本懐を遂げた者の本当の幸せ……

 場面は死刑囚と教誨師きょうかいしの最後の会話の一コマに移る。


「復讐を遂げて気分はどうでした?」


「これでやっと美咲と真雪の元へ行けると思いました。でも、行けるかどうかわからないですよね? 2人は天国、私は地獄へ行くかもですから……。それでもいつか別の世でまた2人と会えると確信はしてるんですよ」


「そうですか。思い残すことはもうないんですね」


「ええ」


 そう言って晴れやかな笑顔で教誨師に語る崇人。教誨師はただ穏やかに涙を流していた。



 ここで崇人が救急隊員に自白してからの動きを説明しよう。


 崇人はその後、指宿警察署によって現行犯逮捕され、東京での裁判を要求したことで東京地検へ移送された。


「こちらとしては一切刑の減軽を求めません。私が死刑になるようにしてください。もう生きる理由はありませんから。それと法務大臣へは刑の確定後すぐに執行するよう求めます」

 こういって国選弁護人へ言い放った崇人。


 かくして崇人の裁判は進められ、崇人へは極刑を言い渡された。広重たちを殺害してから3ヶ月後の嵐の日であった。


 これに対し、崇人は控訴を申し立てず、死刑が確定した。


 そして、それから9ヶ月後……。奇しくも美咲や真雪たちが亡くなってから11年の命日の日。


 この日の朝は雲ひとつない青空であった。そう。あの日と同じ様に……。


「死刑囚鶴田崇人。これより刑の執行を行う」


「すみません。執行室に入ってから一曲歌うので、それから刑を執行してもらえますか?」


「それで構わない」


「ありがとうございます」


 刑の執行を拘置所所長より伝えられた崇人。一言所長に歌を歌う許しを得て笑顔になった崇人は目隠しと手錠がかけられ、カーテンが開いて執行室へと通された。


 ガラス板で前室と仕切られた執行室。室内中央に印付けされた踏板に立たされて、首にロープがかけられた崇人。


 そして……。


「しゃーぼんだーまとーんだ……。やーねーまーでーとーんだ……。やーねーまーでとーんで……。こーわーれーてーきーえーた……。かーぜかーぜふーくーな……。しゃーぼんだーまーとーばそ……」

 崇人は消え入るような声で噛みしめるように歌う。


「執行せよ!」

 拘置所長の一声で死刑執行のボタンが押された。

 

「パパー!」

「たっくーん!」

「真雪! 美咲!」

 崇人が死に際に見たのは夢であろうか? 幻であろうか? それとも……。

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シャボン玉とんだ…… 山村久幸 @sunmoonlav

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