第4話 部活動
教室、昼休憩にて僕らはお弁当を広げている。
「いやー、楽しみだな!本格的な部活」
「・・・楽しそうだね」
「まぁな!野球が楽しくて仕方ないんだよ!」
見学の時と同じようなテンションで、彼は盛り上がっている。まぁ、部活動を求めている彼にとってはそうだろう。
部活動見学を終え、今日遂に本入部となるのだ。
まぁ僕は、憂鬱とまではいかないが疲れそうだとは思っている。
「そういえば、空って何部にしたんだ?今まで教えてくれなかったろ」
「あー、それは・・・」
僕は素直に教えるべきか否かを考えていた。
今まで聞かれたとしても、何とか誤魔化し答えなかった。理由としては、あんな部活動だからだ。
あんなテンションの高い先輩と2人だけの部活ってヤバさしか感じないのだ。まぁ、なんというか恥というか、そんな感じ。
そう僕が頭を悩ませていると1人の人物が声をかけてくる。
「空くんは文芸部に入ったんだよね」
「うん、そうだよ・・・・・・えっ!」
瀬戸さんだ、彼女が声をかけてきた。しかも意外すぎる一言を添えて。
僕は誰にも伝えていないはずなのにバレていることに驚きを隠せていない。
なぜ彼女は知っている?
「おー、栞は知っていたのか!そうか、文芸部か!よく分からんが頑張れ!」
「ありがとう。えっと、それで瀬戸さんはどうしてこの事を?」
「お姉ちゃんから聞いたんだ。文芸部に新入部員が入るって。なんかそんな物好きもいるんだなって言ってたよ」
楽しそうに笑う瀬戸さん。対してこちらはそこまで笑えない。
物好きって、この学校での文芸部の扱いって予想以上に酷いのでは?まぁ、否定は出来ないのだが。
「名前教えて貰ったら、空くんなんだもん。へー、文芸部入ったんだって思ったよ」
「そ、そうなんだ」
瀬戸さんのお姉さんが何部かは知らないが、運動部な気がする。文芸部の線も無くは無いのだが確率なんて低すぎるでしょ。
もう、驚愕だよね。文芸部に所属して上級生に名前が知れ渡るなんて、恐ろしすぎる。
「文芸部って何するんだ?」
海成のパスが来る。君は呑気でいいなぁ!
「あー、基本は本を読んでるだけかな。まぁ一応書いたりもするみたい」
「そうなのか?俺は野球の本なら読むけど、他は読まないから、凄いな!」
彼はとても良い奴だ。とにかく褒めてくれる。
その内容は凄くは無いけれど、褒められて悪い気はしない。そのおかげで、少し落ち着く事が出来た。
とにかく気にしない事にしよう。顔を知らない上級生に名前を覚えられたとしても、顔なんて知られていない。
別に困る事なんて無いじゃないか!そうだよ、そう考えよう!
◆◇◆◇
授業を全て終え、荷物を持ち部室へと向かう。今は放課後、部活動の時間が始まる。
とりあえず初日だし、一応美琴さんに来ると約束をしているので、顔を出す事にする。
文芸部と掲げられている教室に辿り着き、扉をゆっくりと開ける。
「やぁ!空くん、空くん!元気かい?」
僕が入るや否や美琴さんは勢いよく立ち上がり、すこぶる元気な様子で挨拶をしてくる。
「おはようございます、美琴さん。元気は・・・普通ですよ」
対してこちらはそこまで元気ではない。
長い授業を終え、疲れているところなのだ。疲労は少なからずあるだろう。
だから普通の挨拶を返す。
「いいね!いいね!部活やろう!部活!ほーら、始めますよ!」
美琴さんは部室にあるホワイトボードを引っ張ってきて、ペンを握った。
何が嬉しいのか超笑顔である。そして、元気さがもう1段階上がる。
しかし、目の前の人はなんでこんなにも元気なのか分からないレベルで元気だ。
僕は荷物を下ろして、席に座る。
「で、そのホワイトボードで何をやるんですか?それにここって本を読む部活じゃないんですか?」
「違うよ!私とお話する部活だよ!」
「えー・・・それ、文芸部じゃなくないですか?」
「文芸部です。まぁ、いいじゃん細かい事はさ。それで、ホワイトボードで何をやるかだっけ?」
華麗に流されたよ。華麗では無かったかもしれないけど、冗談という事にしておこう。
「えっと、何しようね?」
「決まってなかったんですか!」
「だってー、今までこのホワイトボードで遊ぶだけだったから、部活っぽいことしてみたいんだよ!」
全くこの人は。
ノリと勢いで生きているって言葉がこれだけ似合う人はいないだろう。
とてもウキウキでホワイトボードとペンを持って何も考えていないって、信じられないだろう。
後、部活っぽいことって何なのだろう?作戦会議とか・・・?
