第77話 きゅ~かんば~・すと~り~
「グスッ…グスッ…」
どしゃ降りの中、嗚咽しながらキュウリを探す夏男。
「畑を探さなくては…」
冬華の命令には逆らえないナニカがあるようだ。
「畑を耕すゾンビとか…見たことねぇけど…」
夏男の脳裏に真夏に汗して鍬を持って畑を耕すゾンビの画が浮かぶが、現実は今、夏男の目前でヨタヨタと歩いているのが正しいゾンビなのである。
ザシュッ…ザシュッ…
「なんでいるんだよ…」
山を下った先に広がる畑、数人のゾンビが畑仕事に精をだしている。
「この、雨の中で? おかしくないかー‼ この世界ー‼」
思わず叫ぶ夏男。
近づいてみれば、品質はともかく、キュウリもトマトも育っていたりする。
「奇跡…」
思わずキュウリを手に取って呟く夏男。
ボリンッと食ってみれば、ちゃんとキュウリである。
「可もなく不可もなく、しかしキュウリだ。奇跡…アゲイン…」
良く考えてみりゃ、スーパーで売ってたような気もする。
「ここが生産地だったのか…」
改めて日本の物流システム、およびインフラに感謝する夏男。
考えてみれば電機も水道も使えるのだ。
頑張っている日本のゾンビ。
「イッツ、ジャパンクオリティ…万歳、日本‼」
農家さんゾンビの働きぶりに思わず思わず万歳する夏男。
「ラッキーだったぜ‼」
早速、畑に入ってキュウリを、もぎ取る夏男。
「ちょっと貸せ」
ゾンビが被っていた麦わら帽子を奪い取る夏男。
「あうっ…あうあぅあ~」
「山賊王に俺はなる‼」
ドンッ‼
山賊というか…追剥である。
「うん♪ナスも持って行こぅ♪」
土砂降りの中、夏野菜を山賊した夏男、スキップしながらバスに戻った。
「ん? 帰ってきたです‼」
車内から双眼鏡を覗いていた冬華が雨の中スキップしながら帰還する夏男を見つけた。
「まぁ、ホントですわ…なぜ跳ねているのかしら?」
「この天気で跳ねるって…カエルくらいなんですけどね…」
「ハッハッハッ、夏男の様子がオカシイのは通常運転だ、気にすることはあるまい」
「先生…なんか、あの姿不気味さを感じるわ」
「あっ、転びましたよ」
「………なんか…起き上がらねぇぞ…エロメガネパイセン」
………
「あっ…あぁぁ…あぁ…うわぁぁぁー‼」
麦わら帽子にいっぱいに山賊した夏野菜、全部落とした夏男。
天を仰ぐように両手を広げ泣き出した。
そのときである。
スーッと雲の切れ間から陽の光が夏男を照らした。
「なんですか‼ 何が起きているですか?」
「まぁ…不覚にも神々しいですわ」
「こんな映画…見たことあるな僕…なんだっけ…プラトーンだっけな?」
「ハッハッハッ、あのまま天に召されるんじゃないのか? 夏男のヤツ」
泥に塗れたキュウリを握りしめる夏男。
「ムッ‼ 冬華、キュウリを確認したです‼」
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