第14話 友人

 気合を入れる時や大1番の時、人は円陣を組みチームを鼓舞するものだ。

 今、僕も円の一部となっていた。


「行くぞ、お前らぁ!どのクラス相手でも勝ってみせる!俺たちの団結力見せつけるぞ!絶対優勝するぞォォォォ!!!!!」

「オオオオオォォォォォッッッ!!!!」


 海成が掛け声をすると、大きな声がクラスメイトの皆から上がる。僕も声を一応は出すが、やる気というものは一切ない。

 クラスメイトの皆は気合いは十分と言った感じで、やる気に満ち満ちてる。

 大して僕は、気分は少し沈んでいる。いつもなら歓迎する雲一つない快晴の空が少し憎く感じてしまう。


 どこもかしこも気合が入っており、元気だ。あちこちからやる気の籠った声が上がっているし、雰囲気が・・・なんて言うかもう体育会系だ。


 適当にやって適当に過ごす。そして後は応援に徹する。今日の目標はこれだ。

 クラスメイトには悪いが頑張る気なんて起きない。だって運動が嫌いなのだから仕方が無いじゃないか。

 とにかく早く終わる事を願うばかりだ。


「お!空くーん!やっほー!」


 そんな事を思いながら居ると、遠くの方から僕を呼ぶ声が聞こえてきた。非常に元気な声で、いつも聞いているあの人の声だ。


「いえーい!空くん?そっらくーん!先輩だぞー!」


 球技大会のせいでいつもよりもテンションが高い美琴さん。ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねて、非常に元気だ。

 この声に反応しなければ永遠と大きな声で呼び続けそうなので、仕方なく僕は美琴さんの方へと向かう。


 近くによってみると、美琴さんの他にもう1人女の人が居た。

 金髪をポニーテールにしており、背が高い。見た目から派手な印象を受けるが、美琴さんの友人だろうか?

 僕は美琴さんに話しかける。


「あんまり大きな声で呼ばないでくださいよ。恥ずかしいじゃないですか」

「やっほー空くん!元気ー?私はね、元気だよ!」

「見れば分かります」


 あなたが元気でなかったら、どんな人が元気だと言うのだろうか?少なくとも僕が出会ってきた人の中で、1番元気なのは間違いがない。

 なんてアホなことを考えていたら、美琴さんの隣にいる女の人が話しかけてくる。


「おおー!君が美琴の後輩くんか〜。へぇー」


 そう言って彼女は僕をジロジロと観察するように見てくる。


「な、何ですか・・・?」


 なんだ、何かおかしな所でもあったのだろうか?僕の今の格好は、上がジャージで下が体操服のズボン。特におかしな点は無いと思うのだが・・・・・・もしかして文芸部に入る変わり者だと思われている?


「うんうん、実に健康的な男の子だ」


 彼女は実に満足そうにウンウンと頷いている。

 ・・・・・・何だったんだろうか?


「いい後輩だねー、美琴!」

「でしょ!部活動に来てくれるいい子なんだよ!」

「おお、文芸部でそれはいい子だねー」


 部活動に行くだけでいい子って、ハードルが低くないか?どんだけ人が来ない部活だと思われているんだろう、僕たちの文芸部は・・・・・・?


「あの・・・ところで先輩はどなたなのでしょうか?」

「そうだそうだ、自己紹介をしてなかったねー。アタシは甘濃糸あまのいとだよー。苗字は、甘いに濃いであまのだから間違えないようによろしく〜!

 あと、アタシの事は糸ちゃんと呼んでくれぃー!」


 ・・・甘濃さんはビシッとポーズを決めながらノリノリで自己紹介をしてきた。

 僕も普通ではあるが自己紹介を返す。


「えっと、僕は花咲空はなさきそらって言います。美琴さんの後輩をやらせてもらってます」

「アハハッ!後輩をやらせて貰ってるって・・・ハハッ」


 なんか彼女のツボにはいったみたいだ。甘濃さんはお腹を抱えて笑っている。


「いいねー、君いいねー!よし、ご褒美に・・・ほいっ」


 そう言って甘濃さんは僕な向かって何かを投げてきた。それを僕は慌てて掴む。


「・・・飴?」


 僕の手に握られていたのは、コンビニなんかでも売っている棒付きのアメだった。味はラムネ味だ。


「アタシはアメが好きだからねー、常に持ってるんだよー。美味しいよねー。それは君にあげるよ」

「ありがとうございます」

「ねー、私の分は?」

「美琴の分はないよー」

「えー!ポッケにパンパンに入ってるよね!1つくらい頂戴よー」


 美琴さんがそんな事を言うから気になり、ズボンのポケットを見てみると、明らかに不自然な膨らみがあった。

 あそこにアメが入っているんだな。・・・なんでポッケに入れてるんだろう?