「あっ、そうだ!空くんの事を教えてよ!うん、今日の部活内容は新入部員の調査だね」
「・・・調査って」
「じゃあ1問目!ズバリ、好きな食べ物はなんですか?」
「あっ、始めるんですね」
止める間とか拒否する間もなく開始された。
美琴さんは意気揚々にホワイトボードに綺麗な字で『空くんの調査記録』とか書いてる。
それで、1問目は好きな食べ物か。それくらいならば答えてもいいか。
「ラムネですかね」
「ほうほう、ラムネ。それってお菓子の方?」
「お菓子の方です」
そう聞いた美琴さんは書き込んでいく。大きくラムネと。後はイラストも添えて。
「・・・あの、それ何ですか?」
僕は描かれたイラストを指さし、尋ねてみる。ラムネと書かれた横には歪な丸が小さく描かれていた。
いや、まぁ分かってはいるんだけど一応確認をしておく。
「・・・ラムネだよ」
「ラムネなんですね」
「なんだい!なんだい!いいじゃないか、絵が下手なくらい!次!次行くよ!」
持っているペンでボードを叩き、次へと促す。
少し怒らせてしまったようだが、美琴さんは絵が下手な事を知る事が出来た。
「次は・・・好きな飲み物は?」
「飲み物ですか?」
「そう、飲み物!麦茶とか緑茶とか!あとは杜仲茶とか!」
「なんで例えが全部お茶なんですか」
「お茶美味しいよね!」
「まぁ、それはそうですね」
お茶に意識を持ってかれたけど、好きな飲み物か。何かあるかなー?
基本家ではお茶とか水とかを飲む。ジュース等はあんまり飲まなくなったんだよなー。ほとんどお茶だ。
・・・・・・あれ?もしかして僕はお茶が好き?
「・・・お茶ですかね」
「おぉ、何茶?」
「麦茶で」
「なるほどね、麦茶っと」
キュッキュッという音と共にペンを動かしていく。麦茶と綺麗に書かれた横には微妙なイラストが再び描かれた。
「よし、次!次、次、次・・・・・・あっ、好きなラーメンの味は?」
「3つ目の質問がそれなんですか?」
「いいから、答えてくれたまえ!」
勢いだけで乗り越えようとしている。
というか、好きなラーメンの味ってなんとも微妙で狭い質問だ。一応だが、ちゃんと答えようか。
「えー、醤油ですかね」
「ほほう!醤油ラーメンが好きなんだね?いいね、今度一緒に行こうか!」
突然としてハイになる美琴さん。いや、元々ハイだったのだが。
これもボードに書いていくのだが気合いが違う。イラストも心做しか力強く感じる。下手なのだが。
「いやぁ、私はねラーメンが好きでね。よくラーメン屋に足を運んでいるんだよ!」
「そうなんですか」
そうだったらしい。だからこの気合いの入りようである。
「オススメの店に絶対に連れていくから、楽しみにしていてね!」
「分かりました、楽しみにしておきます」
ここは素直に頷いておく。
美琴さんの様子を見るに相当ラーメンが好きなのだろう。ラーメン通が紹介してくれるラーメンというのはなかなかに楽しみだ。
「いつ行く?今から?行こうか!」
「えっ、ちょっ、えっ?えっ?」
美琴さんは僕に聞いたにも関わらず、高速で結論を出していた。ペンを置き、ホワイトボードを元の位置まで戻し帰り支度をしている。
・・・もう、行く気しか無いじゃないか。
この人はこういう人だった。思い立ったが吉日を全力でやっている。まぁ、それが面白いとも思うんだ。
「ほら!空くん行くよー!行っちゃうよー!」
美琴さんは勢いよく扉を開け、教室の外に出る。楽しそうだなと思いながら僕も帰り支度をして、美琴さんについて行く。
「よーし、今日は空くんの入部記念だ!先輩が奢っちゃうぞ!」
「えっ、いいんですか?」
「いいの、いいの!」
「ありがとうございます」
「よーし!ダッシュで行こう!」
「えっ、ちょっ、待ってください!」
廊下を走っていく美琴さんを僕は追いかける。
こんな調子だが僕の文芸部員として部活動が始まった。
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