第85話 ていく・おふ・ひ~ろ~

 3人体制の騎馬が暫定底なし沼に単機で攻め込む。

 アウェーなうえに多勢に無勢、地の利もなく、当然勝ち目はない戦いである。

「川でピラニアの群れに突っ込むような感じですかね?」

 その様子をバスの上から見ていた小太郎がボソリと誰にともなく尋ねる。

 もはや、ゆっくりと沈み込バスの車内は河童の侵入を待つばかりと、窓から車外に避難した小太郎達。

 縦に突き刺さったバスの後部で、か細い援軍の失策を見ていることしかできないのである。

「ハッハッハ、随分とまぁ、思い切った作戦に踏み切ったものだな~」

「まぁ本当ですわ、まさか沼の中で戦うとは思いませんでしたわ」

「いや…意表を突くという意味では…あるいは? 河童もビックリだと思うぜ」

「…ビックリしただけじゃぁねぇ~先生なら1瞬で立て直せる自信があるわ」

 一同のテンション駄々滑りである。

「こう考えてはどうだろう?」

 夏男がいつになく真剣な顔で話し始めた。

「…まさかして…さらなる援軍がいるとか? いないとか?」

「一瞬、期待した自分がバカでした」

 小太郎が大きく肩を落とした。

「これがバカの考え休むにってヤツだな夏男よハッハッハッ」

「まぁ、口を動かす暇があったら、犠牲になって河童に喰われていただきたいですわ…その間に逃げますから私だけでも」

「先生も、後少しだけ酒が抜けたら逃げるわ…誰を犠牲にしてもね、迷いはないわ 今…ちょっと気持ち悪いから」

 立花桔梗、酒に酔って、バスにも酔った。

 そして沈みゆくバスの不安定さと未知なる生物『河童』の登場で、もう許容量を大幅に超えてきたようである。

「俺の存在は…いったい?神様、何故、俺に仕打ちを与え続けるのか?」

 春奈の言葉で夏男のガラスのハートにヒビが入り、狭い足場で夏男が涙を溜めて天を仰ぐ。

「ちょっと邪魔よ…二階堂くん…先生…吐きそう…ウッ…」

 立花桔梗、酒を胃から強制排除しはじめた。

 屈んだ拍子に夏男を尻で押し出す形になったのは不幸な事故としか言いようがない。

 ドンッ…

「あっ?」

 と言い終わると同時に夏男は泥沼へ落ちたのである。

 そう群がる河童共の中心へ…。


 ソレを見ていた冬華達。

「むっ、夏男も参戦です?」

「いや…ありゃ事故だぜ」

「自己犠牲‼ 僕は感度してます‼」

 すでに胸まで泥沼に浸かり両手は冬華を支えている向井くん、ビーム出ない以上は戦力外である。

 青海…me too‼である。


「夏男‼ コッチに合流するでーす‼」

 騎馬の上で目の前の河童と、もみ合う冬華が夏男に呼びかける。

「無理だってー‼ 360度、河童しか見えねぇー‼」

 泥沼で藻掻く夏男。

 バスの上で吐く立花桔梗。


「ハッハッハ、小太郎会長よ、ここはひとつ久しぶりに私が指揮を執ろうではないか‼」

 パンッと扇子を広げ高笑いする前生徒会長「一ノ瀬 秋季」ただいま発進‼

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