第7話 図書館

 今の時代、ネットでも多くの小説が読めてしまう事に驚きを隠せない。


 誰でも小説を書くことが出来て、誰でも読む事が出来る。小説投稿サイトも数多くあり、多くの作品がネットの中に存在している。

 時代が進化しているんだなと思いながらも、携帯で色んな小説を読んでいく。


 何故、このサイトを知ることになったかというと、美琴さんに教えて貰ったのだ。


 今は5月の始まり、ゴールデンウィークの真っ只中だ。

 僕は別に家族と出かける用事なんて無いし、友人と遊びに行く予定も無かった。だから、時間がある。


 別に困ることとか、寂しいとかは別にないからいいのだ。予定が合わなかっただけの話だから。

 しかし、一つだけ許せない事がある。美琴さんにゴールデンウィークの予定を聞かれた時に、「何も無いですね」と答えたら、「えっ、空くん予定ないの・・・えっと、その、ごめんね」って、言われたのだ。

 ウキウキで予定を聞いて来たのに、真面目に謝ってきた事がみじめさというか悲壮感ひそうかんというか、そんなものをいっそう際立たせている。

 せめて謝らないで欲しかった。


 そこから「じゃあどう乗り切るか決めよう!」って美琴さんが張り切って話をした。

 そこで小説投稿サイトの事を教えて貰ったのだ。


 僕の一日の過ごし方は、ほとんど小説を読んでいたりする。

 たまに本屋に出かけたり、適当に散歩をしたりもしているかな。

 しかしほとんどが図書館に行き、閉館時間まで過ごしている。それが楽なのだ。時間を忘れ、本に没頭できるのがとてもいい。


 今現在も、僕は図書館にいる。

 図書館の中に入り、携帯を使って小説を読んでいる。

 わざわざ図書館で読むものか?と言われればそうなのだが・・・

 息抜きのつもりで読み始めたら止まらなくなってしまったのだから仕方がない。


 図書館で本を読む間の息抜きに、携帯で小説を読むのだ。

 変わっているかもしれないが、それだけ小説が好きになったという事だ。


 僕は今まで、図書館という場所にはあまり馴染みが無かったのだが、この数日間で常連になってしまった。

 多くの本があるのもいいが、静かに本を読む事が出来るのがポイント高い。

 読んでいる途中に足音が聞こえてきたり、大きな声で邪魔される事は無いのだ。


 ドタッ、ドタッ、ダッダッダッ!


 図書館は公共施設だ。当然子どもが来ていたりもする。

 本がそこまで好きではないのに親に連れてこられる子どもだっている。だから、暴れてしまったり、うるさくしてしまう子もいるのだ。

 そういう時は、図書館の職員や、親が注意をして諌めてくれる。だから、少し経てば静かな空間に戻っている。


「ここで走るのは辞めてください」

「あ、すみません。つい・・・」

「静かに利用してくださいね」

「はい、気をつけます・・・」


 ・・・・・・気のせいかもしれないが、とても聞き覚えのある声がする。いや、きっと声が似ているだけだ。

 だけど嫌な予感がする。

 なので、携帯を仕舞い持ってきていた本を抱え、その場からさっさと去ろうとする。


 ああしかし、少し遅かった。いや、そもそもあの足音が聞こえてきた時点で終わっていたのかもしれない。


「やぁ!空くん、元気かい?」


 この人はいつもみたいに声は張らずに、小声で、しかし元気に話しかけてきた。


「・・・なんでここに美琴さんが居るんですか?」


 今はゴールデンウィーク真っ只中。美琴さんは予定があると元気に言っていた。

 なのになぜ!図書館で遭遇してしまうのだろうか?


