第3話 活動

 先輩に連れてこられ、辿り着いたのは小さな部室。

 上には『文芸部』と表札が掲げられていた。


「さー、さー、入って、入って!」


 さっきまで泣いていた人と思えない程に明るい彼女の後について教室へと入る。


 初めに目に入ったのは大きなホワイトボード。話し合いとか意見交換とかに使うのだろうか?


 真ん中には大きな机があり、机の上には本が積まれている。ノートやポットとかも机の上にあった。

 少しごちゃついている感じだった。


 そして周りには本棚が。中には端から端まで本が詰まっている。

 読んだことない本とか読んだことがある本も多くあった。


 内装はシンプルで「ここぞ文芸部!」って感じだった。


「どう?ここが私の部室だよ!」

「・・・先輩の何ですか?」

「だってほとんど私しか使ってないもん。私物化してるね」

「あー、それで。あの机の上の片付いてないの先輩の私物ですね?」

「うっ!いいじゃないか、読みかけなんだよ!」


 まぁ、それはいい。この先輩が自由にしているという事だろう。


「活動はどんな事をするんですか?」

「それは簡単だね。本を読んだり、書いたりするんだよ。まぁ、どっちをやるかは自由だよ」

「なるほど」


 ここら辺は概ね予想通りだ。

 文芸部のイメージはここら辺だから、そこまではキツくないだろうとは思っていた。

 書く事をやった事がないから、そこが難しそうといった具合かな。


「本を読んだら感想を書け!とか、小説を書いたら必ず見せろ!とかはないから安心してね!それに読むだけでもいいし、書くだけでもいい。そこも自由だね」


 普段の活動内容は本当にただそれだけ、といった感じだった。

 自分で選べるのならば、楽でいい。


「後は、文化祭とかで一応発表しなきゃいけないんだけど、まぁ、やりたい人だけって感じだし、部長が来て頑張ると思うから今は気にしなくていいよ」


 まぁ、当然として成果の発表はあるだろう。だが、驚いたことにこれも自由だとは思わなかった。

 後は部長さんが頑張るってことなのだが、それはどうなのだろうか?


 先輩の発言から気になる事があったので聞いてみる。


「あの、先輩の他に部員ってどんな方がいるんですか?」


 先輩の来ない来ない発言だ。

 部長も先輩の先輩だから3年生も、顧問ですら顔を出さないとか。

 よくよく考えてみるととんでもない部活だなここ・・・


「えっとね、まずは3年生の部長でしょ。あと、副部長。2年生に幽霊部員が2人人数合わせで兼部してもらってる。で、私と空くんを合わせて計6人かな」

「いや、しれっと僕を入れないでくださいよ。まだ見学ですよ」

「いやいや、入るね!君は入ってくれるよ!」


 力強い断言をされてしまった。

 まぁ、入ってはいいかなと思っているのでどっちでもいいが。

 しかし、部員は少ないみたいだ。しかも全然来ないと。

 かなり自由な部活のようで安心した。


「顧問の先生とかも来ないんでしたっけ?」

「そうだよ。紗羅ちゃんいつも忙しそうにしてるからあんまり顔出せないんだよね」

「紗羅ちゃん・・・・・・?」


 恐らく顧問の名前なのだが、聞き覚えが無く首を傾げる。

 まだ入学してからそこまで時間も経っていないので、教師が誰か分からないのだが。


「そっ、紗羅ちゃん。国語教師で去年からこの高校の教師になったんだ。可愛くてね、元気で皆から人気なんだよ」

「へー、そうなんですか」


 人気のある国語教師ということだけが分かった。

 他の情報は分からなかった。苗字も分からない。


「今日は部活動の見学があるから絶対に行くって張り切ってたんだよ」

「会えますかね?」

「おっ、空くんも気になるんだね。みんなに人気の若い教師が!このこの〜」


 先輩が僕の脇腹をつついてくる。

 やべぇ、超ウザイ。

 このままだとずっといじってきそうなので早めに否定をしておく事にする。


「違いますよ。顧問がどんな方か知っておきたいんですよ」

「とか言ってぇ〜」

「お疲れ様でした。入部は諦めることに--」


 続けざまにいじってくるので、面倒になって教室から出ようとした。


「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!行かないで、行かないでよ!私が悪かったから!入部を諦めないで!」

「痛い痛い痛い!分かりました、分かりましたから、離してください!」

「ホントだね!」


 掴んでいる僕の腕を離し、ぱぁっと明るい顔を見せる先輩。

 本気で僕を逃がすつもりが無いみたいだ。

 分かってはいたが厄介だ。とても厄介だ。


「とりあえず、ウザイ絡みはしないでください。本気で辞めたくなるんで」


 だから強めに、マジトーンと言うやつで言ってみる。

 ・・・これで治るのだろうか?


「うぅ・・・!分かったよ、気をつける。ちょっと後輩が出来そうで舞い上がっちゃって」


 しゅんとした様子でへこむ先輩を見る。

 この人は感情が表に出やすい人のようだ。


「まぁ、いいですよ。僕も冗談が過ぎましたんで。まぁ、文芸部には所属しますよ」

「えっ、いいの?」

「はい」


 先輩は勢いよく顔を上げて、僕と目が合う。


 決めては何だったのかと聞かれると特にない。他の部活動の見学をしていないし、他の部活がどんな事をやるのかなんて知らない。

 ただ、新たに見学するのが面倒だった。それに、この人以上に変な人と出くわすかもしれないのだ。


 後は、部活の状況かな。内容だって楽だし、発表も強制ではない。幽霊部員が多くいるのでサボったところで何も言われなさそうだ。

 まぁ、でも少しくらいは部活動を楽しんでみようかなという気持ちがある。


 気楽にいこう、気楽にね。


 深く考えて悩んだとしても良い結果が得られるとは限らない。ならば、1番はじめに出会ったこの部活に決めようじゃないか。

『運命』なんて言葉があるように、これは何かの『縁』だ。

 先輩がぶつかってきて、文芸部の部室を潜った。


 元気で、テンションが高くて、感情が爆発しているような人と出会えたのだ。

 この出会いに感謝をしておこう。


 先輩が姿勢をただし、僕と正対する。


「じゃあ、改めてだね。ようこそ、文芸部へ!」


 そう言って先輩は右手を差し出す。だから、僕もそれに答え握る。


「こちらこそ、よろしくお願いします。美琴さん・・・・


 美琴さんは少し驚き、満面の笑顔を見せた。僕はその顔に少しだけドキッとしてしまったのは秘密である。



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