第78話 びはいんど・ゆ~

「ムッ‼ 冬華、キュウリを確認したです‼」

 双眼鏡を覗く冬華が夏男がどしゃ降りの空にかざしたキュウリを確認した頃、別のアングルから夏男が山賊してきたキュウリを確認している者がいた。

(アレは…私に捧げられる供物ではないのか…)

(忌々しい輩だ…)

 御神木の影から夏男を睨みつける巨大な光る目、フンッと鼻を鳴らすと草むらに消えていった。

「アイツは何をしているですか? 早くキュウリを池に投げるです‼」

 どしゃ降りの中、天を仰いで泣く夏男の行動を理解できない冬華。

「あらっ、なんだか泣いているようですわ」

「いやいや、獲ったどー‼ 的なアピールじゃねぇの?」

「キュウリを獲る…って別に狩ったわけじゃないですからね」

「小太郎会長、夏男のヤツ、あるいは買ったのかもしれんぞ」

「袋に入ってないじゃない、先生、剥き出しの野菜とか抵抗ある派なんだけど」

「虫より農薬の方がマシってタイプですね、未来では『農薬たっぷりジュース』が人気でした、あっあとは、『カルキの方が多い水』とか」

「アレか…向井、オマエの筋肉はプロテインたっぷりの賜物か?」

 青海が向井を煽る。

「失礼な、青海くん、僕の筋肉は実戦向きに仕上げられた筋肉です」

「結局……仕上げてんじゃねぇか…見てくれだけってことじゃねぇの?」

「試してみますか?」

「上等じゃねぇか‼ 表に出ろや‼」

「未来のプロテインを甘く見てると後悔しますよ…フフフッ」

「やっぱ…プロテインなんだね…向井君」

 小太郎も納得な綺麗な筋肉。

「会長‼ プロテイン&日サロです‼」

「そう…なんでもいいけど、風邪ひかないようにね 外に行くなら傘いる?」

「いるわけねぇだろが‼」

 血気盛んな後輩と未来人をバスから追い出した小太郎。


 どしゃ降りの境内ではキュウリを握りしめ天を仰ぐ男と、バスの脇で殴り合いを始めんとするヤンキーとガチムチ…と?

「アレはなんですか? 小太郎」

 双眼鏡を覗く冬華が夏男の後を指さす。

「なんかいるの? ゾンビじゃない?神主ゾンビとか?」

「ハッハッハッ、小太郎会長、案外、巫女ゾンビかもしれんぞ~」

「まぁ、だとしたらアソコのキュウリバカが、反応してますわ…きっと」

「アルコールのせいかしら? 先生、雨で良く見えないけど…緑色に見えるんだけど?」

 立花先生、缶チューハイを片手に目を凝らす。

(緑色…で、人型のシルエット…キュウリを持つ男の背後に立つ…ハッ!?)

 小太郎の脳裏に在りえない存在がパフッと浮かびあがる。

「河童です‼ 小太郎、河童が寄ってきたのです‼」

 双眼鏡を覗きこむ冬華の興奮が急上昇している。

 足をバタバタさせている冬華。

 秋季がバスの窓をグイッと上げて叫んだ。

「夏男ー‼ うしろー‼」

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