第12話 休日
僕は手元にある本を見る。すると自然と顔が緩んできてしまう。
だらしのない顔だとは思うのだが、嬉しいものは嬉しい。
それに、今は家にて1人だ。楽しんで何が悪いというのだ!
「誰に向けて言ってるんだよ、僕は・・・・・・」
嬉しさから少々取り乱してしまったみたいだが、ふと冷静になる。
椅子に深く持たれかかり、一息つく。
「今日、何しようか・・・」
貰った本の事を考えるのを止めて、何をするのかを考える。
今日は休日だ。学生にとって週に2度ある休息の時。
普段は遊べない午前中にも出掛けることが出来て、多くの時間を過ごせる。
家で自堕落に過ごしてもいいし、友人と遊び倒してもいい。自分の時間に使ってもいい。
休日とは素晴らしいものだと言える。
しかし、僕みたいに友人が少なかったり、何かやりたい事がない人間からすると、時間だけが出来た感じ。
いつもみたいに小説を読んで過ごしてもいいのだが、家にある本は読んでしまった。
うむ、どうしようか?
「出掛けようかなー」
結局こういう時は出かけるに限る。
適当に外をぶらついて、いい時間になったら帰る。目的が無くとも店にあるものを見たり、カフェかなんかで過ごしてもいいと思う。
出かける事で疲れるかもしれないが、そんなものは別にいい。適当に過ごせるのがいいんだよ。
そうと決まれば、準備をする。
1人で出かけるので、そこまでめかしこまず、変な格好では無い格好。カバンを持って、財布の中身を見て、準備を完了させる。
「よし」
出かける時はなんだか気合いが入る。
行きたい場所も特に決めずに、意気揚々と家から出た。
明るい日差しと、外の匂いとか雰囲気とかを感じる。
とりあえず歩き出す。あてのない散歩だから普段通らない道なんかを通りながら歩いていく。
「ほー、こんな風になってるんだなー」
何年も過ごしてきた街の中だが、案外知らない道は多い。それは、普段過ごすのに同じ道を使っているからだろう。
だけど適当な横道に入って、知らない道を通り、知っている道に出ると結構面白い。
僕はこの散歩の仕方が好きだ。冒険だ、冒険。
「本屋でも行こうか」
思いつきでルートを変えたりできるのも、適当に過ごす休日の良さだろう。
「なんだ、結構楽しんでる」
初めは乗り気でなく思いつきで決まった。だけど、それが良かったのだと思う。
ギチギチに予定を詰め込んで、時間通りに問題なくやりたい事をこなす、それもまた面白いかもしれないが、今日みたいな日も楽しいんだ。
前者は計画する時と達成した時が1番楽しいと思うが、後者になると自由な時間が楽しいみたいな感じになる。目的がないからこそ、目的の達成感とか欲しいものとかは無いのかもしれないが、『いい感じ』みたいな思い出が残るだろう。
「お、着いた」
何だかんだで目的地である本屋へと辿り着く。特にこれといって買いたいものは無いが、本屋を見るのはいつだって楽しい。
面白そうな表紙があったり、タイトルの本が大量にあり、あらすじに目を通したりして、本の内容を考えたりするのが楽しいのだ。
僕はここで立ち読みなんてしたりしない。
立ち読みも本屋での楽しみ方のひとつでもあるのかもしれない。立ち読みをすると本の内容が分かり、無駄なお金を使わずに済むなんて考えもあるのだろう。
しかし僕はこう思う。立ち読みをしてしまったらその本を買った時に面白さが無くなってしまう、と。
タイトルや表紙、あらすじだけで本を買ってもいいじゃないか。内容がつまらなくたっていいじゃないかと思う。
「あ、この本はハズレだ」とか、「この作品は面白いな、続きは?」なんてこんな感じに楽しめる。
元々本屋は行かなかったけれど、行くようになってからはなんだかとても楽しくなっている。
僕は本屋で気に入った本を1冊だけ買って、店を出る。他にも面白そうな本はあったのだが、まぁ高校生の財布事情としてはそんなに多くは買えないから仕方がない。
「次は・・・どうしようか?」
正直本屋で満足をしたから、もう帰ってもいいと思う。新しい本も買えたし、これを読むのもいいだろう。
「迷うなー」
だけど、この天気の良さと夜までまだ時間のあるこの感じ。ここで帰るのはもったいないと言っているような気がする。
別にやる事なんて無いのだが、まだ外に居たいという気持ちがある。
「ちょっと遠回りして、ゆっくり歩いてから帰るか」
考え結果、これが1番だと思った。特に行く場所なんてなくて、でもまだ帰りたくない、なら「まっ、適当に歩くか!」となるわけだ。
今日外に出た時と、同じような考えだ。
僕は雰囲気に身を任せて、こっちだ!って思った方向へと歩き出す。
辺りを見渡しながら歩いていく。コンビニ発見とかすごい大きい家を見つけたり、知らない場所ってやっぱり面白い。
しばらく歩いていると、いい雰囲気の喫茶店を発見する。
「お、いいね」
僕は喫茶店好きという訳ではないが、探検の休憩がてらに、たまにカフェとか喫茶店に寄ったりしている。ゆっくり落ち着けて休める場所ってのはいいものだ。
僕はしばらく歩いていたので、少し疲れている。なのだ、それを癒すための小休憩でも挟もうかと思い、中に入った。
