ええっと、ちょっとアルコールを飲んで、酔っぱらったみたいで……」

「そうか、気を付けるんだぞ。あんな事件があった後だ、またかって肝を冷やしたよ」


 おじさんはライトで辺りを照らしながら、少し青ざめた顔をしていた。申し訳ないことをした。

 僕はおじさんにお礼を言って、帰路に就いた。まだ、頭が少しボーっとしていたが、記憶ははっきりしていた。


 その夜、僕は眠れぬ一夜を過ごした。

 自分が見たのは、明らかに死んだ女学生が体験した記憶だろう。つまり、彼女は自殺ではなく、N教授に殺されたのだ。しかし、それを俺が口に出したところで誰が信じてくれるだろう。一笑に付されて終わるか、変人扱いされるのがおちだ。それは、小さい頃さんざん経験したことじゃないか。それに、へたすれば自分が疑われるかもしれない。


 だが、あの殺された哀れな女の子が、必死の思いで僕にすがりついてきた思いを考えると、なんとかして無念を晴らしてあげたい。どうすればいい、どうすれば……。


 次の日、僕は藁にも縋る思いで、一通の手紙を書き上げ、とある出版社に送った。その出版社は、超常現象を扱った月刊誌を出していた。そこの投稿欄に今回の事件の真実を書いて送ったのである。


 結果から言えば、それは正解だった。

 出版社は、僕の投稿を重く受け止めてくれ、紙上で大きく取り上げるとともに、裏では警察にも働きかけてくれたのだ。

 もともと警察も状況証拠から、N教授を容疑者として捜査したが証拠が見つからなくてあきらめていたのだ。だが、僕の書いた内容から、警察はN教授の部屋を徹底的に調べ、彼の携帯を押収した。

 そして、決定的な証拠が見つかり、N教授は逮捕され、しばらくしてからすべてのことを自供したのだった。



「君は素晴らしい霊媒体質の持ち主だ」

 三島さんは事件解決後、僕を訪ねてきて、開口一番にそう言った。

 僕は全然うれしくなかった。

「その能力を世の中のために生かすのが、君に与えられた使命なんだよ」

「いやいや、他人事だからそう言えるんですよ。霊が生前体験した苦しみを、再体験する苦しさなんて、誰にも分からないんだ」


 僕の悲痛な心の叫びを、三島さんはじっと受け止めて、僕を見つめた。

「それでも、君は霊たちに寄り添うべきだ。君には霊たちの無念の思いを晴らしてやれる力がある。それに、その能力がどんなに嫌でも、捨てられるわけじゃないだろう?」


 確かにそうだ。たいていの霊は無視していればそれで済むし、これまでもそうやってきた。生活するうえでも、気にしなければ支障はない。こんな能力なんていらない、と捨てることもできないなら、なんとか付き合っていくしかないのだ。


「僕に力を貸してくれないか?罪を犯してものうのうと生きている奴らに、正当な裁きを受けさせる。君と僕とで、少しでも無念の思いで死んでいった人たちの魂を救ってあげないか?」

 結局、そんな三島さんの熱意に負けて、僕は彼の会社に入社したのだった。


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