第79話 すてぃ~る・きゅ~かんば~
「夏男ー‼ うしろー‼」
どしゃ降りにかき消される秋季の声。
何事か叫んでいる秋季に気づいた夏男が聞き取ろうとバスに近づいてくる。
気づいた双眼鏡を覗く冬華
「むっ? アイツ、一丁前にバスに乗り込む気ですか?」
「まぁ、図々しい…生き物ですこと、身の丈を理解してないようですわ」
春奈が露骨に嫌な顔で答える。
「あつかましいにも程があるです‼」
相変わらずの酷い言われようである。
「小太郎‼ 外で殴り合ってる後輩ズを河童捕獲に向かわせるがよいです‼ NOWです‼」
冬華隊長の指示が飛ぶ。
判断は早い、特に他人を犠牲にする判断は異常に早い。
指揮官たるもの、こうありたいものである。
「冬華くん、あの緑の生き物…仮に河童と仮定してだが…」
「河童です‼ それ以外、何者でもないのです‼」
「うむ…そうか…ならば聞こう、夏男は襲われないのだろうか?」
秋季、同級生の心配は多少レベルでするようだ。
「ピンチこそチャンスです‼ 襲っている時こそチャンスです‼」
「その隙に、向井君と青海が、ってことで伝えればいいんだね」
小太郎、もはや事務的に事を進めようとしている。
「うむ…生贄というやつか…哀れな、夏男…河童の毒に耐えられるだろうか?」
呟いた秋季、不思議そうな顔で見還す冬華。
「なに? 河童は毒をもっているですか?」
「うむ、でなければ、あの皮膚の色…説明がつかん」
「確かにです‼ 万人納得の説得力です‼」
冬華と秋季が『河童実は毒ある説』勝手に確立していく。
「いや…2人とも、そもそもアレが河童か?という検証は無視なのね、先生、一応、教師として意見するけど、河童を捕獲してから検証すべきじゃないかしら?」
「まぁ、でも河童が毒を持っていたら…捕獲前に検証すべきじゃないかしら? 保険医として」
「ぐっ…」
立花先生と春奈の見解は食い違ってきたようだ。
残された小太郎、黙ってバスを降り、青海VS向井の現場に踏み込む。
「あのさ…2人とも」
どしゃ降りにかき消される小太郎の声。
技の青海、力の向井…小太郎のウィスパーボイスくらいで拮抗しているバランスを崩すに至らない。
大きくため息を吐いて、夏男の方に視線を移すと、
「えっ?」
先ほどまで天を仰いでいた夏男が泥水の中に倒れている。
「小太郎‼」
バスから飛び出してきた冬華。
「キュウリが奪われたです‼」
「キュウリ?」
「ハッハッハッ、夏男のヤツ、背後から後頭部にキツイ蹴りを喰らってなハッハッハッ、キュウリを奪われたの小太郎会長」
「まぁ、せっかく取ってきましたのに…残念なことですわ」
「残念は河童の捕獲に失敗したことです‼ 何をしてたのですか‼ あのバカ2人は‼」
どしゃ降りの中でも、よく響く冬華の声。
喧嘩を止めた青海と向井の前にテクテクと近づく冬華。
「グハッ‼」
「ホゴッ‼」
小さな身体から繰り出される回し蹴りで2人を瞬殺した冬華。
「河童の後を追うです‼」
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