カランコロンと入口のベルが鳴り、席に着く。フワッとした椅子の感覚に一息つく。
店内は静かなBGMが流れ、飲み物のいい香りが漂っている。お客さんはチラホラと席に座っていて、それぞれが今を楽しんでいるようだ。
いい雰囲気の場所・・・・・・
「あれ!空くん?空くんだよね!やっほー!」
・・・・・・だと、僕は思う。この静かな雰囲気が、いいと思うんだ。飲み物を飲んで落ち着ける空間というのは必要だと改めて思う。
「あれ?空くん、私が見えてる?ハッ!まさか幽霊?なんて事だ!私の隠されし力が空くんの
「なんで美琴さんに特別な力がある感じになっているんですか。僕はここにいますよ」
「なんだよ!居るじゃないか!なんで返事をしてくれないんだよ〜!」
驚きすぎて固まってしまったのもあるが、出来る限り触れないようにしていた。
しかしあの大きな元気のいい声を無視することも出来ず、返事をしてしまった。
僕に彼女をスルー出来るスキルはまだ持ち合わせていなかったのだ。なんだか、悔しいな。
「まぁ、ちょっと・・・・・・」
僕は美琴さんから目を離す。
「なんだよぉ!それは!?」
「そんな事より、美琴さんはどうしてここに?」
僕は改めて美琴さんを見る。彼女は黒いエプロンをしており、店員さんの格好をしていた。
「ああ、それね!それはねぇ〜〜!ここ、私の家なんだよ。実家!この喫茶店は私の店なのだ!」
「え、そうなんですか!」
ふふんとドヤ顔で胸を張る美琴さん。その顔は・・・まぁ、ウザかったが。しかし、ここが美琴さんの家族がやっている店だとは思わなくて素直に驚いた。
「まぁね!今は手伝ってるって感じだよ」
「へぇー、そうなんですね。頑張ってください」
軽く応援だけをして、美琴さんから目を外す。
休日にまで会うとは思わなかったが、今ここでお手伝いで働いているというのなら変に絡んでは来ないだろう。
少しだけ落ち着かないが、休憩くらいは出来るだろうと踏んでいる。
だから僕は、席にあるメニュー表を開き、どれを頼むかを考える。
「えっとねー、私のオススメはね〜このコーヒーとショートケーキがいい感じなんだよね〜」
美琴さんは僕の開いたメニューを指さしてオススメを示してきた。僕の正面の席に腰を下ろして。
「・・・美琴さん」
「ん?何?もしかしてコーヒー飲めない?じゃあークリームソーダいっとく?」
「いやいや、いっとく?じゃなくて、どうして僕の正面に座っているんですか?」
「空いてたから」
「空いてたからって・・・お手伝いはいいんですか?」
「大丈夫!ちょっと待ってて!」
美琴さんはおもむろに立つと、カウンターの方に走っていき、マスターらしき人に話しかけている。
あの人が美琴さんのお父さんなのかな?
美琴さんはすぐに戻ってきて、そのまま席に座る。
「よし!許可もらった!」
「緩いですね・・・」
「まぁね、ウチはこんなもんだよ!」
再びドヤっとする美琴さん。何をしても無駄そうなので、僕は諦めることにする。
「で、美琴さんのオススメはこれなんでしたっけ?」
「え、あ、うん。そうだよ。うちのお父さんのコーヒーは最高なんだよ!」
「じゃあ、それにしますかね。あと、ショートケーキも食べようかな・・・」
この店の娘である美琴さんが言ったので、間違いは無いだろうと思い、オススメを僕は頼むことにする。
ふと、美琴さんの方を見てみると彼女はなんだかぽかんとしている。さっきまでの元気が嘘のようだ。
「・・・あの、私って邪魔じゃない?」
おずおずといった感じに、なんだか気まずそうに彼女はこちらに聞いてきた。
「えっと・・・邪魔ですか?」
「そう!急に空くんの向かいの席に座ったし、無理やりね、一緒の席にいるからさ・・・その、迷惑じゃなかったかなーと・・・」
「え!美琴さんがそんな事を気にしていたんですか!」
僕は驚いて少し大きめの声を出してしまう。
初日からグイグイ来るし、自分のやりたい事に全力の人だから、美琴さんには失礼な話だが、てっきりそんな事を気にしない人かと思っていた。
「なんだよぉ、それ・・・。私だって気にするからね?」
「ふふっ、ふふふっ・・・」
「空くん?」
「アハハハハハハッ」
僕は我慢できずに大きな声で笑ってしまう。なんだか美琴さんのしおらしい感じがツボに入ってしまったのだ。
「今更ですよ。僕は美琴さんといて楽しいので。時々
「空くん!」
「あ、それに、1人になりたかったらハッキリとそう言いますので、大丈夫です」
「うん、そうだよね!空くんはハッキリ言ってくれるよね!」
美琴さんが持ち前の明るさを取り戻す。
良かった、元気になったようで。
美琴さんの様子を見ているとこちらまで元気になってくる。
「よーし!空くん!私と一緒にこの店を楽しもう!」
「分かりました」
暇だからといって外に出かけて良かったと思った。こんな感じで僕の休日はとても楽しめたんだ。
また、この店に来ようと思った。美味しいコーヒーと甘いショートケーキの味を僕は気に入ったからね。
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