第86話 ゆ~あ~・ゆ~ずれす
「真打登場‼」
沈みゆく、というか傾いてきたバスの後部でスクッと立ち上がる眉目秀麗な前生徒会長『一ノ瀬 秋季』扇子を高々と掲げ轟き叫ぶ。
「まぁ、頼もしいですわ、私が逃げる間、時間稼ぎの方をよろしくいたしますわ」
すでに逃走準備に入っている春奈も安心な、いつもと変わらぬ見た目だけの頼もしさ。
秋季という男、ビジュアル方面にパラメーター全振りされた結果、ティッシュに金メッキを施したような綺麗だけどペラい人間として存在しているのである。
「つまり、アテにできないということですわ…」
誰にともなく春奈が呟く。
一方で、泥沼に落ちた夏男は生命の危機を感じていた。
(俺は、泥沼で溺れて死ぬのか? 河童に喰われて死ぬのか?)
「死に様に選択肢があるって贅沢なことかもしれませんわ」
誰にともなく春奈が呟く。
泥沼とは困ったもので足掻いたところで身体が浮くわけでもなく自重で、ゆっくり沈むだけという恐ろしいトラップなのである。
(こんな場所へ誘い込むとは案外、知能は高いのか? 河童って…)
誘い込まれたわけでもなく勝手にバスで突っ込んだだけなのだが。
そんな沈みゆく夏男に差し伸べられた水かきのある緑の手、溺れる者はなんとやら夏男はしっかりとその手を握ったのである。
「ブハッ…」
引っ張り上げられ泥を吐き出す夏男
顔の泥を手で拭うと
「クサッ‼ 生臭っ‼」
思わず顔を背ける夏男。
「オメェ…助けてもらってそりゃ失礼でねぇのかい?」
目の前の河童が夏男に話しかけてきた。
「……うそぉ~ん…しゃべれるん? 想像以上に見た目は河童なのに会話できるん?」
「覚えたんよ、この星に来てから、あの神社でな」
「うそぉ~ん…習ったん? 人類から? 寺子屋か‼ 」
下の様子に聞き耳をたてていた立花 桔梗。
「小太郎君…先生の聞き違いで無ければ、河童、安全かもしれないわよ」
「安全って…じゃあアレはどうなるんです?」
小太郎が向こうで孤軍奮闘というか、無双している冬華を指さす。
「どんどん来いです‼」
向こうでは向井くんと青海を足場に河童を仕留める冬華の姿が…。
「小太郎君、先生思うに、アレはファーストコンタクトにしくじったんじゃないかしら」
小太郎が下を覗き込むと、夏男が河童と何やら話している。
「楽しそうには見えませんけど?」
「そうね、楽しそうではないわね、でもね先生が言いたいのはソコじゃないの、河童って話せるんだってことなのよ」
「まぁ、河童さんはお話が出来ますの?」
春奈も下を覗き込む。
「まぁ…楽しそうで無いのは仕方ありませんわ、あの男を前にして不快感を抱かない生き物はいませんもの」
「じゃあ別の誰かが行けばいいんでは?」
小太郎がクルッと振り返り出番を待っている秋季をマジマジと見つめる。
「ん? ココで? ハッハッハッ、私は泥沼に飛び込む気はないぞ」
名乗りを上げたことを後悔している秋季であった。
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