「ダーメ、美琴にはいつもあげてるでしょー?アメは私の活力なんです」

「えー、ちょっとくらいさーいいじゃん」

「ダメなものはダメなんですー」


 2人の先輩はわちゃわちゃとじゃれ合っていた。

 いつもは先輩として振舞っている美琴さんが、同級生と話している姿に新鮮さを感じた。いつもとは違う、なんていうのかこの雰囲気の違う感じ。

 対象にしている人が違うのだから当たり前なのだが、面白いと思ってしまう。


「私も、飴欲しい!頂戴!」

「諦めなさーい」


 そう言って甘濃さんはアメを取り出し、口に加える。


「それにほら、時間。そろそろ集合じゃない?」


 甘濃さんは近くにあった時計を指で指し示した。

 美琴さんは時計を見ると、声を上げた。


「あーーーー!!やばい、時間だー!仕方ない、アメは諦めるしかない!

 空くん、糸、また後でね!私は行くよ!怒られる前に!」

「あ、はい、頑張ってください」

「おー、行ってらっしゃーい」


 慌ただしく走り、消えていった美琴さん。それを僕らで見送る。

 美琴さんが去り、甘濃さんと2人だけになってしまった僕。どうしたものかと思い、考えていると甘濃さんが話しかけてきてくれる。


「後輩くんは何の競技に?」

「僕はサッカーですよ」

「おー、いいねー、サッカー。カッコイイよねー。足から火を出してボールを蹴ったり、キーパー大きな手を出したり、何か派手な名前がついたり・・・うんうん、いいねー」


 よくない、非常によくない。てか、そんな事は出来ない。

 甘濃さんはどこかのサッカーアニメの話をしているのだろう。現実で出来るわけがない。


「甘濃さんは何の競技に出るんですか?」

「ノット、甘濃さん!イエス、糸ちゃん!せめて下の名前で呼びなサーイ」

「なんで外国人風になってるんですか・・・・・・じゃあ糸さんって呼ばせていただきます」

「OK!で、競技だっけー?アタシは、青春をかけるバレーだよ」


 そう言ってサーブをする真似をした糸さん。

 糸さんも美琴さんと同じバレーをやるのか・・・・・・あれ?


「糸さんは行かなくて良かったんですか?」

「美琴とはクラスが違うから、まだ大丈夫」


 僕はそういった事情があったのかと、納得をした。


「後輩くんは美琴の応援するんだっけ?1試合目から?」

「はい、する予定ですね」

「じゃあ、アタシと一緒に行かない?私も試合までに時間あるし、敵情視察したいからねー」

「いいですよ、行きましょうか」


 僕は糸さんの誘いを受けた。

 断る理由はないし、応援はみんなでした方がいいんじゃないかって思う。1人よりも複数人での方が盛り上がる。

 選手が活躍したら喜び歓声を送り、沈んだら声で勇気を与える。選手と一体となる事で試合は楽しくなる。

 同じ選手を応援している人が増えれば声は届きやすいし、より力になるんだ。


 なんて、考えてみた。僕なりに、応援とはそんなものだと思っている。

 応援初心者な僕が言うのは何だが、楽しくあればいいんだ。


「お、いい返事だねー、よし、大きな声で応援しちゃおうか!」

「そうですね、ビビらせてやりましょう」

「いいねー、ドライに見えて後輩くんは結構ノリがいいねー」

「そうですかね?」

「そうそう、いい感じだよー」


 いい感じと言われたのは初めてだ。僕は別段ノリがいいとか、ノリが悪いとかは言われた事がなかった。

 だから、こうやって褒められたのも初めて。もしかしたら美琴さんとのやり取りで、鍛えられたのかもしれないと思い、くすりと笑ってしまう。


「アタシたちも行こっか」

「はい」


 くすりと笑ったのは気が付かれなかったので良かった。気が付かれていたら糸さんはいじってきそうだから。


 僕たちはその場を後にして、バレーの会場である体育館へと向かった。





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