「暇だったから図書館に来たんだよ!」

「・・・予定あったんじゃないんですか?」

「無くなっちゃんだよ。友だちと遊ぶ予定だったんだけど、熱が出しちゃったみたいでね」

「そうだったんですね」

「そそ!だから、時間が出来たから図書館に来たんだよ!」

「ちょっと、美琴さん声大きいですよ」


 話しているうちにいつもの調子に戻ってしまったみたいだ。

 だけどここは図書館で、静かに利用しなければならない場所だ。

 注意され、出禁になってしまったらたまったものではない。


「美琴さん、外、外出ましょう。外で話しましょう」

「そ、そうだね!そうしようか」


 僕らは素早くその場から離れ、近くにあるカフェスペースへと移動した。


「ふー、危ないところだったねー」

「いや、美琴さんのせいですからね。大きい声出しちゃダメって注意受けたばかりじゃないですか」

「ごめんごめん、ちょっと空くんに会えたのが嬉しかったからさ」


 この人はノリと勢いで行動する人で、思ったことを口にするタイプだ。

 だからこそ『嬉しい』ってのは事実なのだろうと分かる。

 こう言われてしまうとこちらも少しだけ嬉しくなってしまうし、怒りの気持ちなんて無くなってしまう。


「おお!空くん、空くん、これ美味しそうじゃない?フルーツタルト!」


 僕がそんな事を考えていると、メニューを見ていた美琴さんが興奮したように声を出す。


「・・・フルーツタルト?」

「ほら、これ!」


 美琴さんはこちらにメニューを見せてきた。そこにはケーキの写真やパフェの写真が乗っていてとても美味しそうだった。

 中でも美琴さんが言ったフルーツタルトには目を惹かれてしまう。

 時間帯も3時頃で、おやつの時間にはちょうどいい。


「いいですね、フルーツタ--」

「いや、待って!これ、ナポリタン!これもいい!」


 僕の言葉に被さるように美琴さんは声を上げた。

 美琴さんはメニューの別の場所に乗っていたナポリタンを指さしていた。


「ナポリタンですか?フルーツタルトはどうしたんですか?」

「どっちも美味しそうだよね!」

「まぁ、そうですが」


 どちらも美味しそうなのは否定はしない。否定はしないのだが、飛びすぎでは?と思ってしまう。


 結局、彼女はノリと勢いで生きているのだ。

 だから、甘いものを見ていたのに、今度はナポリタンを見ている、なんて事もあるのだ。


「空くんは何頼む?フルーツタルト?ナポリタン?ピザトースト?あ、カレーもいいね!」


 何故か選択肢の半分以上が、軽食にはなり得ないような食事だ。

 色んなものに目移りしすぎだと思う。


「僕はフルーツタルトでいいですよ。あと、コーヒーで」

「ヒュー!フルーツタルトかー!じゃあ私はね、ショートケーキにしよう!飲み物はメロンソーダだ!」


 ・・・・・・まさかの選択肢に無いものを頼むとは思わなかった。

 ナポリタンやカレーはどこにいったんだよ。


 いちいち気にしていても仕方が無いので、僕らは注文を済ませ、頼んだ物が来るのを待つ。


「空くんは図書館で何読んでたの?」

「色々ですよ。色々」

「おっ、なんだぁー?先輩に言えないやつかー?」


 美琴さんはニヤニヤとしながらこちらを見てくる。その様子はとてもウザかった。


「変なものは読んでませんよ。てか、美琴さん僕の読んでた本返すの手伝ってくれたので、知ってますよね?」

「まぁね!タイトル全部覚えてないけど、何かミステリー小説だったね!『探偵』って書いてあった」

「そんな感じですよ」

「おお、そんな感じかー」


 今回図書館で読んでいたのはミステリー小説。

 伏線の回収や、難解な事件の解決が面白く僕はミステリー小説が好きになっていたりする。


「あ、そういえば美琴さんに、教えて貰った小説投稿サイト見ましたよ。面白いですね、アレ」

「見た?見た?いいよね、私もよく漁ってるんだ」

「何かオススメの作品ありますか?」

「うーん、じゃあねコレなんかはどうかな?」


 僕らは注文した物が来るまでの間、オススメの作品について話をしたり、僕が読んだ作品について話をしたりした。

 読んだ作品の感想を言い合えるのはなかなかに楽しかった。自分と同じ意見があったり、全く別の場所に注目をしたりしていたり、共有や共感、考察が面白いと感じた。


 1人で読み、1人で考える読書も悪くは無いのだが、誰かと共有するのもいいものだ。

 僕は文芸部に入って良かったのかもしれないと思った。


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