第87話 は~どふい~と

「何をする気で真打とか言い出したんですか?」

 小太郎が秋季に尋ねた。

「うむ、最近なんか? 卒業したせいなのだろうか、自身の立ち位置について悩んでいてな、まぁノリでノープランのまま宣言した次第だ、ハッハツハッ‼」

「若手の芸人みたいですね…ソコで売れる人と売れない人が解る気もします」

「私の場合は、どっちだと思う? 小太郎会長」

「そうですね…カメラに映ったのに、グラビアアイドルに見せ場さらわれた感じでしょうか?」

「ハッハッハッ…売れないってことかな?」

「はい…チャンスをチャンスを逃した感じというか…」

「あらっ、見せ場が欲しいのでしたら?」

 春奈が秋季の手をグイッと引っ張る。

「う…ん…?」

 フラッとよろけた秋季、扇子を構えたままのポーズで沼に落ちていく。

 ドブンッ‼

 首まで沼に浸かった秋季、仰向けになった夏男と目が合う。

「ハッハッハッ、真打が加勢に来たぞ夏男よ‼」

「……その様でか?」

「スマンとしか今は言葉が浮かんでこない、沼だけに浮かばないみたいな感じか? ハッハッハッ‼」

「笑ってる場合じゃねぇんだよ‼」


 沈みゆく2人の人類ヒト科を囲む河童達、そのうちの一匹が口を…いや、くちばしを開いた。

「オメェ達…何しに来たんか?」

「ハッハッハッ、夏男よ、この河童喋ってるぞ」

 首だけ沼から出ている秋季が高笑いしながら夏男に話しかける。

「オマエ、この状態で、よく笑ってられるな‼ 緑色の生臭い連中に囲まれて、俺はもう恐怖しか感じねぇんだよ‼」

「オメェ、聞いてりゃ生臭いとか? 立場と状況理解できてっか?」

 夏男は生臭い河童に包囲されている。

 頼みの綱は、アッチで無双している冬華だけ、それも助ける気などミジンコ程にも感じられない、ただただ駆逐しているだけなので、コッチに来ないというか気にしてないというか…。

「アッチのチッコイのも仲間なんだろ? とりあえず俺達、争う気なんぞねぇんだから大人しくしてくれるように頼んでもらえるか?」

「ハッハッハッ…喜んで‼ 冬華く~ん‼ とりあえず落ち着いて、話し合いで…ねっ‼ 頼む‼ 青海‼ 向井‼ なんとか止めてくれ‼」


「チッコイ先輩‼」

「なんです‼ 冬華は忙しいのです‼」

「なんか…話し合いとか?扇子の人が必死なんだけど?」

 青海が冬華に尋ねる。

「話し合い…無理な相談です‼」

「なぜ?」

 冬華と青海のやり取りを無視してジーッと沼を見ていた向井君が、ふいに口を開く。

「僕、気づいたんですけど」

「なんです?」

「なぜ、僕らのところだけ沈まないんでしょう?」

「あん? 何言ってんだ?」

「いや…皆、沈んでいくのに…ここら辺だけ足場がしっかりしているのはなぜなんでしょう?」

 気づけば沼の中心部あたりまで進撃していた冬華達。

「……硬いな…」

 青海が足で踏み抜くとガンッと金属音が沼に響いた。

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